かき氷
「それで、この土地で野菜やそれ以外も育てることはできますか?」
「もちろんできます。我々はエルフです。どんな土でも、望むものを作るとこができます。来年には大量の野菜達を収穫できるとお約束します」
「それはそれは、とても頼もしい限りですね。期待しています」
さすが、エルフ!、と私は頭の中でグッジョブポーズをする。
「主人様。なにをお望むでしょうか」
「そうですね。全部と言いたいところだけど、流石に難しいですから。とりあえず……」
私は野菜の名前を挙げていく。
「……ってところですね。あ、それと稲もできますか?」
「もちろんでございます」
「それじゃあ、それもお願いします。後で追加でお願いするのも出てくるかもしれませんが、そのときはまた頼みますね」
「わかりました」
エビネはローズの笑みを見て、これは拒否権ないな、と悟る。
「では、畑はエルフの皆さんにお任せします。何かあれば言ってください」
「はい。それと、主人様。これからは我々、エルフに敬語を使う必要はありません。我々はスカーレット領民になりましたので」
「わかったわ。これからそうするわ」
「はい」
エビネは頭を下げ、己の立場を示す。
ここまでしなくてもいいのに、と思ったがせっかくの好意なので素直に受け取る。
私はエルフ達への用件を済ますとまた屋敷へと戻る。
※※※
「気に入りましたか?天ぷらは?」
私は屋敷に戻るとまずダークエルフ達の元へと向かった。
「はい!とても気に入りました!」
ウィンターは目を輝かせて返事をする。
周りにいたダークエルフ達も同じような目をして私を見る。
「あの、この天ぷらを考えたのは主人様だと聞きました。本当ですか?」
名前も知らないダークエルフが恐る恐る話しかけてくる。
「ええ。本当よ。他の料理も私が考えたわ」
正確に言えば、元の世界で食べていた料理をこの世界で作っただけ。
考えたのは昔の人達であって私ではないが、この世界では私が初めて作った人間なので嘘は吐いていない、とそう自分に言い聞かせる。
「……!」
ダークエルフ達はさっきよりも目を輝かせる。
「あなた達が私のいう通り毎日働いてくれたら一日三食、美味しい料理を提供するわ。どう?働く?」
契約した以上、ダークエルフ達に拒否権などないが、これはやる気の問題だ。
無理矢理やらされるのと自ら率先してやるのでは作業のスピードも私に対する想いも変わる。
胃袋さえ掴めばこちらのものだ。
私は彼らの答えを聞く前から答えがわかっており、喜びのあまり顔がにやけてしまう。
「やります!」
ダークエルフ達は一斉に返事をする。
「そう。じゃあ、早速働いてもらうわ」
「はい!何なりとお申しけください!」
ダークエルフたちは一斉に跪き、指示を待つ。
「あなた達には果物の種や苗、甘味料、調味料の原料を手に入れてもらうわ。この時期に手に入れられる物を書いた紙を渡すから探してきて。急がなくてもいいわ。ただ……」
'ただ……?'
ダークエルフ達はその続きが何故か無償に気になり首を傾げる。
「早い方がまだ食べたことない美味しい料理を早く食べられるわ」
私がそう言うとダークエルフ達のやる気が上がり、目から炎が見える。
「お任せください!主人様!我々が必ず見つけて見せます!」
「ええ。任せるわ」
本来ならこれは私がやらないといけないことだと思っていたが、ダークエルフ達を手に入れられたことで仕事を押し付けることに成功した。
嬉しすぎて顔がにやけそうになる。
私はランタナに見つけてきて欲しいリストを渡す。
名前だけではわからないので私が描いた絵も一緒に。
元々最初はアスター達に見せて、一緒に探すつもりだったので描いていて良かったと改めて思った。
「では、行ってまいります」
「うん。ご飯の時間までには帰ってきてね。無理はしなくていいから」
無理して体調崩して探す時間がなくなる方が問題だから、と心の中で言う。
「はい。お気遣いありがとうございます」
ダークエルフ達は私の今の言葉が、自分達を気遣ってくれてからのものだと思い、嬉しくて目頭が熱くなる。
時々顔が悪魔みたいに怖くなるが、本当は優しい人なんだと今ので全員が思った。
そう思うのも無理はない。
ダークエルフたちは今までこれほど最高のおもてなしをされたことも、気遣われたこともない。
彼らがローズをいい人と思ったのは、今まで出会ってきた人達が酷かったからだ。
まだ、ローズのために全てを差し出すことはできないが、それでもそれ相応の恩返しはしたいと全員がそう思った。
「行ったな」
ダークエルフたちが何個かのグループに別れて去っていくのを見て呟く。
「お嬢様。一体何を頼んだのですか?」
ずっといたが、邪魔してはいけないと思い黙って見守っていたが、一体彼らに探させるものが何か気になって聞かずにはいられない。
新たな美味しい料理も早く食べたくて私の答えを待つ。
「聞いていた通りよ。まだ誰も知らないものをこのスカーレット領に誕生させるのよ」
「……それで金儲けをすると」
ローズの悪い顔からそう推測する。
「ええ。その通りよ。よくわかったわね」
「まぁ。勘ですかね」
口ではそう言ったが、実際に心の中で思っていたことは「あれだけ一緒にいれば、いやでもお嬢様の考えそうなことはわかりますよ」だった。
「そう。なら、これから私があなたに頼むことは何かわかるよね?」
'イヤな予感がするる……'
アスターは私の笑みを見て全身に悪寒が走った。
「……」
「ちょっと、黙り込まないでよ。わかってるんでしょう」
「国王陛下にお嬢様の手紙を届けるんですよね」
「正解!よくわかってるじゃない。頼んだわよ」
'やっぱり……'
アスターは頭を抱える。
男爵に国王に手紙を出す許可をもらった時点でこうなるのではないかと予想していた。
また、面倒な仕事を押し付けられたと頭が痛くなる。
「……はい」
「じゃあ、今から書くから準備しといて」
「……はい」
「じゃあ、これ陛下に渡してね」
「はい。わかりました」
アスターは手紙を受け取り懐にしまう。
「アイリーン。お願い」
「はい。お任せください」
アイリーンはアスターと馬に付与魔法をかける。
アスター、一人なら一週間もかからず王宮までいける。
だが、アイリーンの魔法をかけられた状態なら三日でいける。
「じゃあ、任せたわよ。帰ってきたら約束通り氷のスイーツを食べさせてあげるから、ちゃんと返事をもらってきてね」
私がそう言うとアスターの表情がかわる。
死んだ魚のような目から、輝き満ちた目になる。
「はい。お任せください」
そう言ってアスターは王宮へと向かっていった。
「全く。現金なやつだな」
私はあまりの変わりように呆れてしまう。
「ですね」
アイリーンが笑いながら頷く。
「さてと、私達は氷のスイーツを食べようか」
「はい。ご主人様」
アイリーンはやっと氷のスイーツが食べられると思い目を輝かせる。
この後、私、男爵夫妻、アイリーンの四人でかき氷を食べた。
この時代にシロップはないので、砂糖水をかけて食べた。
三人は初めて食べるかき氷に魅了され、毎日食べたいと思うようになった。