戦闘
「思ったより中は普通ね」
外観だけを見たら中もお化け屋敷みたいな暗くて不気味な感じたと思っていたが実際は違った。
「主人の家より綺麗なんじゃないか?」
ルネはケラケラと馬鹿にして笑う。
「ルネ。今なんか言った?」
私はニッコリと笑いかける。
「あ……」
ルネは私の顔を見て5秒前の自分を殴りたくなる。
なんて愚かなことをしたのか、と。
「2ヶ月。おやつ抜きよ」
「なっ!にっ!待ってくれ……じゃなかった。待ってください。俺が悪かったです。それだけは勘弁してください」
ルネはとっくに胃袋を掴まれていた。
特に甘いものが好きだ。
だから、おやつ抜きは困る。
プライドも捨て本気で謝るが……
「3ヶ月」
「……はい」
これ以上抗議しても意味がないと悟り、泣きながら返事をする。
「ご主人様」
「お嬢様」
ルネとの馬鹿な言い争いを終えるとアスターとアイリーンが私を呼ぶ。
その声はいつもより少し強張っていて、すぐに敵が近寄ってきているのだとわかった。
「二人共いける?」
大丈夫だろうとわかっていながら敢えて尋ねる。
「はい。問題ありません」
アスターは剣を抜く。
「はい。お任せください」
アイリーンは水を空気中に発生させる。
「そう。じゃあ任せたわ」
私がそう言うと二人は敵に向かって攻撃する。
ルネは私を守るため待機中というよりは、泣き真似をして戦力にならないので無視した。
二人は私がルネを見ている間に、大半を片付けていた。
アスターの美しい剣捌き、アイリーンの圧倒的な質量の物理攻撃に敵は手も足もでず倒されていく。
'あの二人って今日が初めての共闘よね?何であんなに息ぴったりに動けるわけ?これが主人公とヒロインの最強スケット人の力ってこと?……ふーん。これが今は私のものってことね。いいね!いいね!ちょー最高!'
私は元の世界では手に入れられなかった最強の駒が今は手元にあることに顔が緩む。
ヒィッ!
敵の魔物達はローズを攻撃しようとしたが、悪魔のような笑顔が怖すぎて金縛りにあったみたいに動けなくなる。
その間に、アスターとアイリーンの攻撃を受け倒されていく。
戦闘には参加していなかったが、思わぬ形で二人の手助けをしていたが当の本人はそのことを知らなかった。
「終わりました」
アスターが剣をしまい報告する。
「ご苦労様」
私は二人に言う。
「それにしても冬の王は出てこないわね。まだ何か手があるのかな?」
「間違いなくあると思います。悪魔は卑怯者が多いので」
アイリーンは「卑怯者」という単語を特に強調して言う。
「ハッ。悪魔が卑怯者なら妖精は勘違いな連中だよな。自分達は高潔だと信じて疑わないだから。自分達以外の種族を下に見て馬鹿にしてるじゃないか。それに気づいていないだから、救いようがない。まだ、卑怯者の方がマシだろ」
'また始まった……'
私は二人の言い争いに頭が痛くなる。
ルネと契約して屋敷に戻ってから二人は毎日言い争いをする。
最初はうるさかったから止めていたが、最近は諦めた。
二人の気が済むまで喧嘩させた方がいい。
うるさいが、それくらいなら我慢できる。
「アスター。冬の王がどこにいるかわかる?」
「はい」
「なら、行きましょう。さっさと終わらして帰ろう」
私とアスターは冬の王がいる場所へと向かおうとしたそのとき、天井に無数の氷柱が現れ一斉に攻撃してきた。
「ハハッ。嘘でしょう」
これは私では無理だと思った。
流石にこの攻撃を防ぐのは無理だと。
死ぬ、そう思った。
ここにいるのが私一人だったら。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ご主人様。怪我はありませんか?」
「主人。無事か?」
アスターが半分の氷柱を破壊し、アイリーンが結界を張って攻撃を防ぎ、ルネは残りの氷柱を炎で破壊した。
「ええ。お陰様で大丈夫よ」
'さすが、主人公と妖精王と悪魔の王ね。チート能力はないけど、チートキャラを従える私ってもしかして、もしかしなくても結構最強なのでは?'
三人の強さを目の当たりにして顔がニヤける。
「冬の王め。たかが、季節の王如きがご主人様に牙を向けるとは万死に値する。絶対にゆるさないわ!」
温厚で平和主義の水の妖精王として有名のアイリーンがブチギレてる姿は流石に驚いて固まってしまう。
小説では、アイリーンは一度も怒ったことのないキャラとして書かれていた。
ヒロインが怪我したときも心配はしていたが、怒った描写は書かれていなかった。
そのため私は今目の前にいるアイリーンは本当にあの水の妖精王かと疑ってしまう。
ただ今のアイリーンは本来の姿ではないのでそこまで怖くはないが、これが本来の姿だったら迫力がありすぎて声はかけられなかっただろう。
「ア、アイリーン。落ち着いて。私は大丈夫よ。それに、彼からしたら私達は許可も得ず勝手に入った侵入者だから排除しようとするのは仕方ないわ」
「ですが…」
「ありがとう。アイリーンが私の心配してくれるだけで私は大丈夫よ。それに守ってくれるんでしょう?」
「はい。もちろんです。ご主人様には傷一つ負わせません。髪の毛一本にも触れさせません」
「うん。信じてるよ」
いつものアイリーンに戻ってホッとする。
あのまま、感情の赴くままにアイリーンを冬の王のところにいかれていたら大変なことになっていた。
最悪冬の王が死ぬところだった。
それは困る。
冬の王は金になる存在だ。
それも大金持ちになれるくらいの貴重な存在。
絶対に死なれるのだけは阻止しなければいけない。
冬の王以上に氷の魔法に精通した者はいないのだから。
「それじゃあ、行こう……か?」
'ん?ちょっと待って?わざわざ私が行く必要ある?ここには冬の王より強い悪魔の王がいるのに?'
私はようやく自分が時間を無駄にしていることに気づいた。
最初からルネを向かわせていたらこんなことにはならなかった。
それに悪魔の王がこっちにいるとわかれば、契約がスムーズに進むかもしれない。
それもこちらに有利な条件で。
私はルネの方を向き、軽く咳払いしてから笑顔で話しかける。
'ヒィッ!何だ、この不気味な笑顔は!一体今度は何をさせるつもりだ!?'
ルネは私に笑顔向けられた瞬間、全身に悪寒が走った。
「ルネおやつ3ヶ月抜きの罰を取り消して欲しい?」
「……それはもちろん」
本当はその提案にすぐ飛びつきたかったが、嫌な予感がして断るか悩んだ。
結局誘惑に勝てず返事をする。
「それを取り消してもいいわよ。ただし、あなたが今から言うことをできたらだけど?どうする?やる?」
「……やります」
「ルネならそう言ってくれると思ったわ。良かったわ。あ、最初に言っとくわ。もし失敗したら3ヶ月から倍の6ヶ月に伸ばすからね。頑張ってね」
'なっ!この詐欺師め!俺様を騙しやがったな!'
と、言いたかったが言えるはずもなく、ルネは「……はい」と返事するしかなかった。
「それじゃあ説明するね」
私はルネを見下ろしながら、こらからやって欲しいことを言う。
ルネはガタガタの体を震わしながらローズを見上げて「クソッタレ!」と心の中で罵倒して何とか屈辱に耐えていた。
そんなルネを見たアスターは同情するも、面倒事に巻き込まれたくなかったので、何もせずただ突っ立て二人のやり取りを見ていた。