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セイレーン


「うーん。いい加減鬱陶しいな。この歌声。大して上手くもないし」


私はノエルのお腹から降りて立ち上がると、ずっと聞こえていたセイレーンの歌声に文句を言う。


「……!」


ノエルは今の発言に目を見開く。


誰が聴いてもきこえてくる歌声は上手だ。


それを彼女は上手くないと言った。


耳がおかしいのか、頭がおかしいのか、ノエルには判断がつかなかったが、わかったことが一つだけあった。


目の前の女性を普通の人間の常識で測ってはいけない、理解しようとしてはいけないということだ。


「おい。てめぇ、今めちゃくちゃ失礼なこと考えてるだろ」


私は長年、詐欺師として生きていたからか人が何を考えているか表情から簡単に読み取れる。


だから、ノエルが何も言ってなくても表情から何を考えているかわかった。


「……!」


ノエルは慌てて視線を横にずらす。


言われた通り失礼なことを考えていたため、焦って全身から冷や汗が流れ出す。


また殴られるのかと身構えるが、わざとらしいため息が聞こえてきただけで何もされなかった。


ホッと安堵するが、目で「次はないからな」と訴えかけられ、首がもげるのではと思うくらい縦に何度も振った。


「それよりも、なんでうちの領地にセイレーンがいるんだ?アイリーンの調査では危険な魔物はいないはずだったんだけどな……全く困ったな」


'それが困った人間のする顔か?'


「目を輝かせてるくせに何言ってんだ?言葉と表情が噛み合ってないぞ」とノエルは呆れるが、これは言っては駄目なやつだと思い黙って見守ることにした。


「さてさて、どうしたものか。セイレーンの倒し方なんて知らないが……まぁ、なんとかなるか」


私は歌声のする方へと向かう。


私にはセイレーンが怖くて逃げないといけない魔物でなく、金になる生き物にしか見えてなかった。


だからか、恐れることなくセイレーンに歩み寄れたのは。


後ろでノエルが「馬鹿!戻れ!死ぬ気か!」と叫んでいるのは聞こえたが、無視してセイレーンに近づく。


セイレーンとの距離があと1メートルというところで止まり笑顔を向ける。


セイレーンは歌い続け近づくよう命じるが、私がそれ以上近づくことはなかった。


不審に思ったセイレーンは警戒するも、私が攻撃を仕掛けないのをみると、徐々に警戒を解いた。


フッと妖しく笑うとセイレーンは顔を変えた。


腰まであった青いウェーブの髪は艶のある真っ黒なストレートに変わり、瞳の色も同じように青から黒へと変わった。


肌の色は変わらず白いままだったが、顔は驚くほど変わった。


先程のセイレーンは可愛い顔立ちだったが、今は美しい顔立ちだ。


遠くから見ていたノエルは私の目の前にいる黒髪美人に一瞬で心を奪われた。


数時間前に会った人こそ理想の相手、運命の人だと感じていたのに、それを超える美人が現れて驚きを隠せないでいた。


だが、ノエル以上に驚きを隠せない人物がいた。


セイレーンの変わった顔を見て!


その顔はこの世界にきて、ローズ・スカーレットに憑依する前の、元の世界で花王美桜として生きてきた、本当の私の顔だったから。


'ああ、そうよ。私の本当の顔はこうだった。相変わらず、美しいわ'


私は本当の自分の顔を久しぶりに見てうっとりした表情を浮かべる。


自分で言うのもなんだが、と思いながら絶世の美女だと思っていた。


セイレーンはそんな私を見て「馬鹿だな」と笑っていたが、急に左頬に強烈な痛みが走り、気がついたら砂の上に倒れていた。


何が起きたかわからず左頬に手を添えながら「え?」と間抜けな声を出しながら顔を上げる。


すると、ゆっくりとこちらに向かってくる般若の顔したものが近づいてきているのが見え、情けない悲鳴をあげてしまう。


理解できなかった。


セイレーンは人の心を読み、愛するものの姿、理想な姿を知り変身できる。


セイレーンは今、人間の女の心を読んだ。


愛するものの姿はなかったが、理想とする姿を知ることができ、それに変身した。


間違いなく喜んでいたのに、それなのにどうして殴られたのか。


今まで食べてきた人間たちは全員、変身した姿を見ると喜びながら近づいてきた。


だから、今回も近づいて油断しているところで海に引き摺り込もうと思っていたのに、なぜか自分が陸に上がらされた。


そもそも、なぜ怒っているのか理解できなかった。


セイレーンは変身した顔が誰のものか知らないため、殴られたことに困惑するのも無理はない。


セイレーンが今変身している姿が目の前にいる人間の本当の姿だとは知らない。


だから、勝手に使われて怒っているとは想像もできない。


'はぁ。全く、勝手に人の顔を使っておいて、その程度なの?私はもっと美人よ!やっぱり、同じ顔でも人が違えば印象も変わるのね'


私は深くため息を吐きながら、勝手に人の価値を下げたセイレーンに大して怒りが湧いてくる。


「悪く思わないでね。先に殺そうとしたのはあんた。これは立派な正当防衛。心配しなくていいわ。お仲間の人たちも、みんなすぐにあんたと同じところに行くからさ」


そう言うと私は魔法でセイレーンを殺そうとするが「待って!お願い!私の話を聞いて!」とセイレーンに訴えられる。


それを聞いて話を聞くか悩んだが、4人が帰ってくるまで暇なので、暇つぶしに話ぐらい聞いてやるかと魔法を中断すると、セイレーンの顔が歪み「みんな!今よ!」と叫んだ。


'あ、やっちゃった'


そう思ったときには遅かった。


セイレーンたちの水魔法で抵抗する暇もなく海の中へと引き摺り込まれた。


私に殴られたセイレーンは恨みを晴そうと口を大きく開け、尖った牙で私を噛み殺そうとしたが、水の妖精王、直々に教えてもらった魔法を逆にお見舞いする。



水魔法 3の舞  水拳



この魔法はその名の通り、水で作った拳を相手にぶつけるだけのものだ。


ただ、これはアイリーンが作った魔法なので、普通の水魔法より威力が強烈だ。


私は一発したか放たなかったが、アイリーンなら余裕で1秒に1万回放つことができる。


これを食らったセイレーンは血を吐きながら、また陸へと上がる。


ただ、今回は強烈な一撃を食らったため意識を失ったので自力で海に戻るのは不可能になった。


「さてと残りもアイリーン直伝の魔法で終わらしますか」


ザッと見た限りセイレーンの数は30前後。


普通なら勝つのは無理だ。普通なら。


残念ながら私は普通ではない。


妖精王、悪魔の王、冬の王と契約し、加護を受けている。


そのため、彼らより弱い存在の攻撃など効かない。


それに今回の戦闘は水の中。


アイリーンの加護を受けている私は水の中での戦闘は陸の時より、10倍強くなる。


もちろん、他の2人の炎と冬の時も同じく強くなるが。


とにかく、今回の戦闘は例えセイレーンの数が100だろうが、1000だろうが負ける可能性は限りなくゼロに近い。


アイリーン直伝の魔法を使わなくても勝てる自信がある。


'まぁ、使うけどね'


獅子は兎を狩るにも全力を尽くす、と言う言葉があるように、例え勝つのが決まっていても全力で相手するのが礼儀というものだ。


私はセイレーンたちに笑いかける。


'くらいやがれ。クソどもが!'


そう心の中で呟いたのと同時に魔法を発動させる。


水魔法 17の舞  龍の鉄槌



魔法陣から水の龍が現れ、セイレーンたちに襲いかかる。


全員、成す術もなくやられ、そのまま陸にあげられた。




※※※




同じ時刻のその頃の4人は、ようやくフリージア領地の近くの海についていた。


少し離れたところからでもフリージア領地の不穏な空気を感じ取れた。


特に墨でも入れたのかと疑いたくなるほど海が真っ黒だった。


緑に囲われた美しさが自慢の領地とは思えないほど枯れていて、4人は思った以上に深刻だなと感じていた。


だからといって何かするわけではない。


これは領地が絡む問題だ。


勝手なことはできない。


そんなことをすればスカーレット家に迷惑がかかる。


この現状を知って何もできないことに、アスターとアイリーンは心を痛める。


命令されていない以上、勝手なことはできない。


ルネとシオンは悪魔だからか、元々助けるつもりなどなかった。


もし、2人が助けようと言ったら反対するつもりだった。


命令されてないことをしたら悪魔のような凶悪な顔で怒られ、ご飯を没収されるおそれがあったから。


結局、2人は「助けよう」とは言わなかったのでその心配は危惧に終わった。


言われたことだけをやろうとセイレーンを探そうとしたそのとき「ご主人様が魔法を使った」とアイリーンが言った。


それを聞いた3人は「だから何だ?」と思った。


悪魔の王と冬の王を脅して契約させるような奴が死ぬとでも?


ましてや妖精と悪魔の王たちの加護を受けた人間が?


心配するだけ無駄だと、3人はセイレーン探しを開始する。


アイリーンはそんな3人に少しは心配する気持ちはないのか?と怒りを露わにするが、ルネに「お前、主人のこと信用してないのかよ」と馬鹿にされ、腹を立てるがその通りだと思い、今は命令されたことを優先させるべきだと思い直す。


それに、さっさと任務を終わらせれば帰れると考え。

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