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黒魔術殺人事件  作者: 立花 優
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第八章 教師の独白

第八章 教師の独白


 さて、ここで話題は変わるが、イソップ童話を思い出していただきたいのだ。



 たわわな葡萄に手の届かなかったキツネは、「あれは酸っぱい葡萄だ」と言って舌打ちして去って行った話しを…だ。



「そんなたわわな葡萄自体が存在するから欲しくなるんだ」と言って、私は、葡萄の木を、根こそぎ切り倒す事を選んだのだ。


 

しかし、どのみち金田が捕まえられれば全てが暴露されてしまうのは間違いが無い。



 その前に、私は、この今までの経緯を記した手記を発表して、全てのケリを付ける覚悟なのだ。



 つまり、今からこの小説風の手記をメールで地元の各新聞社へ送るつもりなのだ。これにより日本中が震撼した『女子高校生・生体解剖殺人事件』の総ての謎が解ける事となる。



 私の人生はこれで終わった。

 それでは、短き我が人生よ、太宰治風に言えば「グッド・バイ」。



【西暦202○年9月23日午後8時30分記す、その後各新聞社にメール送信済み。】



 さて、このメールが、地元新聞社の各社に届けられた後、直ちに、警察は金田の元担任の鈴木昭一教師宅へ直行した。



確かに、そのメールの予言通りに、街外れの一軒家に1人で住んでいた鈴木昭一は、自宅前の駐車場に置いてあった自分の愛車の中で、ガソリンを被って焼身自殺をしていた。



さらに翌日になって、今度は鈴木昭一教師の自宅の裏庭付近で、金田誠二の縊死死体が発見されたのである。



 急転直下、事件は全て終結したのである。



そう、警察やマスコミは大々的に報道した。 



 確かに、金田誠二宅から、黒魔術の本がそれぞれ十冊以上も押収された。



 金田の所有していた本には、アレイスター・クロウリーの黒魔術のみならず、カバラの秘術や数々のカルト教団の本、更にはアドルフ・ヒットラーが当初属していたとされる秘密結社トゥーレ協会に関する本等々、その他黒魔術とは直接・間接に関係は無いが、今回の事件に直結する解剖等に関する医学書や薬学関係の本が多数押収された。



また、極め付けの話としては、鈴木昭一教師宅の書斎には、先程のメールを裏付けるかのように、やはり、催眠術関係の本が数十冊も積んであったという。……これで決まりであった。



 つまりこれらの事から、鈴木昭一教師が殺人教唆(金田少年への生体解剖実験の催眠術を使っての

教唆)を行い、金田誠二がそれを実行した。そして2人とも事件の発覚や逃げ切れない事を悟り各々自殺したとされたのだ。



 結局、被疑者死亡のまま書類送検され、あれほどマスコミを騒がした『女子高校生・生体解剖殺人事件』(日本のマスコミは今回の事件をこう名付けた)、2人の自殺自体発見後の、約1週間経った頃には、いつのまにか、遠い過去の事件のような扱いにすらなってしまったのだった。



 何故なら、この事件に触発されてか、それからと言うもの、全国で、青少年らによる猟奇的や残虐な事件が次々に続発したからなおの事、世間がこの事件への関心を薄めていったからだ。



 しかし、今回の事件の結末に1人だけ、疑問を持った者がいた。



 全国的な新聞社で、創刊100年以上もの伝統を有する毎読新聞の社会部の記者、神尾孝司である。



 彼は、今回の大事件後、地道に金田誠二の中学校、並びにS大学付属高校の同級生らを廻り、裏で糸を轢いていたとされる鈴木教師の評判や金田の本当の生の声を集めて廻ったのだ。



 容疑者2人が自殺してから2週間後、神尾孝司は、毎読新聞の北陸支社ビルを訪ねた。


 彼の叔父さんの、神尾豊は、毎読新聞の北陸支部の編集長であった。T大文学部卒であり、秀才で通っていた叔父さんを神尾孝司は尊敬していた。



 ちなみに、神尾は東京の私立の名門Q大学文学部を出ており、叔父さんに憧れて毎読新聞社に入社していた。年齢は、鈴木昭一教師より年上で33歳であり、鈴木と同じように独身であった。



神尾は、今回の事件の主役となった鈴木昭一や金田誠二が住んでいた市の支局を任されていたのだ。


 編集長室で、久々に叔父さんと会った。叔父さんは、40代後半だが、既に毎読新聞の北陸支社編集長にまで出世している。



 大きな編集長室で対面すると、いくら叔父さんとはいえ、威圧感を感じる程だ。



「孝ちゃん、今回は、大事件があった地元の市の支局担当だけあって、大変だったろう」と、編集長が先にねぎらいの言葉を掛けてくれた。



「まあ、1週間ほどは不眠不休と言ったところでしたね、もうワヤワヤな生活でした。今回ほど、嫁さんがいて欲しいと思った事はありませんよ」



「まあそう焦らんと、近いうちに、私がこの支社内でもとびきりの美人を紹介してやるよ。で、今日は、何の用で…」

 


「叔父さん。いや、編集長は、今回の事件の真相は、警察の発表通りと考えますか?」

と、神尾孝司は、訪ねた。



「金田少年が精神的にどういう病気だったかは定かではないが、彼が実際の実行犯だった事は、被害者の恋人の体内に大量の彼の体液が残っていた事や、その日、被害者宅を訪ねたのは金田少年しかいないのだから、これは100%実行犯だろう。



 鈴木昭一教師の殺人教唆も、恋愛がらみなら動機としてはありえない事もない。



 それに、鈴木教師の自宅からは、催眠術の本、それも超難解とされるエリクソニアン催眠法の本が十冊近くあったそうじゃないか?ほとんどそれで決まりじゃないのかなあ…私個人としては、まあ警察の発表が一番正確だと思うんやけどのう」



「それが、叔父さん、実際の生の声は、どうもそうではないみたいですよ」



「と言うと…」


 

 神尾孝司は、事件後、クラスメート達に直にあたって、色々な意見や感想を集めていたのだ。



「確かに、金田少年が、交通事故に遭った後、性格や能力が激変した事は、中学校の級友達も証言してます。休み時間には、相対性理論の難しい本を読んでいた言うし、そもそもS大学付属高校に合格していますが、あそこは私立の超名門高校ですから、金田少年のいた中学校では学年で最低でも常に3番以内でないと合格は難しいのに、いつのまにかちゃんと合格してますからねえ…。



 交通事故に遭う前まではどんなに勉強しても学年で20番以内に入った事もなかった金田少年がですよ。



 ただ、問題は、鈴木教師のほうながです。



 私の知り合いの方の娘さんが、被害者の田中江美と同級生だったらしいので、それとなく聞いてみたんですが、鈴木教師は、田中江美に対して、あのメールに書いてあったような特別な感情を有してはいなかったらしいんです」



「どうしてそれが分かるんや?」



「そこが、女性の同級生特有のカンて言うやつでしょう。と、なると、本当に鈴木教師は、田中江美殺害のために、金田少年を殺人教唆するほどの強い動機があったのでしょうかねえ?」




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