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ジャム


「本日はお招きいただき感謝します」


フリージア侯爵は出迎えた私達に軽く頭を下げる。


誰にでも礼儀正しく優しいというのは嘘ではないなと侯爵をみて思った。


例え小説でそう設定されていても実際に会ってみないとわからない。


二人の主人公の印象がだいぶ違ったみたいに。


「こちらこそ。お越しいただきありがとうございます。どうぞお入りください」


男爵は侯爵を案内する。


その後ろを夫人、私の順でついていく。


私は気づかれないよう、そっとため息を吐く。


ドレスが苦しい。


ローズに憑依してすぐ着たときに比べたら苦しくはないが、できれば今すぐ脱ぎたかった。


男爵夫妻に絶対にドレスを着てくれと懇願されなければ、二度と着たくはなかった。


「はぁ。さっさと要件済まして帰ってもらおう」


ドレスを早く脱ぎたいばかりに、わざわざ男爵家まで足を運んだ侯爵に失礼なことを言ってしまう。


誰にも聞かれなかったから良かったが、もし侯爵の耳に届いていたらタダでは済まなかったはずだ。


それほど侯爵と男爵には力の差がある。


侯爵家の中でもフリージア家は現国王の最側近だ。


失礼な態度を取るということは、国王を軽んじていると思われても仕方のない行為にあたる。


部屋に入るなり、男爵は早速謝罪をした。


わざわざ足を運んでもらって申し訳ないが、国王の命を受け商品の改良をするため売れない、と。


それを聞いた侯爵はどんな反応をするのか。


私は頭を下げながらチラッと侯爵を見る。


侯爵の表情は変わることなく穏やかった。


この表情を見て私は「この人知ってたな」と確信する。


少し考えれば最側近が知らないはずないとわかったが、侯爵に売りつけるものを作ることに頭を使いすぎて見逃していた。


「頭を上げてください。陛下からその話しは聞いておりますので、気になさらないでください」


「では、今日はどういったご用件で来られたのでしょうか?」


メープルが目当てではないのなら一体何が目的で来たんだと不思議に思っているのが、全部顔に出てしまう。


「今日は令嬢に用があって参りました」


'……ん?私!?'


侯爵の言葉に驚いて目を見開く。


「どんなご用件でしょうか?」


なんとなく想像はつくが敢えてわからないふりをすることにした。


「どうやって新たな甘味料を見つけたのかお話しを聞きたくて参りました」


やっぱりか、と思いながら私はいつ聞かれてもいいように考えていたことを話す。


「……つまり、偶然見つけたということですか?」


侯爵の目を見る限り信じてはないのは明らかだ。


だが、私の言ったことに矛盾な点はなく指摘することはできなかった。


最初からそのつもりもなかったが、どうしても侯爵は私が嘘をついていると確信に近いものがあるため納得できなかった。


「はい」


笑顔で返事をする。


侯爵はその笑みを見てこれ以上聞いても、絶対に答えることはないとわかり話しを終わらすことにした。


「そうでしたか。教えていただき感謝します」




「侯爵様。お時間はまだ大丈夫でしょうか?よろしければ、砂糖を使ってジャムというのを作ったのでお召し上がりになりませんか?」


このままでは帰る流れになると思い、侯爵が帰るという前にジャムの話を持ち出す。


この世界ではハチミツがなぜか使われてないので、ジャムがどんなものか知らない。


だから、ジャムという言葉を聞いても侯爵は何のことかわからない様子だ。


ただ、私の隣に座る男爵夫妻のうっとりした表情を見て美味しいものだと瞬時に察し「では、お言葉に甘えさせていただきます」と言った。


「はい。では、準備するので少々お待ちください」


私は侯爵に頭を下げてから部屋を出て、早歩きで厨房へと向かう。


「みんな!もう完成した?」


厨房に入ってすぐ大声で尋ねる。


私の声を聞くなり料理人達は手を止め目を輝かせる。


いつみても慣れない光景だ。


「はい。出来ております。こちらにご用意しております」


料理長が代表して言う。


「ありがとう。余ったのはみんなで食べていいわよ」


そう言うと料理人達から歓声の声が上がる。


私はその声を聞きながら元いた部屋へと戻る。



「お待たせしました」


私はワゴンを押しながら部屋へと入る。


「とてもいい匂いだ……それはパンなのか?」


侯爵はワゴンの上に乗っているパンを見て驚く。


この世界のパンは固く、匂いもあまりしない。


だが、ワゴンに乗っているパンは見ただけでもフワフワしていて柔らかいとわかる。


匂いもとてもよくで食欲を掻き立てられる。


「はい。さようでございます」


私はパンをそれぞれの前に置くと、自分の分を手に取り座る。


「まずはそのまま食べてください」


パン本来の味を教え、その美味しさの虜にする。


侯爵は言われた通りそのまま食べる。


「美味しい!」


あまりの美味しさにほっぺが落ちそうになる。


柔らかいのに弾力があり、噛みごたえもある。


一体どうやって作ればこんな美味しいパンが作れるのかと不思議に思った。


「ありがとうございます。では、次にこちらのジャムを塗って食べてください」


私は自分のパンに塗り、食べ方を教える。


「わかりました」


侯爵は素直に従う。


私の言う通りにすれば美味しい物が食べられると脳が覚えたから。


「……!美味しい!こんなに美味しいパンもジャムというのも初めて食べた。とても素晴らしいです!」


「お気に召していただけたようでなによりです」


第一段階クリア!


「一体これはどうやって作ったんのですか?一体誰がこんな素晴らしいものを作ったんですか?男爵家ではいつもこのようなパンを食べているのでしょうか?」


家族や領地民にも食べさせたくて尋ねるが、勢いよく聞きすぎだと我に返り「取り乱してしまい申し訳ありません」と恥ずかしそうに謝る。


「いえ、気にしないでください。侯爵様の質問ですが、このパンを最初に作ったのは娘のローズです。二週間前に娘が美味しいパンの作り方を見つけたのです」


「令嬢がですか?」


新たな甘味料だけでなくパンまでもローズが見つけたのか驚いた表情をする。


会うのは今日が初めてだが、これほど素晴らしい令嬢だとは夢にも思わなかった。


メープルを国王に渡した日、見つけたのがローズだと知りできる限り調べたが、どれもあまりいい噂ではなかく、本当は他の人が見つけたのを奪ったのではないかと疑っていた。


だが、目の前のローズを見て噂こそが間違いだったのだと思い知らされた。


礼儀正しく、思慮深い。そして、あらゆる部門に長けた知識。


普通の令嬢が勉強に励む何十倍も努力しているのが、話しているだけでもわかる。


自分の子供達は他の家に比べて頑張っている方だと思ったが、ローズの存在を知ったいまはもっと頑張ってほしいと思ってしまった。


「はい。私が作りました。もちろん。このジャムもです」


侯爵に私は新たなものを作り出す、見出す天才だと植え付けるため、敢えて私が見つけたことを強調して言う。


「ローズ嬢。一つお願いがあります。無礼だと承知の上ですが作り方を教えていただけないでしょうか」


「もちろん、喜んでお教えします」


第二段階クリア!


あと一つクリアすれば夢の生活に一歩近づく。


私は顔がニヤケそうになるのを必死で耐える。


「ですが、ジャムの方は近いうちに商品として売ろうと思っているので、申し訳ありませんがお教えできません」


頭を下げる。


こんなこと現代ならしなくていいが、ここは小説の中。


階級絶対主義のため嫌でも生きていくためには頭を下げなくてはならない。


「ローズ嬢。頭を上げてください。無理を言ったのは私の方です。パンの作り方を教えて貰えるだけでもありがたいです。感謝します」


階級絶対の社会で下の者にこれだけ礼儀正しいのは好感がもてる。


仲良くなって損はないなと確信する。


「そう言っていただけて感謝します」


「それより、ジャムを商品化すると言っていましたが今日から買えたりしますか?」


侯爵のその言葉を聞いた瞬間、踊り出しそうになるのを必死に耐えながら「もちろんです!」と満面の笑みを浮かべながらそう言った。


第三段階クリア!


侯爵にジャムを売りつけるのに成功した!


これでメープルを手元に残しつつ収益を手に入れることに成功した。


あとはジャムの素晴らしさを侯爵に広めてもらうだけ。


それで一年中ジャムを売りつけることができる。

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