新たなスイーツ
「そういえば、お嬢様」
オリバーがふと思い出したような口調で話しかける。
「ん?なに?」
「最近、社交界に全く顔を出していないようですが、あれにも出ないつもりですか?」
「あれ?」
あれ、と言われてもわからない。
「もしかして、お忘れなのですか?」
オリバーは信じられないものを見たような顔で私をみる。
「なんかあったけ?」
私がそう言うとオリバーは嫌味ったらしくため息を吐いてからこう言った。
「カミュザ侯爵夫人が開くお茶会です」
「あ〜、あれね」
ラブロマンス小説の方で説明されていた。
但し、小説には「カミュザ侯爵夫人のお茶会は令嬢たちが行きたいと望む最も人気なものだ」としか書かれてなかったのでどんなものかは知らない。
知ってても行かないが……
今はお茶会や社交界に行っている暇はない。
この世界では階級は絶対。
舐められないためにも、この領地を世界一の都市にしなければならない。
遠くない未来で私が悠々自適に過ごすためにも!絶対に!
「今回はいいわ。それどころじゃないし。それに今いけば、男爵令嬢の私は安く氷や他のものを売らないといけなくなるかもしれないでしょう」
そんなことには絶対にならないと思いますが、とオリバーは心の中で呟く。
「とにかく、まだ社交界にはいかないわ。次いくとしたら……そうね、来年の王族のパーティーかしら」
貴族全員が参加するあのパーティーだ。
私がこの世界にきたとき男爵夫妻がいっていたパーティーだ。
家族の誰かがいけばいいが、きっと国王直々に私に来るよう招待状を送るはずだ。
そうなれば断れない。
それ以外は全部断ろう。
その間に力をつけないといけない。
時間はあまり残されていないし、これから馬鹿な奴が絶対イチャモンをつけてくるだろうから遊んでる時間はない。
「今からクソどもを相手にするのが本当に楽しみだわ」
今から想像するだけで笑えてくる。
急に高笑いするローズをみて、相変わらず凶悪な笑みだな、とオリバーは声には出さなかったが顔に出しながら死んだ魚のような目をして傍にいる。
※※※
パーティーに行かない宣言をした翌日。
私は朝早くに庭で大声を出す。
「はい!ちゅうもーく!」
スカーレット家に仕える使用人、騎士、エルフ、ダークエルフ、妖精王、悪魔の王、冬の王は庭の中心で壇上に立つ私に言われた通り視線を向けるが「今度は何をするつもりだ?」と一部のものは不審な目をする。
「これより重大なお知らせをしまーす。よく聞いてね」
ゴホンと咳払いしてからこう続ける。
「私は新たなスイーツを作ることにしました!」
私がそう言うと皆、最初はポカンと口を開けて固まるも、理解すると嬉しくて歓声をあげる。
少しして静かにするよう合図をして続きを言う。
「ただ!全員にあげることはできないの」
全員は無理ということは誰かは食べられる。
皆、どうやったら食べられるのかと早く続きが聞きたくなる。
「新たなスイーツは3人にだけ食べれる権利をあげるわ」
'3人……少なっ!'
私の発言に全員が言葉を失う。
今ここで話しを聞いている者は約300人。
その中から3人となると100人に1人しか食べれないことになる。
さすがにそれは、と思うもきっとお嬢様のことだから公平に判断してくれるはずだと考え直し、自分が食べれればいいと思う。
「選ぶ基準はスカーレット家にどれだけ貢献したかで選出するわ。私が一人一人見て誰が貢献したか公平に判断する。これは月に一回することにするわ。今回選ばれなくても次頑張れば新たな新作料理を食べるチャンスが与えられるってことよ。説明は以上。それじゃあ、みんな。頑張って貢献してね」
私はニコッとみんなに笑いかける。
「「「はい!」」」
全員元気よく返事をし、仕事へと戻っていく。
新作スイーツが何かわからないが、お嬢様の作る料理は全て美味しいとわかっているので、選ばれるよう頑張って働こうと気合いをいれる。
「うん。うん。これで、スカーレット家も更に発展するわね。そう遠くない未来で大陸一の領地になるわ」
昨日とはうってかわり仕事に励む姿をみて満足げに頷きながら屋敷へと戻る。
貴族たちへの氷の手配と新たな調味料を完成させるため、私も仕事へと戻る。
そうしてスカーレット家に仕えるものたちは新作スイーツを食べる権利を手に入れるため、日々仕事に励んで過ごしているとあっという間に時が経ち、結果発表の日がきた。
私は約束通り特に貢献した3人に新作スイーツを食べさせるため、眠いのを我慢して朝早く、空がまだ暗いときに起きてご褒美のスイーツを作った。
そのせいで寝不足で、横になれば寝てしまいそうになほど眠たい。
あくびを我慢しながら庭で結果発表を今か今かと待っている皆のところへと向かうが、眠くて歩くスピードがゆっくりになる。
「あ〜。眠い」
我慢できずにカートを押しながら結局、何度もあくびをしてしまう。
※※※
「それでは今からこの1ヶ月、最も貢献した3人を発表したいと思いますが、その前に新作スイーツのお披露目をしたいと思います」
私は壇上に立って皆を見下ろしながら宣言する。
「……」
皆、そういうのはいいから先に食べられる人を発表してくれと不満な顔をして抗議するも、相手が悪かった。
抗議したところで受け入れてもらえるはずなどないのだから。
そのことをすっかり忘れていた。
「拍手!」
誰も反応をしないので自らそうするよう指示を出す。
ローズの顔が怖すぎて、みんなは慌てて拍手をする。
別に新作スイーツのお披露目が嫌なわけではない。
寧ろ、それも楽しみだ。
いつもなら歓声をあげて喜んでいる。
そう、いつもなら。
だが、今日は違う。
先に自分が食べれるのか食べられないのかが知りたくてそれどころではない。
それだけローズの作る料理は美味しいのだ。
「ではでは、発表したいと思います。ドゥルルルル……」
私は壇上から降りてカートに乗せた皿を一つ取る。
そうしてまた壇上に立つ。
皿の上にはクローシュが被せられているので中は何か見えない。
「ジャ、ジャーン!」
そう言ったのと同時にクローシュを取り、中を見せる。
「……」
全員初めて見る白い料理にどう反応すればいいか戸惑う。
美味しいのは間違いないだろうと経験上わかっているが、量は少ないし、匂いはしないし、本当に美味しいのかと疑ってしまう。
「お嬢様。それはどんなスイーツなのですか?」
アスターはローズと自分たちの温度差があり過ぎて、このままでは「食べたくないのか。それなら、全部私が食べる」とか言い出しそうで慌てて説明を求める。
「いい質問ね。これはね……」
全員がローズの口元に集中する。
「バニラアイスよ」
'バニラアイス?なにそれ?'
全員が初めて聞く料理名に目が点になる。