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帰路


「ご主人様。お帰りなさいませ!」


私達が領地へと足を踏み入れた瞬間、アイリーンが目の前に現れた。


「ただいま。アイリーン。それにしてもよく私達が帰ってきたのわかったわね」


「当然です。ご主人様には私の加護がかけてありますので、離れていてもどこにいるかは把握しています」


「そうなのね……」


アイリーンの言葉に私は苦笑いをする。


それってつまり現代風の言葉で言うとGPSがつけられて居場所を把握されるということだ。


アイリーンは善意でやってくれてるのはわかるが、常にどこにいるか把握されるのは恐怖である。


もちろん、メリットもある。


この世界では魔物など、いつ命が危険にさらされるかわからない恐怖が常に付き纏ってくる。


私の居場所がわかるということはいつでも助けられるということ。


メリットは大いにあるがそれでも常に把握されるのは嫌。


慣れればどうでもよくなるのかもしれないが。


「はい。ところでご主人様。なぜここに悪魔の王がいるのですか?」


アイリーンはルネの方に視線を向け、冷たい目をして見下ろす。


「アイリーン。この悪魔のこと知ってるの?」


彼女の口から「悪魔の王」という言葉を聞いて、自称悪魔の王じゃなくて本物だったんだと疑いがようやく晴れる。


「はい。この悪魔は地獄の王、閻魔大王の部下として有名でした。5000年前までは」


「5000年前までは?どうして?」


ルネからはなぜ封印されたのか理由を教えてもらっていない。


アイリーンが知っているのなら教えてもらおうと思い尋ねる。


「なっ!やめ……」


ルネがアイリーンに掴み掛かろうとするのを抑え込み、声を出さないよう手で口を覆う。


「気にしないで続けて」


私は手の中で暴れるルネを抑えながら、アイリーンに話しの続きを催促する。


「はい。5000年前、そこにいる馬鹿は愚かにも地獄の王である閻魔大王に反旗を翻したのです。自身の力を過信したのでしょう。相手は閻魔大王。結果は誰でも簡単に予想できます。勝てるはずはないというのに……」


私はルネの口調がいつもと違い冷たいなと思いながら続きを黙って聞く。


「敗れたそこの悪魔は閻魔大王によって長い間、封印されていました。それなのに……ご主人様。どうしてこんな奴を復活させたのですか?」


アイリーンは私がルネに騙されたのではないかと心配する。


「なるほど。そういう理由で封印されてたのね」


だから、あのとき閻魔大王に知らせると言ったらあれほど慌てていたのかと納得する。


「やっぱりご主人様は何も知らなかったのですね!この悪魔め!ご主人様を騙すとは何様のつもりだ!今ここで殺してやる!」


アイリーンは本来の姿に戻ろうとするが、慌てて止めるように言う。


彼女は命令に納得できなかったが、私の言うことを素直に聞いた。


'ハッ!騙しただと?騙されたのは俺様の方だ!そこの人間の方がよっぽど悪魔だぞ!'


ルネは心の中でアイリーンの言葉に反論するが、最後の言葉にカチンときて売られた喧嘩を買うことにした。


「殺す?たかが妖精王の分際で俺様を殺すだと?この身の程知らずめ。力の差というものをおし……」


えてやる、そう続けようとしたが、思いっきり叩かれ続きを言うことができなくなった。


「二人共やめなさい」


「でも……!」


アイリーンは心配でルネを今すぐ殺すべきだと助言しようとするが、私が手で制止すると口を噤む。


「アイリーンの心配はわかるわ。でも、泣きながら助けを求められたら助けないわけにはいかないでしょう」


私のその発言にアスターとルネは「何を言っているんだこいつ?」という顔をする。


「ルネはね、私に自分の罪を懺悔して許しを求めたの。そしてね、私の傍で犯した罪を償っていきたいそうなの。アイリーン。まだルネのことを信じられないならそれは仕方ないわ。でも、一度だけチャンスを与えましょう。彼はこの領地のために力を尽くしてくれるそうだから。ね?」


私が大嘘を吐くと二人は心の中で盛大にツッコミを入れた。


'この大嘘つきめ!俺様がいつ貴様に懺悔した!なぜ俺様が罪を償わなければならない!俺様は悪いことなど何一つしていないというのに!それになんだ!チャンスとは!?貴様はチャンスなど与えなかったろうが!騙して契約したくせに!この悪魔め!'


ルネは本当は声に出して文句を言いたかったが、私の雰囲気から「余計なことを言ったら殺す」と言っているのを感じ黙ってやり取りを見ていた。


'さすがにそれは大嘘すぎませんか?どう考えても騙して契約してましたよね?'


アスターは私の言葉にさすがにそれはないとドン引きした。


そんな二人の存在を忘れているのかアイリーンは、私の言葉に感動し涙がこぼれ落ちそうになっていた。


「ご主人様。私、感動しました」


「「「……!」」」


その言葉に三人とも目が点になった。


「ご主人様がこれほどまでに慈悲深い方だとは思いませんでした!救いようのないクズにも手を差し伸べるなど、まさに神様のようです!ご主人様!私は一生ご主人様についていきます!!」


「ありがとう。アイリーン」


なぜアイリーンの好感度がこれほどまでに爆上がりしたのかは、わからないが好かれて問題なはないので気にしないことにした。


ただアスターとルネは彼女に心の底から同情した。


自ら進んで取り返しのつかないところまで落ちていく姿に。






「お嬢様。お帰りなさいませ」


オリバーは私達に気づくと頭を下げ挨拶をする。


「ただいま。畑の方は順調?」


「はい。問題ありません。あと少しで草や木、石を無くせます」


「そう。ならいいわ。それより、私がいなかった間なにもなかった?」


「……それが、メープルのことで貴族達から手紙が大量に届きまして、旦那様が大変お困りになっています」


せっかくローズが生み出した新たな甘味料を貴族達に取られると思うと、申し訳なくなり顔が挙げられない。


ローズが何も言わないので心配になり、オリバーは顔を上げると「な……なに、この顔!こわっ!」と彼女の顔を見ると体が固まった。


「お父様は今どこに!?」


「執務室で……ございます」


私はオリバーの言葉を最後まで聞き終わる前にその場から走り出す。


「……今度は何を企んでると思う?」


オリバーはアスターに尋ねる。


「さぁな?ただ、あの顔をしているときは大丈夫だろ……多分」


損になることはないだろうが、今回悪魔の王を手に入れたみたいにまた悪質な詐欺行為をするのではと思い、ローズに対する信頼がゼロに近づく。


二人はそれ以上何も言わなかったが、お互いに同じことを考えていた。


「どうか、穏便にことが済みますように」





「お父様。私です。入ってもいいですか?」


扉をノックして男爵の許可をまつ。


「ローズか。もちろんだ。入りなさい」


男爵の許可を得て中に入ると「怪我はないか?」と体中をチェックさらる。


誰かに心配してもらうことなど今まで一度もなかったので妙な気分だった。


本来なら私はローズではないので、こんな風に心配してもらえることはないので複雑な気持ちになる。


「はい。どこも怪我はしておりません。それより、お父様。メープルの件で貴族達から手紙が届いたと聞きました。本当ですか?」


「ああ、本当だ。全くどうしたらいいのやら……」


男爵は額に手を置き数回首を横に振る。


「お父様。心配には及びません。全て断って大丈夫です」


「なっ!何を言ってるんだ!そんなことをすれば……」


「問題ありません。陛下からある命を受けたので。それを言えば皆さん納得してくれますよ」


私は魔物退治に行く前に皇宮から届いた手紙を男爵に見せる。


「これは……!本当なのか!?」


男爵は私と手紙を交互に見る。


「はい。もちろんです。これなら断っても角は立ちませんよね?」


「ああ!もちろんだ!あっ!……でも……」


男爵はあることを思い出し、視線を下げる。


「お父様。どうかしましたか?」


今度は何だ?と思いながら尋ねる。


「実はな……フリージア侯爵の手紙に返事を書いてしまったてな。こちらに来ることになったんだ」


私は男爵の言葉に固まってしまう。


たった2日家を空けただけなのに、なぜそんなことに……


「それで侯爵様はいつ来られるのですか?」


平静を装いつつ尋ねる。


「明後日だ」


男爵は貴族達の対応の心配はなくなったが、今度はフリージア侯爵の方をどうすればいいかわからず項垂れる。


'明後日!?冗談でしょう。今からじゃあ他のものなんて作れない!どうすれば……'


男爵が訪問を許可した以上、何かしら渡さないといけない。


だが、あの日アスターに頼んだ国王宛の手紙のせいで貴族達には今年はメープルを売ることができない。


大量にあるが、それらはこの領地を発展させるために使う。


こんなことになるとわかっていたら、少しだけ売る許可を取れば良かったと後悔するも、そうすれば本来の目的を達成することはできなかった。


いい案が何も浮かばず、気を紛らわすために外に視線を向けると木が目に入った。


どこにでもある普通の木だが、そのお陰であの木がこの領地にあることを思い出した。


「お父様。私にいい考えがあります。メープルはお渡しできませんが、それ以外のものを売りましょう」


「売るって……何を言っているんだ?他に売るものなんて何もないぞ?」


「大丈夫です。必ず侯爵様を満足させてみせますから」


私は自信満々に宣言をする。


男爵はまだ何か言いたそうだったが、何を思ったのか首を横に振ってから「わかった。任せよう」と言って信じてくれた。


その期待に必ず応えてみせようと、さっそく準備に取り掛かる。


私はアスター達を引き連れ森の中へと入る。

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