悪魔の王
捜索開始から三時間経過。
「……なにもないわね。この部屋じゃないのかし、?来た道のどこかにあるのかな?」
私は体力の限界で地面に寝転がる。
「それはあり得ません。間違いなくこの部屋のどこかに仕掛けがあるはずです」
アスターは言い切る。
「ふーん。そう。でもそんなはっきり断言していいの?外したら恥ずかしいわよ」
地面から少し顔を上げ、アスターを見る。
「恥ずかしくありません。外しませんから。それにお嬢様のその格好に比べたらマシですね。顔も今は人を馬鹿にした感じになっているのでものすーっごくブサイクですし」
「なっ……!ブサイク?私が?ブサイク?」
確かに元の顔と比べたらブサイクだが、この世界にいる女性陣の中では美人枠に入る顔をしている。
ぽっちゃり体型からモデル体型にまでなった。
今のローズは誰がどう見ても美人だと言う。
それなのに、それなのに!
あのクソヤロー!私をブサイクと言いやがったな。
主人公補正で作中一の美男子だろうがもう許さん。
今日こそその顔をボコボコにしてやる!
私はそう意気込んでアスターに向かって飛び蹴りを喰らわそうとする。
だがこのときの私は冷静さを失っていて忘れていた。
アスターが作中一の強者だということを。
私の攻撃はあっさりとかわされ、そのままボスの死骸の上に落ちてしまう。
「うわっ!きったね!」
慌てて死骸の上から降りる。
「ちょっと!避けないでよ!あんたのせいで服と靴が汚れたじゃない!」
「え?嫌です。攻撃されたら普通避けますよ」
「はぁ?攻撃されるようなこと言ったあんたが悪いんでしょう?ちょっと人より顔がいいからって調子にのるじゃないわよ!」
「ありがとうございます」
顔を褒められ律儀に頭を下げながらお礼を言う。
「褒めてないわよ!何お礼なんか言ってるわけ!話の流れから貶してんのわかるじゃんか!ふつう!!」
「……?でも顔がいいってお嬢様が言ったじゃないですか?」
わかっていて敢えてわからないフリをして挑発する。
「○△☆×#¥■◎!」
私は腹が立ちすぎて声にならない叫びを上げる。
そんな私の行動を見たアスターはいい顔で笑った。
「……はぁ。もういいわ。馬鹿らしくなったし。さっさと宝を見つけて帰ろっ……と、ん?」
ボスを跨いで歩き出そうとすると急に魔法陣が私とボスの下に現れる?
これは何の魔法陣だ!?と思ったとき「お嬢様!!」とアスターが私を抱き抱え離れようとするが一歩遅く魔法陣が発動する。
数秒前のアスター。
ローズとのくだらない言い合いが終わり、捜索を再開しようとすると後ろから禍々しいオーラの気配を感じ振り返る。
すると、彼女とボスの真下に魔法陣が現れたのが見えた。
'あれは転移魔法!?まずい'
アスターは地面を蹴り、ローズを抱え魔法が発動する前に逃げようとするが一歩遅かった。
すぐに間に合わなかったと悟ったアスターはローズを抱きしめ衝撃に備える。
絶対に死なせはしない。
そう誓って。
ドンッ!
トンッ!
ボスの死骸が地面に叩きつけられた音と、アスターが地面に着地した音が耳に届く。
私はアスターにお姫様抱っこされながら周囲を見渡す。
'ここはどこよ?それにしても趣味の悪いものしかないわね。引くわー'
鎖を巻いた棺、頭蓋骨、蝋燭、杭、骨、大量の瓶の中に入っている気持ち悪い色の液体、緑の炎。
'ここに住んでるやつ絶対モテないわー'
アニメや漫画でみる黒魔術師の部屋な感じで見慣れてるせいかそこまで恐怖を感じない。
強いて言うなら気持ち悪くて吐きそう。
さっさとこの気持ち悪い部屋から出ようと、黒魔術師を探すが人の気配を全く感じない。
「……誰もいないじゃん!勝手に連れてきたくせに礼儀知らずな奴ね!何様のつもり!?さっさと出てきなさいよ!」
お姫様抱っこされたまま、今はいないこの部屋の主に向かって叫ぶ。
「……お嬢様。叫ぶなら降りてから言ってください」
「え?やだ。ムカつくからこのままでいくけど。これは命令よ。あなたには悪いと思ってるわ。私は美人じゃないから。ブサイクで悪かったと思うわ。でも、騎士は美人もブサイクも両方守るもんでしょう。ブサイクでもこのまま守りなさい(どう?ブサイクにこき使われる気分は?)」
「わかりました、お嬢様。ブサイクでもお守りしますよ(最悪です。今すぐ降りて欲しいです。あとその顔をムカつくんで今すぐやめてください)」
口と顔の二つで会話をする。
もしここに他の人間がいれば、仲の良いカップルだと勘違いするほど二人の顔は穏やかだった。
話してる内容は酷いが。
「それでこれからどうするつもりですか?」
「どうって、どうもしないけど。ていうか、呼び出した本人がいないんだからどうしようもないじゃん。来るまで待つしか。あ、もしかしてきつい?それなら仕方ないわね。あそこの棺の上に座ってもいいわよ(所詮その程度の騎士ね)」
「いえ。余裕です。(例え、お嬢様がブタのように重くても鍛えているので問題ありません)」
「そうならいいわ。それならこの部屋の主が戻ってくるまで隈なく調べましょうか(誰がブタじゃ!誰が!目腐ってるんじゃないの?)」
「はい。わかりました(私の目は腐ってません。それに例えと言いました。本当にブタだとは言っていません)」
そう言って部屋を調べようとしたら「おい」と声をかけられる。
「……今私に言った?」
「いえ、私ではありません」
「じゃあ、誰が言うのよ。ここには私とあんたしかいないでしょう。よくも私に向かって『おい』なんて言えたわね」
「いえ。本当に私じゃありません」
近いな顔。せめて普通の顔で近づけてほしかった。ブサイクな顔の時じゃなくて。
アスターはローズの方に顔を向けなかったが、横から見える範囲でどんな顔をしているのかは見えた。
「じゃあ、誰が……」
言うのよ、そう続けようとしたが遮られて最後まで言えなかった。
「おい!いい加減にしろ!俺様を無視するな!」
下から声が聞こえ二人は視線を下にする。
見えるのは鎖を巻いた趣味の悪い棺だけ。
「……」
「……」
「アスター。いつから俺様って言うようになったんの?もしカッコいいと思って言ってるんだったらやめたほうがいいわよ。物凄くカッコ悪いから。なにより、やばいつ認定されるわ。それに聞いてるこっちが恥ずかしいくなるから」
元の世界で強いからといってすぐにカッコつけたがる中学生を思い出し、遅い思春期がきたのかとドン引きする。
「お嬢様。現実逃避しないでください。言ったのは私ではありません。声が全然違うじゃないですか。耳くそつまってるんですか?掃除してください。汚いんで」
アスターはそう言いながら汚い者を見るような目をする。
「いい加減にしろ!俺様を無視するじゃねー!」
その声でようやく二人はお互いから目を離し、棺の方に視線を向ける。
「えっと、どちら様ですか?いきなり知らない人に無視するなとか言われても困るんですけど」
「……」
アスターは私の発言に今この状況で煽るか普通と思う。
「貴様!俺様を誰だと思ってやがる!!」
「誰なの?」
声だけではわからない。
そもそも私はこの世界の住人ではない。
この世界の住人でも棺の中にいる変人と知り合いなのはいないと思うが。
「俺様はルネ!偉大なる悪魔の獄炎王だぞ!」
「ルネ?獄炎王?なにそれ、知ってる?」
私はアスターに尋ねる。
悪魔の王なのに、名前はルネ。
この世界ではどうか知らないが、元の世界で月の意味をもつ名前なんて可愛いなとつい笑いそうになる。
「いえ。知りません」
アスターが知らないなら私は絶対に知らないな。
きっと大したことない悪魔だと思い、棺に視線を向ける。
「おい、クソヤロー。あんたが王だろうが、関係ないわ。そもそも、それは悪魔の中ででしょう。人間には価値のないことよ。ルネなんて可愛らしい名も知られてないのに一丁前に威張ってんじゃないわよ」
「貴様!絶対に殺してやるからな!貴様の声覚えたからな!覚えてろよ!」
ルネは私の発言に殺意が湧き殺気を放つ。
特に名前を揶揄われたことに腹を立てる。
空気が重くなる。
普通の人間なら気絶してもおかしくないが、ここにいるのは妖精王と契約した人間とこの小説の最強キャラの主人公だ。
その程度では恐怖すら感じない。
ルネは私達がビビって謝罪するのを期待していたが、私の言葉を聞いて自分が怖くないのかと驚く。
一体この人間達は何者なのかと気になる。
「はぁ?できるもんなら今すぐやりなさいよ。本当はできないんでしょう。その性格ならすぐ相手を殺すはず。それなのにやらないのは出られないからでしょう。誰に封印されたか知らないけど、間抜けね。一つアドバイスをしてあげるわ。人を脅すなら棺から出られてからするのね。出られないくせに威張るのは馬鹿のすることよ」
私は棺を見下ろし、顔もわからない相手を馬鹿にする。
アッハッハッ、と私は高笑いをする。
'可哀想に。よりによって悪魔に喧嘩を売るなんて……いや、でもこっちも悪魔か。それも王。なら問題ないか。悪魔の王なら大丈夫だろう……いや、無理だな。あれは絶対無事ではすまない'
ローズの顔を見てアスターはルネに同情する。
今まで見てきた中で一番悪魔のような顔している。
それに加え、目が輝いている。
絶対に碌なことを考えてないとすぐにわかる。
アスターは「どうか馬鹿なことをしませんように」と祈るも無理だろうなと諦めていた。
「貴様!絶対に殺してやるからな!俺様を馬鹿にしたことを後悔させてやる!」
「どうぞ。できるもんならね」
ベロベロバー、と私は棺に向かって舌を出す。
「絶対に殺してやるからな!待ってろ!」
「いや、待たないけど。てか、なんで封印が解ける前提で話してるかわかんないんだけど。今から更にあんたに封印を何個もかけるから、出るのは難しいと思うけど?」
「え……?」
「は……?」
二人共、私の発言に驚く。
「何言ってんだ、こいつ」みたいな目をアスターから向けらるも無視する。
ルネはさっきまで私を殺すと息巻いていたのに、今は静かだ。
「アスター。降ろして」
アスターは指示に従い私をゆっくりと降ろす。
「さてと、じゃあやりますか」
私は棺を見下ろしながら笑う。