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黒魔術殺人事件  作者: 立花 優
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第六章 実験の失敗

第六章 実験の失敗



 金田の超人的な頭脳は、既に歴史上の人物でもあったアレイスター・クロウリーやアドルフ・ヒットラーの追い求めた黒魔術の奥義の域を超えていたのだ。少なくとも自分では、それだけの自身があったのだ。



 ここで、この場で、悪魔を緊急に呼び込む!



 この時点で、田中江美がまだ生きていた事は、胸の鼓動やごく弱い呼吸が、狭いユニットバスの空間内で、金田自身にも確かに感じられていたから、間違いが無い。



 金田は、バッグの中から、最後の備品を取りだした。自分の家の医院から持ち出してきた手術用のメスである。銀色に光るメスに、少し開けてある窓越しから差し込んだ月光が淡く反射した。



 全ての準備が整った後、金田は、以前読んだ人体解剖書を思い起こし、ユニットバスの床で上の生きたままの彼女の体にゆっくりとメスを突き立てた。



 以前に読んだ人体解剖の書物では、いきなり内臓の解剖には入らず、上肢・下肢からの比較的人体構造が複雑でない部分から解剖していくらしいのだが、金田の場合は、最終的には、生体解剖後に、黒魔術の儀式に基づき彼女を蘇生させる事が最大の目的のため、敢えて複雑な内臓の解体からスタートした。



 つまりは、内臓の胃の上部からメスを突き立て、剥皮を行い、胃や腸や肝臓等々を確認後、一端取り出し、その後再び人体に戻すのだ。



 次に、手術用鋏で胸骨を切断し、心臓の摘出と再埋め込み後、フランケンシュタインよろしく、手術糸で縫い合わせする予定であった。



 しかし、相手はまだ死んではいない、生きている人間であった。いくら筋弛緩剤を注射したとは言え、筋弛緩剤のみでは苦痛は完全に軽減されるものではなかったらしい。



 最初のメスを月明かりの下で突き立てた時、田中江美の体は異様に大きく反応した。 

あまりの苦痛に、睡眠薬とあれだけの筋弛緩剤の注射で、もう動かないであろうと想像していた彼女が、微妙に痙攣してどうしようもなくなったのである。



 口にガムテープを貼ってあったので、大声が出なかったのが不幸中の幸いであった。

 その筋弛緩剤の注意書きには、あくまで麻酔剤と併用する事と記載されていた事を思い出したものの後の祭りであった。



 最悪の場合、この際クロロホホルムを利用して眠らせようとしたものの、しかし良く良く考えてみれば、狭い浴室でそのビンの蓋を開ければ、自分も吸引して意識を失ってしまう事に気が付いた……。


 

 出血も思った以上に大量で、バスルームは鮮血で溢れた。祭壇にもなっているバスルームの洗面台の鏡には、頭から血を浴びた金田自身の顔が血で赤く染まりながらも青白く映っている。



 ともかく腹筋を切り開き、次に腹膜を切開して、ピクピク動いている胃を取り出すので精一杯であった。……これ以上は、彼女に苦痛を与え過ぎる。それに、今まで何とか我慢してきたものの、現実の人間の内蔵に直接接して、金田自身の気分も悪くなってきた。



 このままでは、吐きそうだ。



 ここまでだ!と金田は観念した。

 生体解剖の遂行を中止し、取り出した胃を体内に戻した後、一気に心臓にメスを突き立てたのである。



 田中江美は、即死した。



 それから、金田は、急いで黒魔術の本儀式に取りかかった。ここからが、正に勝負なのだ。



 必ずや、田中江美は蘇ると信じながら、必死で奇妙な文言を唱え続けたのである。仏教で言うマントラのようにも聞こえるが、古代ペルシア誤での呪文だと金田は確信していた。そう、夢の中で見ていたからだ。



 しかし、田中江美は、結局、生き返らなかったのである。



 生体解剖実験後、金田誠二は事件現場となった高級マンションのバスルームに、



「我、人体蘇生実験ニ失敗セリ」と手書きのメモを残している。



 筆跡と血染めの指紋から、金田誠二が真犯人なのは、マンションの管理人や設置された24時間対応用防犯カメラからも、動かしがたい事実であった。



 なお、金田誠二は、自宅から数百万円単位の現金を持ち出してきており、現在、逃走中だが、いずれ、捕まえられる事はほぼ間違いが無いであろう。



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