プロローグ
もっと疑うべきだった、もっと情報を集めるべきだった。
後悔しても、時間は巻き戻らない。
俺が一人、思考を巡らせていると社長がそっと耳元で囁く。
「期限は一週間です。それまでに必要最低限のことは済ませてくださいね? さぁさぁ! 仕事の時間です。直ちに取りかかるように」
そう言って社長は笑うと、闇に溶けるように消えていく。廃れたこの場に大量の本と資料を残して。
1人残された俺は何も言えずにただ突っ立ってしまうが、突然くいっと袖を引かれる。
「……タケシ。シロハはどうしたいいの?」
幼い少女が小首をかしげ、俺に助けを求めてくる。正直に言ってしまえば、今すぐにでも仕事をボイコットしてしまいたい。だが、今俺がいる世界は俺の知っている世界ではない。逃げたところで逃げ場はないし、きっと逃げてもこの少女に捕まって死んでしまうだろう。なにせ、この少女は魔王なのだから。
どれが一番最善な選択なのか思考を巡らせるが、初めから俺に残された選択肢は1つしかない。
「…………では、まずはシロハ様の考えているプラン。そして今後どうしていきたいのかを私めにご教示していただきたく存じます」
ぐっ、と逃げ出したい気持ちを抑え込み、俺は少女の――魔王というクライアントの課題解決を遂行するため自分のすべき仕事に取り掛かる。
――果たして俺は無事に生きて帰れるのだろうか。