表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/111

人助け


「……で、気づいたら急に海が荒れ出して、必死に泳いでいたら、何が起きたのかわからないまま海の中から放り出され、宙を泳ぎながら落下していたら、ここに降りて、あんたらに会ったってわけだ」


どうだ、何か手がかりは見つかったか、と期待するような目を向けられるが、私がノエルの今まで起きたことの説明を聞いて一番最初に思ったことは……


'つまり、この姿はこいつの自業自得ってことだろ?愛する女にこの姿にされたんなら元に戻さなくてよくね?助ける必要なんてあるか?'


だった。


傍で聞いていたルネ以外も同じ気持ちなのか、なんとも言えない表情をしていた。


ただ一人、ルネだけは「こいつ馬鹿だ」と大笑いしていたが。


「おい。なんとか言え……じゃなくて言ってください」


説明したのに、何も言わないことに怒ったノエルは文句を言うが、私が睨むと目線を下に下げ小さな声で言い直す。


「助ける方法でしょう?ちゃんと考えてるわよ。ただあんたの話を聞く限り、自ら望んだことじゃん。運命の相手と一緒になりたかったんでしょ?」


'女がどれだけ美人だったかは知らないけどさ'


「それに、化け物に首噛まれてその姿になったんなら死んでじゃね?人間に戻すどころの話しじゃなくね?」


口調にはこの世界にきてから気をつけていたが、あまりにも馬鹿げた話を聞いてつい素が出てしまった。


「……!」


ノエルは私の発言に確かに自分は首を噛まれて死んだんじゃ、と気づき慌てて首を確認する。


だが噛まれた跡はなく、死んでこの姿になったのかと絶望する。


「お、おれ……一生この姿なのか?」


'そんなの私が知るわけないじゃん。この世界の人間じゃないんだし'


そう思いながらアイリーンの方を見るが、彼女もよくわかっていないのか首を横に振ってどうしたらいいかわからないと示す。


フリージア侯爵に恩を売るにも、長い付き合いをするにもノエルを助けないといけない。


助けてくれと言われ自信満々に任せろと言った以上助けられなければ恥じをかく。


なんとしてでも助けたいと思うが、死んで魚人に生まれ変わった者をどうすれば元に戻せるのだろうか。


'無理だよな。絶対無理だよな。どう頑張っても無理だよな。うん。仕方ないよ。これは、無理なんだから諦めよう'


そう決めた瞬間、シオンが頭の中に直接話しかけてきた。


『主人。もしかしたら、その男まだ死んでないかもしれません。微かですが、その男から妖精の魔力を感じます』


「妖精?妖精ってどういうこと?てか、死んでないの?こいつ?首噛まれたのに?」


私はシオンの発言に驚く。


そもそも妖精王のアイリーンは気づかなかったのにシオンは何故きづいたのか?


いろいろ気になるところがあるが、首を噛まれたのに死んでいない可能性があることに驚きを隠せない。


『はい。確認しないことにはなんとも言えませんが、可能性は高いと思います』


「出ていいわ。頭の中で話しかけられるの気持ち悪いし、何より死んでないなら助かるわ。早く確認してちょうだい」


私がそういうとシオンは出てくるがルネまで出てきたため「あんたへの許可じゃないわ」と言って戻るよう睨む。


ルネはかわいこぶるが可愛くなく、本来の姿を思い出すと吐き気がした。


気持ち悪すぎてやめるよう指示を出し、さっさと戻れと言って背を向ける。


ルネは心の中でありとあらゆる言語の罵倒をしていたが、大人しく言われた通り砂の中へと戻った。


「それでどう?死んでるの?生きてるの?」


ノエルの全身をくまなく調べているシオンに人間としての生死を尋ねる。


「かろうじてまだ生きてるが、あと半日で人間として完全に死に魚人となるな……あ、なります」


シオンはタメ口になっことに気づき慌てて敬語に戻す。


「どうすればいいの?てか、さっき妖精がどうとか言ってだけど、アイリーンは何か感じる?」


そう尋ねるとアイリーンは申し訳なさそうに話し出す。


「すみません。ご主人様。その者を守護しているのは水の妖精です。言われるまで気づきませんでした」


千年以上封印されていたため、本来の力の10分の1の力も回復していない。


その上、自分が妖精王と気づかれないよう魔力を調節し、悪魔の王と冬の王の正体にも気づかれないよう二人に結界を覆っている。


そしてスカーレット領地にいる者たちを敵から守るための巨大な結界も張っている。


気づかないのは無理もない。


寧ろ、アイリーンばかりに負担を強いていた私が悪い。


「ううん。アイリーンは悪くないわ」


「ですが……!」


水の妖精なら自分の配下。気づけて当然だ。


それなのに気づけなかった自分が間抜けでアイリーンは自分が嫌になる。


「いつも助けてくれてありがとう。だから、気にしないで」


「ご主人様」


アイリーンは私の言葉に感動したのか目を潤ませ今にも泣き出しそうだった。


そんな私たちのやり取りを静かに見守っていたノエルは「なんだこのクソな茶番は?」と今にも吐きそうな表情で近くにいるシオンに助けを求める。


だが、シオンはそんなノエルの助けに気づかないほど衝撃を受けていた。


アイリーンとの扱いの差は日頃の自分の態度も関係しているから、少しは仕方ないと納得していたが、今は許せなかった。


'感謝を伝えるのはその女ではなく自分ではないのか'と!


まだ人間として生きていると気づいたのも、妖精の存在に気付いたのも自分なのに、今その言葉を受け取るのは自分のはずではと怒りが込み上げてくる。


シオンは怒りに体を震わせているとふと頭に何かが触れた。


下を向いていたため触れられるまで気づかなかったが、すぐにそれがローズの手だとわかった。


自分ではなくアイリーンを褒めたことに一言文句を言ってやろうと顔を上げると、今まで見たことないくらい美しく微笑んでいて何も言えなくなった。


「シオン。よく気づいた。褒めやる」


アイリーンと違い上から目線の感謝の仕方にいつもなら「何様だ」と心の中で何度も文句を言っただろう。


だが、今は風で髪が靡き、太陽の光で輝き、聖女のような優しい顔をしたローズを見てシオンは不覚にも美しいと目を奪われてしまった。


すぐに我に返り自身の頬を叩き「あれは、悪魔よりも悪魔な女だぞ!なに綺麗だなんて思ってんだ!俺の馬鹿!一緒にいすぎて俺まで頭がおかしくなったのか!」と必死に目を奪われた事実を否定しようとする。


急に自分の頬を叩き出すシオンを見て私は「やっぱり、悪魔ってイカれてんな」と改めて思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ