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バニラアイス 3


「その人物は……」


全員が私の口元に集中する。


最初の口の形で自分が呼ばれるかどうかわかるから。


「う」


その形になった瞬間、大半が落胆し、最初の文字の者は自分だと期待する。


次の形は「い」


それで、もう3人に絞られた。


騎士のウィル、ダークエルフのウィンター、料理人のウィニー。


3人は絶対に自分だと確信する。


次の言葉で誰が選ばれるかわかる。


3人は目に全神経を集中させる。


そのせいで目は血走り、他の人から見たら目だけ化け物に見えた。


「ん」その口になった瞬間、誰が選ばれたの確定した。


「ウィンター。最後の一人はあなたよ。おめでとう」


そう言うと私はウィンターに笑いかける。


「……!」


ウィンターは自分の頑張りを認められて喜ぶが、理由を聞いた瞬間複雑な気持ちになった。


「理由は新たな調味料を発見したことよ」


ウィンターが発見した調味料とは、初めて会った日に教えてくれた実のことだ。


「その調味料は胡椒というの。とても万能でね……」


また、胡椒を使った料理を食べられると思うと幸せで顔が緩む。


ウフッ。


今日何度気持ち悪い顔を晒しているか私は気づかないまま笑い続ける。


「お嬢様」


オリバーが急に黙り込んだ私を見て、今度は何を考えているのかと思いながら名を呼ぶ。


「ん?ああ、ごめん、ごめん」


大して悪いと思ってないが一応謝る。


軽く咳払いしてから選ばれた理由の続きを話す。


「えっと、それでその胡椒はどんな調味料というかとね、基本どんな料理にもあうものなのよ。肉にかけても、魚にかけても、野菜にかけても、スープにかけても美味しいものなの」


他の調味料にも胡椒みたいになんでもかけて美味しいというのはあるが、定番は胡椒だろう。


「つまり、簡単に言えばウィンターのおかげでこれから結構な量の美味しい料理を食べられるようになったの」


胡椒一つあれば基本どうにかなる。


元の世界のとき、他の調味料がなくなってご飯をどうするか悩んだとき胡椒さえあれば万事解決した。


肉や魚、好きなほうを焼いて胡椒をかければおかずはすぐ出来上がる。


味噌汁はインスタントでいいし、サラダはなかったら諦めればいい。


あとは白ごはんがあれば完成だ。


ただ、この世界には味噌がないので味噌汁は飲めない。


稲はあるが米を食べる人はいないため、この世界に米という食べものを知ってるものはいない。


そう考えると米を独り占めできるため、嬉しくてつい笑顔になる。


いや、今は米じゃない。胡椒だ。


これ以上余計なことを考えないように胡椒だけに集中する。


「今日から胡椒を使った料理を解禁する!全員食べたいか!」


「食べたいです!!」


新たな調味料を使った料理を食べたくないはずがない。


彼らの声量は私の耳の鼓膜が破れるのではと思うほど大きかった。


「よろしい!では、今日の昼食は胡椒を使った料理よ!」


頭がクラクラするが、なんとかそう言うと大歓声があがる。


「とりあえず、胡椒の話は一旦終わり!今からは待ちに待った新作スイーツ、バニラアイスの贈呈をするわよ」


結果発表まで結構な時間がかかったが、バニラアイスをのせている皿はシオンの作った氷を使っているので溶ける心配はないが、自分が食べたくなってきて、これ以上先延ばすのが嫌になった。


食べれる3人を前に呼び、椅子に座らせ彼らの前にバニラアイスを置く。


私もシオンの隣に座り、自分用のバニラアイスを置く。


3人より多めにしたのを。


「それじゃあ、食べましょうか」


「はい!」


3人は元気よく返事をし、スプーンを手に取りアイスを掬う。


そのまま口まで運ぶ。


「美味しいっ!」


3人はあまりの美味しさに驚く。


口に入れてすぐ白い食べ物は舌の上で溶けたが、口の中で甘さが広がり、なくなった後でもその味が残った。


匂いは初めて嗅いだものだったが、上品な感じで不快に感じなかった。


匂いを楽しむ生活とさっき言われた言葉を思い出し、この匂いの香水なら欲しいと思ってしまう。


3人はバニラアイスの美味しさと匂いにすっかり虜になった。


気づけば全て完食してしまっていた。


食べれた幸せを噛み締めたいのに、もう食べれないという事実が悲しくて、3人の情緒はおかしくなってしまう。


「いいな。俺も食べたい……」


誰かがそう呟いた。


その声はとても小さく誰の声がまでは判断できなかったが、私の耳にははっきりと聞こえた。


'近いうちに食べれるわよ。ただし、これには金を払ってもらうけどね'


近いうちにアイスの店を出すつもりだ。


ただし、スカーレット領でだけ。


国王には教えてもいいが、教えたら他の貴族たちにも知られる。


ただでさえ、砂糖とシロップ、氷を見つけて目をつけられてるのに誰も食べたこともない料理を作れると知られたら面倒なことになるのは目に見えている。


最悪、王宮から一緒出られなくなるかもしれない。


死ぬまでこき使われるのは目に見えている。


いつかは知られるが、それは今ではいけない。


力をつけて国王ですら、この地に手を出されないようにしてから出ないと、せっかく築き上げたものを奪われてしまう。


せめて一年の猶予は欲しい。


そのためにも金が必要になる。


楓のシロップを収穫できるのはまださきだ。


だからこそ、今のうちに氷を売らなければならない。


ジャムも金にはなるが氷には及ばない。


シオンには夏の間、私のために馬車馬のように働いてもらわなければ、と思い笑いかけると嫌な予感がしたのか、一瞬で顔が真っ青になった。


'俺、もしかして今日死ぬのか'


不細工な顔ではないが、今まで見たなかで1番怖い笑みを向けられたシオンは死を覚悟した。


ある意味その予想どおり、シオンは夏の間、何度も死にかけいっそ殺してくれと思う日々が続いた。

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