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雪男


「あの、本当にこの量を全て俺が運ぶんですか?」


シオンは嘘だと言ってくれと願う。


だが、その願いも虚しく「そうよ」と私は答える。


「何よ。文句あるわけ」


シオンの顔にやりたくないと書いてある。


「ありません」


悪魔の王より強いローズに逆らうという選択肢は彼にはないので「喜んでやります」と言う。


「そう。それでいいのよ。それに、これは料理を美味しくする調味料なの。これを領地まで運んでくれたら、さっき食べた料理と同じくらい美味しいものを褒美として作ってあげるわ。どう?やる気出た?」


「出ました!喜んでやらせていただきます!」


さっきとは顔と声の声量が全然違う。


現金なやつめ、と思うもやる気が出てくれたおかげで早くアイリーン達のところに戻れそうだ。


私はシオンが集めた大量の木を見て顔がニヤける。


これだけあれば間違いなく大量のお金が入ってくる。


私はまず誰に売りつけるかを考える。


もちろん、先に売りつけるのは氷だ。


「主人様。終わりました」


「うむ。ご苦労。よくやった」


「はい」


シオンは私の「よくやった」という言葉を聞いて喜ぶ。


役に立てばこれからも美味しい料理を食べられるから。


「じゃあ、戻るわよ。シオン。また、あの氷の鳥を出して」


「はい。わかりました」


褒美をもらえるのがそれほど嬉しいのか。


シオンの態度がさっきまでと全然違う。


'思っていたよりこの世界の住人達は胃袋さえ掴めれば思い通りに動かせるのね'


私はニヤリと笑う。


正直確証は持てていなかったが、今のシオンの態度を見て確信した。


料理を使えば、例え人外の王達でも思い通りに動かせると。


'これはいいことを知れたわ'


私はそう思い、フフッと笑うとアスターとルネとシオンは背中に悪寒が走った。


アスターはゆっくりと視線をローズに向け、その表情を見て固まる。


あまりにも悪党面すぎて今度は何を企んでいるのか、と思う。






「お嬢様が帰ってきた……ぞ」


男は一番最初に私が帰ってきたことに気づき大声を出すが、後ろに見えたエルフとダークエルフ達のせいで気を失ってその場に倒れた。


だが、男の声は既に近くにいた人達の耳には届いていたのでローズの帰還はすぐに男爵夫婦の耳にも入った。


もちろん、エルフとダークエルフ達がいることも。


そして大量の木を持って帰っているのも。




「ローズ。おかえり。それで、一体何があったらこうなったのだ?」


氷を手に入れる、と言って出ていったのに何故か氷はどこにも見当たらない。


その代わりにエルフとダークエルフ達、そして銀髪の小さな男の子がいる。


何があれば氷の代わりに彼らがくることになったのか、と男爵は説明を求める。


「詳しいことは後で話します。とりあえず、彼らは皆、領民としてここに住まわす許可をください」


私は子供が親に頼み込むときに可愛い子ぶるのを真似して実践するが、男爵は「領民として住まわす」と言う言葉を聞いて倒れてしまう。


'あ〜らら、倒れちゃった。大丈夫かな?'


倒れた男爵を見て、やっぱり驚くよなと思う。


でも、彼らは絶対に必要だ。


作物を育てるのにエルフは必要不可欠。


狩りはエルフも得意だが、ダークエルフ達の方が上手い。


どちらも食料確保には必要な人材。


何より普通の人間達より強いので、この領地を守る戦闘員にもなる。


そしてなにより給料を払わなくてもいいという最高の労働者達だ。


族長達曰く、食と住さえ確保してくれるなら忠誠を誓ってくれるとのことなので、こんな最高の労働者達を逃すわけにはいかない。


なんとしてでも男爵からは許可を貰わなければならない。


倒れたのが男爵でなかったら連続ビンタで叩き起こせたが、さすがに男爵相手にそんなことできるわけないので起きるまで待つことにした。


男爵は気絶してたが、何か嫌な予感がしてうなされだす。


「アスター。お父様を運んで」


「わかりました」


アスターは男爵を抱える。


「とりあえず、お父様の許可を貰うまでは正式な領民ではないけど、そこは心配しないで。私がちゃーんと許可を貰うから」


私は安心させるよう、ニッコリと笑いかける。


何故かその笑みが怖くて皆、今初めて会った男爵の心配をする。


「というわけで、エルフ達は畑を耕す作業を始めてくれる?彼についていけばいいから」


私は男爵と共に出迎えしてくれたオリバーを紹介する。


「じゃあ、お願いね。オリバー」


「……畏まりました」


男爵の許可を貰わずにいいのかと一瞬悩むが、すぐに大丈夫だなと思い直しエルフ達を案内する。


「ダークエルフ達はここにいて。料理人にあなた達のご飯を作るように言いにいくから」


「あ、ありがとうございます!」


ダークエルフたちは今の言葉を聞いて本当に約束を守ってくれるんだ、と喜ぶ。


「礼はいらないわ」


本当にいらない。


言わなければならないのは本当はこちらの方。


なんたって金になる木を教えてくれたのだから。


「そういえば、名前を聞いてなかったわね。なんて言うの?」


エルフもダークエルフ達の台所まで案内してくれた子、ミモザ以外知らない。


とりあえず、ダークエルフの方から覚えようと最初に胡椒の実を教えてくれたダークエルフに尋ねる。


「俺はウィンターです。族長の息子です」


「って、ことは次期族長なのね」


「はい」


「なら、ウィンターとは長い付き合いになりそうね」


「はい。そうあれるよう頑張ります」


私はウィンターと話しを終えると厨房に向かいダークエルフ達の料理を作るよう命じる。


食料は今朝大量に届いたので問題はない。


出来上がったら外にいるダークエルフ達に持っていくよう指示を出してからその場を離れる。


そろそろ男爵が目を覚ますだろうと思い、アスターとシオンだけ引き連れて部屋へと向かう。


アイリーンとルネには仕事を頼む。


アイリーンは町の様子を確認してもらう。


何いいか、悪いか、困っていることはないか、そういうことの調査を頼む。


ルネには騎士達の特訓を死なない程度でやるよう命じる。


ストレス発散できるよう少し気遣う。





コンコンコン。


「お父様。私です。入ってもいいですか?」


部屋に行く途中、使用人に男爵が目を覚まし私を呼んでいると報告された。


「あ、ああ。いいぞ」


男爵はくるのがあまりにも早くて驚く。


使用人が出てから3分も経っていない。


「失礼します」


私のあとにアスターとシオンも中へと入る。


「さっきは恥ずかしいところを見られたな。改めて何があったか教えて欲しい。それで……その子は?」


アスターが入ってくるのは予想していたが、子供が入ってくるのは予想外だった。


「もちろんです。まず、この子はシオンと申します。雪男です」


雪男、その言葉にアスターは「この人、また息を吐くように嘘を言った」と呆れる。


シオンは「俺が雪男?高貴なこの俺が、下等生物の雪男?」とよりによって何故雪男の設定にしたのだと信じられない顔でローズを見上げる。


「雪男?この子がか?」


「はい。シオン。氷を出して」


「……」


シオンは雪男と紹介されたのがショックで名前を呼ばれたのに気づかない。


「シオン」


私は男爵に気づかれないようシオンに黒い笑みを向ける。


シオンはもう一度呼ばれるも我に返り冷や汗を流しながら「はい」と返事をする。


「氷を出して」


「はい」


シオンは大量の氷を出す。


「……!」


男爵は生まれて初めて見る大量の氷に言葉を失う。


一度だけ皇宮で氷を使った余興を観たことがあるが、それを遥かに超える量だ。


天井から床まで部屋が氷で埋め尽くされる。


「お父様。これからシオンをスカーレット家の使用人として働かせてもいいですか?」


「もちろんだ!」


男爵は即答する。


断る理由がない。


氷は夏の季節には欠かせない。


シオンがいる限り、氷は毎年手に入る。


なにより、氷で金を稼げる。


氷の魔法使いがいるところは毎年相当稼ぐ。


借金はなくなったが、いつ何が起こるわからない。


備えはあるべきだと考える。


もちろん、これは全て表向きの理由だ。


'……なんだ、こいらは。何故二人揃って急に怖い顔をするんだ'


シオンは氷を出した途端、男爵の表情が変わったことに違和感を覚えたが、すぐに二人が同じ表情で自分を見てくるので怖かった。


アスターは男爵の初めて見る表情を見て「とうとう旦那様まで染まってしまったのか」となんとも言えない気持ちになった。

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