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コメディ:おとぎ話シリーズ

王子さまは白雪姫を、助けられない

作者: 家紋 武範

「お嬢さん。林檎はどうかね?」

「ありがとう! おばあさん」


 白雪姫は王妃の化けた魔女から、毒林檎を受け取ってしまった。


「あ、あ、あ~~~!!」

「うひっひっひ! ほーっほっほっ!」


 あわれ。白雪姫は毒林檎を食べて死んでしまったのです。そこに、仕事を終えた七人のこびとが帰ってきました。


「ハリハリホー」

「ウチに帰れば白雪姫がいる」

「パリパリに乾いた洗濯物」

「あったかいお布団」

「あっついお風呂」

「美味しい夕飯」

「オイラたち、白雪姫が大好きさ」


 仕事道具を片付け、家の中に入ると白雪姫が床に倒れています。七人のこびとは白雪姫に駆け寄りました。


「どうしたんだい、白雪姫?」

「ぐったりしてるおかしいぞ?」

「顔も死人みたいに真っ青だ」

「あれ? あんなところに林檎が落ちてる」

「まずい。この臭いは毒だぞ」

「まさか毒林檎を食べて死んだのでは?」

「おー! なんてこった!」


 七人は嘆き悲しみました。大好きな白雪姫が死んでしまったのです。白雪姫は王子さまのキスでないと目覚めません──。


「……いや、死なせはしない!」

「死なせるもんか!」

「まだ間に合うかもしれない!」


 こびとたちはすぐさま白雪姫の回りにしゃがみこみます。こびと4は彼女の肩を叩きました。


「聴こえますかー。1、2、3、反応なし! こびと5は救急車呼んでください!」

「はい!」


「こびと7はAED持ってきてください!」

「はい!」


 こびと5はスマホを取り出し、消防署に連絡。こびと7はAEDが設置されている近所の集会所に急ぎます。


「もしもし。はい。救急です。息は……してません。はい。今AED取りに行ったところです。はい、今スピーカーに切り替えます」


 消防からの指示で、こびとたちはスマホをスピーカーにし、指示通り行動し始めました。


「はい、胸と腹部。1、2、3、4、5、6、7、8、9、10。呼吸なし! 心肺停止! 胸骨圧迫開始!」

「よし!」


 こびと3は、白雪姫の胸をあらわにし、横腹の位置に座り胸の中央に手を当てたのでした。


「胸骨圧迫! 1、2。1、2。1、2。1、2」


 それを一分から二分。これによって血液は脳へと人工的に送り込まれ、生命維持するのです。

 二分経つと、こびと6は高く手を上げました。


「交代します!」

「よし!」


 こびと3に代わり、こびと6が今度は胸骨圧迫です。疲れる前に交代し、より長い胸骨圧迫をすることが生命維持では大事なことなのです。


「姫、戻ってきてください! 1、2。1、2。1、2。1、2」


 人命救助は時間との戦いです。そこに王子さまがやってきて白雪姫の美しさに心奪われたのでした。


「おおう。なんと美しい姫だろう……」

「AED持ってきました!」

「よし!」


 AEDには音声メッセージが流れ指示がでます。こびとたちはそれに従い、白雪姫の胸と脇腹に電極パッドを取り付けました。


「美しい。その唇に吸い寄せられるようだ。……彼女にキスしてよろしいかね?」

『電気が流れます。離れてください』


「はいみんな離れて!」


 こびとたちに押されて、王子さまは壁際へと追いやられました。

 その刹那、激しい電流に白雪姫の胸はドンっと跳ね上がる。


「まるで、白い雪のような姫だ……」

「心音確認!」

「ありません!」

「よし、もう一度だ!」


『電気が流れます。離れてください』

「はい、みんな離れて!」


 キュイー、ドン!!


「是非とも私の妻に迎えたい」

「今度はどうだ?」


 こびと1が確認します。


「心音確認!!」

「……あります!」


 涙を流しながら言うこびと1に、歓声が沸き起こります。

 その時でした。白雪姫は、咳をしながら起き上がったのです。そのとたん、白雪姫の口からコロンと林檎の破片が飛び出しました。みるみる白雪姫の血色が良くなっていきます。


「おお、姫。私は隣国の王子であります」

「もしかして……、みんなが助けてくれたの?」

「「「えへへへへ」」」


「ありがとう! みんなみんな大好きよ!」


 王子はこびとたちを押し退けて前にでます。そして白雪姫の前に跪きました。

 その時、ストレッチャーを押した救急隊員が入ってきました。


「患者さんは? あのかた。はい、皆さんどいてください」

「ご自分のお名前言えますかぁー?」


「は、はい。白雪姫」

「はい。意識正常。動かないでくださいねー」


 救急隊員は、白雪姫の体を抱えてストレッチャーに乗せます。こびとたちは不安がって救急隊員のほうを見ます。彼らはそれにニコリと笑いかけました。


「彼女が意識を取り戻したのはみなさんの的確な処置のおかげです」


 その言葉にみんなの顔はパアッと明るくなりました。

 白雪姫は軽い検査の後、こびとたちの待つ家に帰ることが出来ました。

 軒下に立つ、白馬の王子さまを一瞥するも「?」だったので、さっさと家の中に入り、みんなと喜びあったのです。


 こうして、白雪姫とこびとたちは幸せにくらしたということです。




 めでたし、めでたし。

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― 新着の感想 ―
[一言]  毒まみれのくちびるにキスするより、よっぽど現実的な——とおもったら、あれはあれで人工呼吸?(笑)  気道の確保も大事ですね。  肋折れるらしいですから、しばらくはお大事に。
[一言] 実はその毒はコロナウイルスだった……
[良い点] 王子様が空気のよう!(笑) 彼の存在感がみんなの記憶に残るには、もはや一緒に感電して骨が透けて見えるとかアフロヘアになるとか、古典的なお笑いネタで爪跡を残すしか無さそうですね。
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