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海 3


決着はすぐについた。


結論から言うと砂の化け物の勝利だった。


魚人は化け物に負けたことがショックなのか、砂の上に倒れたまま動かない。


「当然の結果ね。私は化け物じゃなく美女なんだから」


'今は他人の顔だから違うけど……'


でも、中身は美人だから問題ないと言い聞かせる。


「それで、化け物。あんたは何者なの?」


勝った以上、化け物は私ではなく魚人。


勝者の特権で倒れている魚人を馬鹿にしながら見下ろす。


'このクソ化け物が……!'


ムカつく笑みを向けられ腹が立つが、負けた以上化け物と罵ることはもうできない。


その約束すら守れないようでは化け物以下の存在になると思い、黙って耐える。


もし買っていれば俺がこの化け物に恥辱を与えられたのに、と負けた自分が許せないが、勝てる気がしないので次は力勝負ではなく頭で勝負して、この屈辱を100倍にして返してやると決意する。


「おい!さっさと質問に答えろ!化け物!」


私は答えようとしない魚人の頭を容赦なく叩く。


「はい。俺はガイラン・フォリアと言います」


「……なんか人間みたいな名前だね」


この世界では人間以外の種族は基本名前だけ。


姓はない。


「そりゃあ、俺は人間ですから」


何言ってんだ?と思いながらガイランはそう言う。


「……!?」


私は今のガイランの発言に驚きすきで目が飛び出るのではと思うくらい見開いた。


'人間?え?どういうこと?その姿で人間?え?冗談だよね?'


私は知らない間に人間の姿が魚人に変わったのかと思うくらい動揺するも、すぐに冷静さを取り戻すとガイランの頭をはたきこう言った。


「どこに化け物の姿をした人間がいるのよ。人間っていうのは私みたいな顔をしてるものなことを言うのよ」


「……?」


ガイランは私の言葉が理解できないのか、首を傾げながらこう思っていた。


'お前こそ自分の顔みろよ!誰がどう見ても俺が人間で、お前が化け物だろ!'


2人共、互いのことを頭のおかしい者と認識していたため、これ以上会話をしたくないと思っていた。


だから「さっさとここからどっかけいけ」と思っていたが、両方ともその場から動こうとせず苛立ちが募っていった、そんなとき「お嬢様……?」とアスターに声をかけられた。


疑問系で名前を呼ばれたことに引っ掛かるも、いいタイミングできたと後ろを振り返ると「とうとう化け物になられたんですね」と感情のない目を向けられた。


「殴られたいのか?」


私は笑顔で言うと「それ、殴りかかる前に言いません?ふつう」とアスターは攻撃をかわしながらそう言った。


「おい。よけんな。一発殴られろ」


本当はバトル小説の主人公の顔をボコボコにしたいが無理だとわかるため、一発でもいいから殴って馬鹿にしたかったのに、余裕でかわされ腹が立つ。


「え、嫌です」


アスターは笑顔で言う。


「はぁ。もういいや」


私が諦めるとアスターは逃げるのをやめる。


'そもそも、殴るよりいい罰があるじゃない。主人に向かって化け物と言ったからには覚悟しろよ'


いい仕返しを思いつき、フフッと笑いながらアスターを見ると、その表情を見た瞬間、全身に悪寒が走り鳥肌までたった。


'嫌な予感がする'


そう思うも、アスターは何をされるかわからず身構えることしかできない。


せめてもの時間稼ぎに魚人のことを尋ねた。


できれば魚人のことで頭がいっぱいになり、今のやり取りを忘れてくれればなと思っていた。


「あー、この化け物ね……」


よく知らない、と続けようとするが「ご主人様ー!」とアイリーンの声によって遮られた。


「え?アイリーン?いったいどこに?」


周囲を見渡すも見つからない。


本当にどこにいるんだと思い、目を凝らしながら探すと、海の上を小さな水色の塊が動いているのが見えた。


「あ、あれか」


そう呟くのと同時に「ご主人様!」とアイリーンがまた叫んだ。


「申し訳ありません。ごしゅ……何があったのですか!?ご主人様!」


離れていた間にいったいご主人様の身に何があったのかと心配になる。


自分が離れたことで化け物の姿になったと思い、離れたことを後悔する。


「ああ、これね……」


砂まみれのことを言っているのだとすぐに気づく。


チラッとガイランの方を見てから「あいつにやられたの」と言う。


「……!?」


アスターとガイランは「え?何人のせいにしてんの?」と思うも、本当にこの姿はガイランのせいでなったので嘘はついていない。


「貴様!ご主人様に何をする!許さない!」


アイリーンはキッとガイランを睨みつけると魔法を発動させ、大量の水の塊を宙に浮かせた。


「わぁお!」


私は圧倒的な力を目の当たりにして感動する。


この力がヒロインではなく自分のものだと思うと嬉しくて顔がにやけてしまう。


「……」


そんな私とは対照的にガイランはこの世の終わりみたいな顔でアイリーンの魔法を見上げる。


「舞え。水蝶」


アイリーンがそう唱えると水の塊が蝶の形へと変化し、一斉にガイランに向かって突き進む。


ガイランはなす術もなく攻撃を受け続ける。


「アイリーン。もういいわよ」


アイリーンのおかげで気分が良くなりガイランが死ぬ前に止める。


「……」


アイリーンはまだやりたそうだったが、私に「もういい」と言われ渋々攻撃をやめる。


'助かったのか……'


攻撃が止まり、ガイランは顔を上げるが、まだ宙には水蝶がいた。


いつでも攻撃が再開されると思い、慌てて顔を下げる。


'誰か助けてくれ!このままでは化け物の仲間に殺される!'


そう心の中で叫んだそのとき、どこからか声が聞こえてきた。


人が近づいてきているのかと思い、助かったと声のする方を向くと、そこにいたのは小さい子供とその頭の上に不細工な黒い鳥だった。


'終わった……'


希望が見えた瞬間、それは儚く散った。


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