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アイリーン


「私はローズ・スカーレット。あなたの名前は?」


私が尋ねると妖精王は嬉しそうに笑う。


「アイリーンと申します。人々は私のことを水の妖精王と呼んでいます」


'妖精王!?……一体どこまで計画のうちなんだ!?'


アスターは助けた妖精が水の妖精王だと知り驚愕した。


「アイリーンね。あ、そう呼んでいいかしら?」


「はい。もちろんです。私はご主人様と呼ばせていただいただいても宜しいでしょうか?」


「構わないわ」


'妖精王にご主人様と呼ばれるのは気持ちいいわね'


私が気分がよくなり顔が緩む。


'また悪い顔になってる。今度は何を考えているんだ……'


アスターはローズがまた碌でもないことを考えていると思い頭が痛くなる。


「ありがとうございます。それでご主人様の領地はどこにあるのでしょうか。そこまでお連れします」


アイリーンは私にいいところを見せるチャンスだと思いそう提案するが、私はそれを断る。


「ありがとう。でも、馬で帰るわ」


私がそう言うとアスターはバッと勢いよく「何言ってんだこいつ」と言う顔で見てくる。


そんなアスターの視線に気づいていたが、あえて無視した。


「もしかしてご迷惑でしたか?」


アイリーンは余計なことを言ったと項垂れる。


「ううん。そんなはずないわ。とても嬉しかったわ。ただね……」


嬉しい、と言う言葉を聞いてアイリーンはパァッと目を輝かせる。


「妖精王と契約したことがバレると大変なことになるから内緒にしときたいの。もしアイリーンの力で帰ったら、噂になるでしょう。そうしたらそう遠くない未来に世界中の人がそのことを知り、私を利用しようと力で脅すわ」


私の言葉を黙って聞いていたアスターは「確かに男爵令嬢が妖精王と契約したと知れば、国王や貴族達がこぞって利用しようとするな」と簡単にその未来を想像できた。


「だから、このことは私達の秘密にしたいの。それでもいいかな?」


いい、と言うとわかっていて敢えてそう尋ねる。


あくまで決定したのはアイリーンだとするために。


「もちろんです。ご主人様が欲深い人間に利用されるのは我慢できませんので」


アスターはアイリーンのその言葉を聞いて「いや、一番欲深い人間は多分この人です」と思うも、疲れて会話に入る気力すらなかった。


「ありがとう。アイリーン」


私は必死に顔がにやけそうになるのを必死で耐え、笑顔を浮かべる。


そうして四日間、馬で領地へと戻る。


アイリーンは妖精王だとバレないよう手のひらサイズの水の妖精へと姿を変える。


髪の色は水色のままだが、瞳の色が黄金のままだとバレるので水色へと変える。


水の妖精達は王以外、髪も瞳も水色だから。




「お帰りなさいませ。お嬢様」


オリバーと料理人達が出迎える。


「オリバー。頼んでたのは?」


「用意してます」


「そう。よくやった。じゃあ、とりあえず騎士さん達のところに行きましょうか」


私は早く風呂に入りたくて騎士達の元へと向かう。


'よくやった……今そう言ったのか?'


オリバーはローズからその言葉が出てきたのか信じられずその場に立ち尽くす。


ローズは使用人に感謝するような性格では決してない。


やって当然という考え方をする人間。


'あれは本当にお嬢様なのか?'


オリバーは私の後ろ姿を見つめ、疑いの目を向ける。



「きゃあああー!」


私は小さな小屋の中をみて嬉しくて叫ぶ。


元の世界と比べたらお粗末だが、風呂に入るのには充分。


ちゃんと指示した通りに作っていた。


「ようやくお風呂に入れるー!」


私は喜びのあまりテンションがおかしくなる。


そんな私の姿に主人公二人と騎士達はドン引きしていた。


オリバーが軽く咳払いをしてから私に話しかける。


「お嬢様。お気に召しましたでしょうか?」


「召しました!皆の者よくやった!褒めて遣わす!褒美に明日美味しいご飯を作ってあげるわ!」


今日は疲れてるから風呂に入ったらもう寝たいので、作るのは無理だ。


「ありがとうございます!」


私の料理の腕前はサイギアードに行ってる間に、使用人達の間で噂になっていた。


最初は料理人達の舌がおかしいだけだと馬鹿にしていたが、オリバーも認めると皆が信じ一度でいいから食べてみたいと思っていた。


だから騎士達は私の料理を食べれることになって喜んだ。


私の指示通りに作ってクビにならずに済んだのに、そのことを忘れ明日のご飯の時間が楽しみになった。


「さてと、風呂に入る前に石鹸を作りましょうか」


元の世界で石鹸を作ったことがある。


悪党を騙すのに必要なことだったので、興味もなかったが石鹸に関する知識は専門並みにある。


まさか、こんな形で役に立つことになるとは予想もしなかった。


この世に無駄な知識は一つもないな、と改めて思った。


「石鹸とはなんですか?」


アスターは首を傾げる。


元の世界では石鹸の歴史は5000年前からあるが、この世界では2年後に初めてできる。


だが石鹸が受け入れられるのは50年後、皆が使うようになるのは300年後と書いてあった。


だから、いま私以外石鹸が何かを知るものはいない。


「それはね……とっても体にいいものよ(金になるものよ)」


私は誰も知らないものを普及させ、金儲けすることを風呂を作ると命じたときから考えていた。


'あっ。これ絶対何か悪いこと考えてるときの顔だ'


アスターは二週間ずっと傍にいたので表情で私が何を考えているのか大体わかるようになった。


「例えばどんな風にでしょうか?」


オリバーが尋ねる。


「石鹸を使うメリットは二つあるの。一つは体を清潔に保つことができること。汗でベタついた体を石鹸を使って洗うことで綺麗にすることができるの」


私の説明に二人は「とうとう詐欺師になるのか」と思った。


二人の顔はわかりやすく何を考えているのか馬鹿でもわかる。


'本当に失礼ね。てか、今度だけ頑張ったのに一向に信じてもらえる気配ないんだけど……あんた、本当に何をしたらこんなに嫌われるわけ?'


私はローズのクズさを改めて知り泣きたくなる。


どれだけ頑張っても評価されるまでの道のりは遠い。


私は気を取り直して軽く咳払いをしてからもう一つのメリットを言う。


「もう一つは、病気の予防になるからよ。こまめに手洗いすることで、健康な体を維持できるの」


「……」


二人はそんな簡単にできるなら、薬剤師や魔法使い達がとっくに見つけている、と私を憐れむような目をする。


その目は「そんな嘘までついて褒められたいのか」と物語っている。


私は二人を思いっきり殴りたかったが、この体では逆に私が怪我をするためなんとか耐える。


「……よーくわかったわ。なら、私の言葉が正しいと証明してあげるわ。石鹸がどれだけ素晴らしさのかをね」


二人は何も言わなかったが、同時に同じことを思っていた。


'あの顔で言われるとやっぱ腹立つな'


「オリバー。頼んでいたのはどこにあるの?」


「こちらに」


小屋の外にポツンと置いてあった木箱をもってくる。


私はそれを受け取り、早速石鹸作りを開始する。


今回は簡単にできるものを作る。



この世界はほぼ完璧に昔と同じような時代になっているが、決定的な違いがある。


それは魔法使いがいるか、いないか。


それと魔物がいるか、いないかの違いだ。


この違いは大きい。


魔法使いの協力があれば元の世界の物をこの時代でも作り出せることができる。


私は元の世界のアーサー・C・クラークの言葉、クラークの三法則の第三を思い出した。



『十分に発達した化学技術は、魔法と見分けがつかない』



確かに昔の人が現代の人を見たら魔法だと勘違いするだろう。


この世界にきて過ごした私がそう思うのだから、間違いなくそうだろう。


それだけ化学技術が発達しているのだから。


そこで私は思った。


逆も然りなのでは、と。


十分に発達した魔法は、現代の科学技術と見分けがつかない、のではと。


'まぁ、この石鹸作りは私が作るから魔法では作らないけどね。でも、妖精王の力なら間違いなく現代の科学技術と同等の役割を果たせるわ'


私はこの世界でも現代と同等の生活がおくれると確信していた。


道のりは遠いが、それを私が作れば大金を稼せげる。


最高過ぎて、笑いながら石鹸を作りをしてしまう。



「手遅れですね。医者でも治せませんね」


「諦めましょう。あれは人の手に負えません」


二人は私の作る物に興味を持つが、作る姿はイカれてるとしか思えなかった。


見慣れ過ぎたのか、二人は他の人が見たら悲鳴を上げて逃げ出してしまうレベルの顔の怖さなのに何も思わなかった。


寧ろローズの近くで応援しているアイリーンを見て哀れに思っていた。


「あんな人と契約したために、頭がおかしくなったんだな」


と、心の底から同情していた。


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