表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/111

新たな実


「それで何の実?」


私は目が覚め、頬が腫れているダークエルフを正座させてから尋ねる。


「名前はわからないんですが、こんなのです」


ダークエルフは木の棒で地面に実の絵を描く。


私はその実の絵を見て目を見開く。


「本当に!?本当にこの実があるの!?」


私はダークエルフの肩を掴み思いっきり前後に揺らす。


「は、はい。あります」


激しく揺らされ、ダークエルフは気持ち悪くなってきて吐きそうになる。


もう駄目だ、と思った時に解放されなんとか吐かずに済んだ。


「予定変更するわ。アイリーンとルネは彼らとそのまま領地に向かって。私はアスターとシオンは一緒に彼とこの実がある木まで案内してもらうから」


「……え!?」


何勝手に決めてんだ、こいつ、とシオンは相談もなしに勝手に決められ眉をひそめる。


アスターは嫌だと言っても無理矢理連れていかれるのはわかっているので何も言わない。


ダークエルフはまだ話しをできる状態ではない。


そもそも話しを聞いてなかったから「嫌だ」と断ることもできない。


聞いてても悪魔の顔をしている人間に向かって、そんな命知らずなことはしない。


「あなた達はこの二人について行って。私も後から合流するから」


「はい……」


エルフとダークエルフ達は一体何をするのかと気になる。


だが、聞かない方がいい気がした。


彼女の体から質問はするな、という雰囲気が出ていたから。


「じゃあ、二人ともよろしくね。もし敵が現れたらやっつけちゃっていいから」


「……わかった」


何故俺がそんなことをしないといけない、とルネは不機嫌さを隠そうとしない。


一方アイリーンはまた自分は連れて行ってもらえないのかと悲しむ。


もちろん命令には従うが。


「アイリーン。こんな大事な仕事を任せられるのはあなただけなの」


私の発言に「え?俺も同じ仕事するんだが?」とルネは目をパチパチさせる。


今のは納得いかない。


そんなルネの様子に私は気づいてだが、早く木の実を手に入れたかったので無視する。


「アイリーンがいるから好き勝手できるのよ。だから、任せていい?」


「はい!もちろんです!ご主人様!私に全てお任せください!」


アイリーンは曇った表情から一変して嬉しそうな顔に変わる。


そして、チラッとルネの方を見て勝ち誇ったようにフッと鼻で笑う。


'あのクソ女!'


ルネはアイリーンに馬鹿にされて腹が立ち、私に「俺はどうなんだ!」と聞こうとするが、もういなかった。


ルネは'え……?'とさっきまでいた場所を、ただ呆然と眺めるしかできなかった。


「それじゃあ、スカーレット領に向かって出発するわ。みんな私についてきて」


アイリーンは自分にしか任せられない大事な任務をしっかりこなそうと張り切って声を出す。


エルフとダークエルフ達はアイリーンの指示に従い後をついていく。


「……」


ルネは下等な人間だけでなくエルフとダークエルフにも透明人間な扱いをされ、プライドがズタズタになる。


心配されてもムカつくが無視されるのはもっとムカつく。


ルネは自分は悪魔の王でアイリーンと対等な立場なのに、何故自分だけこんな扱いを受けるのだと不服に感じる。


ローズが戻ってきたら絶対に文句を言ってやると決意し、一番後ろで万が一攻撃を受けた際、守られるように備える。





「それでどこにあるの?」


私は風で不細工な顔になりながら、ダークエルフに尋ねる。


何故こんなことになったかと言うと少し時を遡る。


アイリーンをフォローしてからシオンに鳥を作るよう命じた。


鳥は氷でできていて冷たかったが文句は言えないので黙って乗る。


アスターとダークエルフも一緒に乗って目的の場所まで向かっていたが、飛ぶスピードが早すぎて顔の皮膚が耐えられず、不細工になる。


私はなぜこんな目に遭わないいけないと苛立つもすぐにあることに気づいた。


この世界のバトル小説の主人公でイケメン、いつも済ましたアスターの顔も不細工になっているのではないかと期待して顔を横に向けたが……


何故か、私と違ってアスターの顔は地上の時と変わらずイケメンだった。


いや、それよりも髪が風で靡いていてイケメン度が増していた。


'はぁ?ふざけんな!なによ!この差は!え?いや、マジで、なんで?意味わかんないんだけど?主人公だからか?主人公だから、こんな扱いをされるのか?私が憑依した人物はたったの三行しか出てこない人物だから不細工になるの?…………いや、まじで何その能力!前髪すら乱れないとかなに?羨ましすぎるんですけど!'


アスターの顔どころか髪すらぶれないとか羨ましすぎる。


これ以上アスターを見ても面白くないと思い、今度はシオンを見る。


シオンの本来の姿は冬の王だからといっても今は人間の子供の姿。


それに、主人公ではない限り自分と同じような扱いを受けると思い、不細工な顔を見ようと反対の方に顔を向けるが……


またしても、可愛さが増した人間の子供がそこにいた。


'いや!だから何でそうなるわけ?てか、あんたに関しては今本来の姿じゃないじゃん!それなのになんでそうなるわけ!?'


私は納得できなかったが、これ以上シオンを見ていたら、怒りのあまり蹴り落としそうになるので顔を前に向ける。


そしてダークエルフを見る。


今度こそは。


そう期待して。


結果は、私と同じで不細工な顔していた。


それを見て私は「うん。これ、これ。これが普通だよな」と何度も頷く。


その頃のアスターとシオンは私が二人の顔の変化が無いのを不服に思っているのと同様に、彼らも私とダークエルフの顔の変化を疑問に思っていた。


'なんでこの二人は今、顔芸なんかしているんだ?'と。




「あ、あそこです」


ダークエルフは風で顔が不細工になった状態でキメ顔をしながら指を刺す。


「シオン」


私は名を呼ぶ。


「はい」


シオンはダークエルフが指差した場所に氷を操って下へと向かう。


「それでどこにあるの?」


私はシオンが氷の鳥を解除し、地面に降りるとそうダークエルフに尋ねた。


周囲を見渡す限り、ここにはなさそうだ。


「こっちです」


ダークエルフが指差した方に歩き出す。


そのあとを黙って皆で追いかける。


歩くこと10分。


「ここです」


ダークエルフは横にずれ、私達にも木の実が見えるようにする。


「こ、これは……」


私は動揺する。


想像以上の木の数に!


「ウッヒョーッ!大量じゃあー!金の木が大量じゃあー!これでまた金儲けができるー!ヤッホーイ!イェーイ!」


私は嬉しすぎて木の周りを駆け回ったり、飛んだり、跳ねたりする。


そんな私の異様な言動を見ていたアスターは、いつものことだと白い目をする。


残りの二人は「ずっと怖い人間だと思ってだけど、とうとう頭がイカれたんだ」と思い怖くて堪らなかった。


顔が真っ青になり、体を小刻みに震わせながら、この地獄がはやく終わりますようにと祈った。



「お嬢様。落ち着きましたか?」


20分くらい奇妙な行動をするローズを放っておいた。


止めたところでどうせやめないとわかったいたから。


だから落ち着くのを待っていた。


「全然」


「でしょうね。目がバキバキすぎて怖いですから」


アスターは勘違いだったかと、もう少し待つべきだったと反省する。


「まぁ、さっきに比べたら落ち着いたほうよ。それよりはやくアイリーン達の元に戻ってこの実を調味料にするわよ」


「え!?これって調味料になるですか!?」


アスターは信じられず大きな声を出す。


「そうよ。お肉や魚にかけて焼くだけで、ものすっごく美味しくなるのよ」


私がそう言うとアスターは、ゴックン、と音を立てて唾を飲み込む。


どうやってこの実を使うかはわからないが、悪い顔をしてこんなことを言う時は間違いなく美味しい料理が出てくると経験からわかるので、はやくこの実を使った料理を食べたくなる。


「アスター」


「はい」


「やることはわかってるわね」


「はい。お嬢様。この実の付いている木を全て持ち帰るのですよね」


「そうよ。そのためには?」


「シオンの力が必要です」


「そう。私達だけじゃ、せいぜい10本が限界よ。でもシオンなら全部持っていける」


'うわぁ。また悪い顔をしてる。ご愁傷様。冬の王。あの顔になったお嬢様を止めることは誰にもできない。頑張れ'


一人だけ大変な思いをすることになったシオンにアスターは心から同情する。


目をつけられさえしなければ、今でも冬の王としての威厳を保ったままいられたのに、と。


アスターはそこまで考えてあることに気づいた。


「あの、お嬢様。私ここにくる必要ありましたか?」


シオンは移動手段と木の確保を命じるために必要だった。


ダークエルフは木の実の場所を知っている。


だが、自分は必要ないのではと思う。


監視兼護衛係だとしても冬の王がいるなら自分がいる必要はないのではと思う。


何故連れてきたのかその理由が、どれだけ考えても思いつかない。


「ないけど」


「なら、なんで私を連れてきたんですか?」


「なんだって、それは……」


不細工な顔を見るためとは言えない。


「お前がスカーレットの騎士だから」


誤魔化すようにウィンクをする。


「……」


アスターは私の顔を見て今の言葉が絶対嘘だとわかった。


何かよからぬことを考えて連れてきたと察したが、騎士が主人に反論することは許されない。


だから、不満げな顔を隠そうとせずこう言った。


「そうですか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ