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その頃の男爵領。


「『ふん。いい買い物をした。これでこの甘味料は全て私のものだ』とか今頃言ってそうね。お馬鹿国王様は……全くそんなわけないのにね。まぁ、手紙を書いたときはあれだけしかなかったから嘘はかいてないけどね」


私は大量のメープルウォーターとここ一ヶ月でできたメープルシロップとメープルシュガーを見て笑う。


これだけあれば一年は持つ。


もう収穫時期は終わったので、あとは残ったメープルウォーターで作れる分は終わる。


「ああー。保存できるやつがあればもっと採れたのに。来年までには作らないとなー。面倒くさいけどね……」


私はため息を吐く。


「まぁ、邪魔者は排除したし、使用人達のイメージを払拭でき、甘味料も作り、借金は返済できた……はずだし。結構頑張ったわ。中々三ヶ月でできることじゃないわ。やっぱり私天才ね」


私はキメ顔で空を見上げる。


「お嬢様。独り言が終わりましたら、話しを聞いてもらえますか?」


いつの間にかオリバーが隣に立っていて驚く。


「いつからいたの?」


「『ふん。いい買い物をした。これでこの甘味料は全て私のものだ』ってところからですね」


「最初からじゃん。声かけてよ。恥ずかしいじゃん」


「全くそんな感じしないんですが」


オリバーは「どこに恥ずかがってる要素があるんだ?寧ろ変なものを見せられたこっちが恥ずかしいんですけど!?」と心の中でつっこむ。


「……もう、いいわ。それで何の話?」


アスターと違って面白い反応をしないので本題に入る。


「領地民から自分達も風呂に入りたいとのことです。それと石鹸も売って欲しいと使用人達にお願いしたと。どうされますか?」


「当然売るわ」


「価格はどうしますか?」


「材料は頻繁に手にいれられる?」


「はい」


「なら、利益が少し出るくらいの価格で売りましょう。どれくらいが適切だと思う?」


「……」


オリバーは今試されているのかと思った。


領地民のこと思った金額を言うべきなのか、それともローズの望む額を言うべきなのか。


ローズが変わったことは認めるが、それがいつまで続くかわからないいま何と答えるのが正解かわからない。


オリバーはどうにでもなれ、と思い本当に少し利益が出るくらいの値段を言う


「銅貨4枚が適切だと思います」


「なら、その値段で売って。風呂だけど、さっき騎士達から面白い情報を手にいれたの。先にそっちを片付けないといけないから悪いけど風呂はもう暫く待ってもらって」


「わかりました」


簡単に値段が決まり拍子抜けする。


もっと高い値段にしろと言われるとばかり思っていたから。


本当に変わったのか?領地民達のことを考えているのか?


オリバーはローズに対する好感が少しだけ上がった。


「話は終わり?」


「はい」


「なら、そろそろ民達に仕事を与えましょうか」


「仕事ですか?」


「ええ。私と契約したいもの達がいたら集めてくれる?」


男爵から許可も得たし、ようやく民達の私に対するイメージが変わってきた。


働かせるなら今だ。


石鹸をずっと買うためにも金が必要だ。


そのためには仕事がいる。


生きるためには人は働かないといけない。


この地ではほとんどの者に職がない。


飢えて死ぬ者がほとんどだ。


男爵も手を尽くしていたが、それでも無理だった。


今このときまでは。


私の知識と経験さえあればこの問題は一気に片付けられる。


そして大量の金を手にいれられる。


まさに夢の生活に一歩近づける。


「わかりました。早速募集をかけます。明日くるよう指示を出せばよろしいでしょうか」


「うん。そうして。早い方がいいからね」





次の日。


「……これだけよく集めたわね。本当に」


予想以上の人の多さに驚きを隠せない。


一体どうやってここまで集めたのか気になる。


もしかして、オリバーにも詐欺の才能があるのか?と疑う。


「私はただ張り紙を出しただけです」


「ならなんで?この人達私のこと嫌いよね?」


問題児のローズは両親からも使用人達からも嫌われていた。


もちろん主人公二人にも。


そんなローズが領地民から好かれるはずはない。


それなのになぜ、彼らは期待するよう目で私を見るのだろうか?


「それは間違いありません。お嬢様は大変嫌われておりました」


'こいつ……!'


はっきりと言うオリバーの頭を殴りたくなる。


「ですが、ここ最近の使用人達の話しを聞きお嬢様が変わったと噂されています。最初は疑う者もいましたが毎日、楽しそうに話す使用人達の姿を見て信じて見ようと言う者が増えました。何より、使用人達の清潔さを手に入れたいと思ったのでしょう。そして、裏切り者を炙り出し捕まえたのです。もし、お嬢様が捕まえなければスカーレット家は終わっていました。それだけでお嬢様を信用にたる人物だと判断されたのです。一番は甘味料の発見が大きいと思いますが」


オリバーも自分で言っていて、ローズに対するイメージが変わったなと気づく。


今のローズなら誠心誠意仕えるのも悪くはない。


「……それだけで?」


理解できなかった。


全て自分のためにやったし、そこまで大したことをしたつもりもない。


「はい。とても凄いことを成し遂げたのです。誇ってください」


ローズの「たかがこの程度で?」という顔に本気で言ってるのかと疑う。


どれだけ凄いことをしたのかわかったないのかと思ってしまう。


「そう……そうなのね」


私はニヤリと笑う。


つまり、今の私の言葉ならある程度なら信じて従ってくれるということだ。


これほど素晴らしいことはない。


結果が出るまでは反発が起きるのも覚悟の上だったが、いいことを教えてもらえた。


今の彼らなら無理矢理やるのではなく、自ら率先して給料以上の働きをしてくれるだろう。


予想していた日を遥かに上回るスピードで計画は進んでいくことになる。


'いやー。いいことをするのは本当に素晴らしいわね'


また一歩悠々自適な生活に近づき嬉しさのあまり顔がさっきよりもニヤけてしまう。


'また、悪い顔をしてる'


オリバーはせっかくローズに対するイメージが変わったのに、その顔を見た瞬間、勘違いだったかと呆れてしまう。


「さてと、さっさと契約して働いてもらいましょうか」


私は壇上へと登り用意してある仕事と内容を説明する。


用意してある仕事は全部で四つ。


一つ。水道管建設。


今騎士達の半数が作業している。


水道管を建設することでわざわざ汲みにいかなくても、川の水を領地まで運ぶことができる。


二つ。農業開拓。


この領地のほとんどは荒地が占めている。


それらを全て農地へと変え作物を作る。


現在騎士の半数が草を刈っているが、人手は多ければ多いほどいい。


三つ。石鹸作り。


石鹸はこれから大量に使われるようになる。


体を洗う。服を洗う。食器を洗う。


様々な用途で使われるようになる。


四つ。男爵家の騎士。


騎士は領地を守るためにその身を捧げる。


命令には必ず従うこと。



その内、ニと三は作った一割を男爵家におさめる契約になっている。


文句を言うなら雇うつもりはない。


たった一割で職を手に入れられ、専門知識も手に入るのだ。


安いものだ。


さぁ、どうする?


そう思って私は壇上から彼らを見下ろす。


「私は石鹸作りがしたいです」

「俺は騎士がいいです」

「俺は農業に興味があります」

「僕は水道管を作りたいです」


その彼らの反応が想像以上に好感的で拍子抜けする。


絶対少しは反発するだろうと思ったのに。


これなら一割じゃなくて二割でもよかったなと少し後悔する。


「落ち着きなさい!」


自分がしたいことを叫んでいた領地民は私の一言で静かになる。


「全員雇うから一列に並びなさい」


私がそう言うとすぐさま一列に並び。


そこから私は一人ずつ契約を交わした。


あまりの人の多さに気づけば空が暗くなりかけていた。


朝からずっと座りっぱなしでお尻がいたい。


あと一人で終わりだと気合いを入れ直し契約をし終えると、その男は涙を浮かべ私に感謝の言葉を述べた。


「お嬢様。本当にありがとうございます。おかげで路頭に迷う心配がなくなりました。精一杯働きます」


「ええ。これからよろしくね」


私は男の手を握り柔らかい笑みを向ける。


「はい」


オリバーはそのやり取りを見て意外だなと思った。


人を気遣える優しさがあったのかとそう思ったそのとき、男がその場から立ち去るとローズの顔が悪魔のような顔つきに変わり、やっぱり優しさなどとうの昔に捨てたんだなと改めて認識した。


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