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1.新入社員の武飛ばされるって

 

 俺の名前は佐藤さとう たけし。半年前まで大学生だった俺は無事に大学を卒業し、現在は”株式会社マオウカンパニー”に勤めている。

 株式会社マオウカンパニーは交邑生まおう瑠璃るりという女性が社長のベンチャー企業だ。ここ数年で急激に売上が上がり一昨年上場したばかりの企業で、キャッチフレーズは『世界を変える働きを。納得する解決策をあなたに!』だ。この会社は色々な業務を行っているが、俺が所属している部署の仕事内容は主にクライアントから依頼を受け課題解決を行う『コンサルタント』業務だ。特別な資格はいらないがクライアントによっては膨大な専門的知識を必要とすることがあるため日々勉強が絶ず中々忙しい。早く一人前になるためにも、今日も頑張らなければ。


 一人そんな風に考えながら出社すれば前から歩いて男性と視線が合う。

 

「あ、竹畑たけはたさん!おはようございます!」

「おはよう、早いね。今日も一日よろしくね」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」


 元気よく言えば竹畑さんも笑顔で答えてくれる。竹畑さんは俺の教育担当をしてくれている人で、今年で入社して四年目となる先輩社員だ。仕事以外でも色々と相談に乗ってくれる優しいで。俺は良い教育担当の人と出会えたと思う。竹畑さんに「それでは」と会釈をし自分の席に荷物を置きに行こうとした瞬間、何かを思い出したかのように「あぁ、そういえば佐藤くん」と会話が続く。


「さっき、社長に呼ばれたんだけど佐藤くんが出社してきたら”社長室に来て欲しい”って伝えてくれって言われてね」

「社長が?……私を、ですか?」

「うん」


 思わぬ人からの呼び出しに俺は思わず聞き返す。

 ……特に何もやらかしいないはずだが、何かやらかしてしまっただろうか。

 あまりにも不穏な呼び出しに最近の出来事を深く思い出せるように考え込んでしまうが、竹畑さんはそんな俺を落ち着かせるように笑顔で答えてくれる。


「そんな不安そうにしないで。社長は怒っている感じじゃなかったし、それとなく聞いて見たけど何か頼みたいことがあるみたいだよ」

「……頼みたいこと?入社して一年も経っていない俺に?」

「あはは。それだけ佐藤くんの頑張りが社長にまで届いていたってことじゃない?――あ、これから会議の準備しとかないと。じゃ、佐藤くん。そういうことで社長室に向かってね。必要なモノはないはずだから荷物だけ席においてなるべく早く向かってね!」

「え、ちょ!?…………えぇ?」


 竹畑さんは「じゃ!」と手を上げると早足で去っていた。

 一人取り残された俺は若干腑に落ちないモノの、とりあえず竹畑さんに言われた通りに荷物を席に置きに行く。


(……俺の頑張りって……どちらかと言えばまだ俺はまだ研修中だぜ?なんか手柄をあげるようなことはしてないんだけど……誰かと間違えているとか?)


 なぜ俺が呼ばれているのか、荷物を席に置き廊下を歩きながら考えていればあっという間に社長室の前にたどり着く。


(ま、考えても仕方ないか。とりあえず何かやらかしたことはないだろうし……よし)


 一度深呼吸してからノックをすれば「どうぞ」と声がかかる。「失礼します」と声をかけてからドアを開けると、そこには書類とパソコンを交互に見ている社長の姿が見える。

 

「……失礼いたします、佐藤です」

「――あぁ、佐藤さん」


 忙しそうな社長に声をかけるのは憚れるが、ただ突っ立っている訳にもいかず声をかけると、社長ははじかれたようにこちらに視線を寄越す。よくよく見ると社長の目元には薄らとクマが出来ている。どうやら少しお疲れのようだ。

 手短に要件を聞いて退出するのが最善だと考え俺は早速本題に入る。


「社長がお呼びとお聞きしたのですが、何かございましたでしょうか」

「えぇ。実は佐藤さんにお願いしたいことがございまして」

「……失礼ながら、私で合っていますか?」

「はい。佐藤さんへのお願いなので貴方で合っています」


 俺の疑問に社長はにっこりと笑って答える。

 一切迷わず言い切ったことから本当に俺に用事があったことがわかるが、ますます呼ばれた理由がわからない。本当に何かしでかしてしまっただろうか。

 けれど、社長は俺の心配をよそに明るく声をかけてくる。


「どうぞ、こちらにお掛けになって」

「……失礼いたします」


 社長の言葉に素直に座れば、社長が一枚の紙を持ってくる。「はい」と手渡されれば俺はその紙をマジマジと見てしまう。

 何せ紙には『秘密定義書』と書かれているのだから。驚きのあまり社長に視線をやるが、「どうぞ読んで」と言わんばかりに微笑まれる。

 これで人間違いだったらどうしよう、と不安がよぎるが意を決して紙と向き合い、恐る恐るページを捲った次の瞬間――。


「っ、!?」


 辺り一面が光りに包まれる。眩しさのあまり、紙から手を離し両腕で顔を隠してしまう。一体何が起きたのだろうか。

 光りがどのくらい続いていたのかわからないが、しばらくすると光りが徐々に弱まるのがわかり、ゆっくりと目を開ける。するとそこには――。


「なっ、はぁあ!?」


 先程まで見ていた社長室の風景から一変し、廃墟の風景になる。思わぬ自体に「は?」とか「いやいや」「なんでぇ!?え?!」と独り言を言っていると、ぽんっと肩に手を置かれる。


「ぎゃー!?」

「あら。満点のリアクション」


 振り向けば満面の笑みを浮かべる社長の姿が見える。


「ちょ、脅かさないでくださいよ!」

「ふふ。子供心が擽られてしまって」

 

 俺の反応が良かったからなのか、社長は未だにクスクスと笑っている。

 何か一言いってやりたいが、それよりもまずは状況把握を優先する。


「社長、怪我はありませんか?突然……って、何で進んでるんですか!?」

「? あぁ、大丈夫ですよ。私の後に付いてきてください」

「え、ちょ!?」


 社長はそう言うと廃墟の奥へどんどん進んで行ってしまうため、俺は慌てて後を追うしかなかった。




 

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