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バレた


その日の夜。


「お呼びでしょうか」


「うん。そこに座って」


風呂から上がったら私の部屋に来るようアスターに指示していた。


そう言ったとき、物凄く嫌な顔をされたが無視してもう一度来るように言った。


今も物凄く嫌な顔をされているが、それを無視して私は話しかける。


「アスターには悪いけど頼みがあるの」


「嫌です」


「……まだ何も言ってないけど」


「言わなくてもわかります」


「なんで?」


その言葉にアスターも気づいていたのかと驚く。


さすが主人公と感心してしまう。


「今までの経験上わかります」


吐き捨てるように言う。


「わかるなら聞いてよ」


「嫌です」


「なんで?」


「私の仕事ではないからです」


「いや、あんたの仕事でしょう」


「いいえ。違います」


「いや、違わないけど?」


アスターが何を言っているのか理解できず首を傾げる。


どう考えても今から頼むことはアスターの仕事だから。


「違います」


「違わないって」


両者譲らない言い合いが始まる。


結構な時間言い合いをした。


疲れてお互い休憩する。


「……なんでそんなに嫌なわけ?」


「逆になんで許可してもらえると思ったんですか?」


「なんでって、騎士だから。騎士はこの家を守るための存在でしょう?」


「……?」


アスターは私はの言葉を聞いて混乱する。


何を言っているかわからなかったから。


少ししてその言葉の意味を理解すると、自分が勘違いしていたことに気づき恥ずかしくて死にたくなる。


「……わかりました。話を聞いてから判断します」


なんとか声を振り絞ってそう伝える。


「ようやく聞く気になったのね。最初から素直に聞いてくれたら時間が無駄にならなかったのにね」


ムカついて嫌味を言う。


いつもならすぐ反撃してくるのに、何も言わず顔を真っ赤にしているので急に熱でも出たのかと思う。


でも休むのは話を聞き終わってからね、と思いここに呼んだ理由を説明する。


「アスター。あなたにはグレイの監視をして欲しいの」


「グレイさんのですか?どうしてです?」


いきなり監視しろと言われ困る。


それも男爵家の執事として使用人達から好かれている人を。


「どうしてって裏切り者だからよ」


小説の内容でグレイが裏切り者で、この家に借金を背負わせた黒幕だと知っている。


そしてこのままいけばあと三ヶ月で男爵家は潰れ、両親とローズは死ぬ。


「……証拠はあるんですか?」


裏切り者。その言葉を聞いた瞬間、アスターの顔から感情が消える。


「今はまだないわ」


「なら……!」


疑うべきではないのでは、と続けようとするが手で制止され黙るしかなかった。


「でももうすぐ手に入るの。だから、あなたに彼を監視していて欲しいの」


「わかりました」


アスターはグレイが裏切っていると信じたくなかったが、今のローズが言うなら信憑性があると思い指示に従うことにした。


「うん。よろしくね。それにしてもごめんねー。こんな夜遅くに呼び出して。昼間だとやることあるし、人目があるから。夜早に呼び出すしかなくてさ」


「いえ。大丈夫です」


淡々と答える。


「そう?ならよかった。でも安心して。私のタイプじゃないから襲ったりしないから」


私はゲラゲラとおっさんのように笑う。


「え……?」


アスターは今の言葉が信じられず固まる。


自分の聞き間違いかと思って。


「え?って何よ。もしかして、私に襲われると思ったの?ないない。絶対ないわー」


私はおかしくて机をバシバシ叩く。


「……ん?ちょっと待って!もしかして、私の頼み事を断った理由ってそういうこと?急に話しを聞くって言ったのも?そういうことだよね?」


私はアスターがなぜ話しを聞かずに断ったのか理由がわかり大笑いする。


「あんた、私に夜の相手をしろと言われると思って断ってたのね。やばい。笑える。てか、笑いすぎて腹いたい」


笑い声が部屋に響き渡る。


笑いすぎて涙まで出てくる。


「お望みならお相手しようか?」


冗談でそう言ったが物凄い嫌な顔されキツい口調で断られた。


「結構です。失礼します」


アスターはそう言うと私の言葉を聞かずに出ていく。


「気にするしなくていいよー!勘違いは誰でもあるしさー!」


笑いすぎて息をするのが苦しくなり、ゴホッゴホッと何度も咳き込む。





アスターは部屋から出て廊下を歩いているが、ローズの笑い声が聞こえてきて腹が立つと同時に中身が別人だと確信した。


そもそもアスターが夜の相手をしろと勘違いしたのには訳がある。


それは一カ月前まで、本物のローズから頻繁に言われていたから。


最初は付き合って欲しいだったが、年頃の女性になってからは体だけでもいいからと言われていた。


男爵夫妻はこのことを知らないため、ことを荒立てたくなくやんわりと断っていた。


だが、二ヶ月前酷くなってきてうんざりしていた。


男爵に本気で相談しようか悩んでいる内に一カ月前からパタリと言われなくなった。


これも気を引く作戦かと思ったが、途中から違うのではと感じていた。


なのに今日部屋に呼び出され頼みがあると言われ、結局作戦だったのかと失望した。


本気で変わったのにと信じていた気持ちを裏切られ。


でも実際はそうじゃなかった。


そしてタイプじゃない発言。


あれは嘘ではなく本気で言ってる顔だった。


名も知らない偽物はその体の人物が問題児であると言うことには気づいたが、細かいとこまでは把握していない様子だった。


多分記憶が受け継がれてない。


あの様子だと入りたくて入ったのではないとわかる。


もし自分に置き換えて考えると、絶対にローズには入らないと思った。


もし入るならもっといいところに入っただろう。


金もあり、容姿も性格も全てが完璧なところの娘に。


故意ではないのなら、もう少し様子を見てから男爵に報告してもいいかと考える。


それに本物が今どこにいるかもわからない今はどうしようもできない。


でも一番の理由はローズから解放されたかったから。


男爵が命の恩人だからといって、娘の非常識な言動はさすがに許せない。


男爵家の騎士となりこの身を捧げると誓った以上、本物のローズを守る必要があったため傍を離れることができなかった。


だが今は偽物がお嬢様。


今アスターが優先して守らなければならないのは偽物の方。


そう自分に言い訳をしながらアスターは眠りにつく。


ローズの心配がなくなったいま、何年振りか安心してぐっすりと眠れた。

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