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黒魔術殺人事件  作者: 立花 優
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第四章 黒魔術

第四章 黒魔術


 だが、金田の今回の考え「死体蘇生実験」に対してだけは、それが如何に無謀で猟奇じみていて、しかも社会の常軌から逸脱した考えであるかの理性の判断が、全く働かなかったのだ。



 テレビの報道番組では、この狂気の事件後、著名な学者先生の1人が、真犯人の少年(金田誠二)をして、パラノイア(偏執狂)的症状が原因ではないか?と意見を述べていたが、それは当たって無いと私自身は思っている。



 また、ある有名な女性霊能者が、今回の事件の真相は真犯人の少年に「悪霊が取り憑いたからだ!」とテレビ討論会の中で大声で絶叫したため、同じ番組に出演していた他の教育評論家や心理学者の方々の失笑を買っていたが、しかし、それもあながち間違ってはいなかったとも言えるのだ。



 だが何はともあれ真実はそう簡単なものでは無かったのだ。金田は既にもっともっと別の人間に進化(超人化)したのだ。…あの、交通事故に遭って以来。



 さて、約5分にも及ぶ長い抱擁のあと、田中江美は、涙目で金田を見ていた。初キスによる、ショックと歓喜で、目の表情が定まらない。更に、追い打ちをかけるように、金田は言った。



「来年、一緒に、S大学付属高校へ行こう」



 かくして翌年の202○年4月、2人晴れて、私立の有名進学高校であるS大学付属高校特進学科へ合格。



 田中江美は、高校に通うのに不便だとして、父親の所有するオートロックは勿論、エアコン、バス・浴室乾燥機、水洗トイレ、IHクッキングヒーターその他諸々の施設の完備した2LDKの高級マンションに住み、高校へ通う事となった。



 このマンションには管理人も常駐している。田中江美の父親は、その管理人が自分の実の弟夫妻に当たる事もあり、娘の1人暮らしにそれ程の心配はしていなかった。


 金田は、隣県の地方駅に近い町の中に住んでいたため、電車で高校へ通う事となった。



 そして、4月の中旬には、田中江美は、金田を父親の弟の管理人に、高校の同級生で自分の恋人だと紹介し、金田を部屋に招き入れたのである。



 田中江美は、極々まともな性格であったが、体のほうは随分と成長しており、化粧をすれば、20歳以上の若い女性に見えた程である。それ程、色っぽくなっていたが、勉強は真面目に欠かさなかった。いわば、今時珍しい極々真面目な女高生であったのだ。



 それに対し、金田の頭脳や思想は、更に急激に進化していった。



 金田は、死体蘇生術が、現代医学のみの力ではほぼ不可能であろう、との確信を持ち始めていた。つまり、現代医学はそこまでまだ進歩していない事が理解できてきたからだ。



 ハリウッド映画の『バイオ・ハザード』のようなゾンビ映画じゃあるまいし、死体蘇生法など現代の科学や医学では不可能なのではあるまいか?と自分の信念に疑問を持ち始めた金田は、ある手法に徐々に染まっていったのだ。



 それは何かと言うと「黒魔術」であって、それは非科学的な内容で埋め尽くされていたものの、その黒魔術の持つ不思議な魅力に大きく心を動かされていったのだ。



 黒魔術とは、その名の通り悪しき事を実現するため悪魔と密約をしてその実現を諮ろうとする秘術の事であり、天使や聖霊の力を借りて良き事を実現しようとする白魔術とは正反対に位置する魔術の事である。



 古来から、色々な有名人が、黒魔術師として名前が挙がっているが、その真偽は神秘のベールに包まれており、正確な事は現在でも未だにハッキリしないとされている。



 魔術師としての最初の有名人は、ゾロアスター教の開祖、ゾロアスター(ツァアラトゥストラ)だと言う説もあるが、これもその真偽の程は確認のしようが無い。



 まして、ゾロアスターが拝火教の教祖だった事は事実だが、仮に彼が創設したとされる魔術の技術にしても、ものの本によると、まだ、白魔術とか黒魔術とかハッキリ区別されるような代物ではなかったようである。


 この当たりは、後世の人の、作り話のような気がしてならないのだが…。



 近代では、イギリス生まれのアレイスター・クロウリーが魔術師として世界的に有名であり、日本語で訳された本も多いが(『法の書』等)、ペテン師との噂話もあり、これまた真偽の判断は、各人に委ねられるものである。


 

 そして現代でも自称:黒魔術師は、外国においては結構存在するらしいが、その実態はやはり謎のままである。



 黒魔術ではないものの、ゾンビ映画の原案となった、死体が生き帰るというハイチのブードゥー教もある。



 もしかしたら、この世には本物の黒魔術師もいるのかもしれないが、しかしその大半はインチキなのであろう…。


 そして、この黒魔術が発足当時から決して世の中から認められないのは、ある願いをかなえようとした場合、しかもそれが無理な願いであればある程、最終的には自分自らの魂を悪魔に売り渡さなければその夢は実現しない、と言う、実に危険な思想であると言う点なのだ。



(例えば、世界制覇を夢見たアドルフ・ヒットラーが黒魔術に凝っていた、と言う説さえあるのだからその実体は推して知るべきであろう……)



 だが、逆に言えばそれだからこそ、死体蘇生術などと言うほとんど荒唐無稽な願いも叶うとされているのだ。ここにこそ、現代でも黒魔術に傾倒していく危険な人間が今もわずかながら存在しうる最も大きな理由でもあるのだ。

 ああ、この点で黒魔術には、今でも、人を引き付けてやまない神秘な魅力があるのだ!



 そうだ「現代科学と黒魔術の完全な融合」

 これこそが、世界を替えれるのだ!



 金田には、黒魔術のみが、今まで誰も成し遂げられなかった死体蘇生術を成功する唯一の道であると、徐々に確信していった。しかも、この悪魔的な考えに対してもやはり、金田の心には、何故だか理性的なストップがかからなかったのだ。



「俺こそは、死人を蘇生できるこの世で唯一の人間なのかもしれない!」

 日毎に進化を続ける金田の大脳の中では、そんな自負心すら生まれてきた。そのための秘術の練習に余念が無かったのである。



 運命の日、9月14日。



 その前日、田中江美は、自分の実家で自分の誕生日を祝ってもらっていた。学校の1学期の成績も、金田には到底及ばなかったものの、真ん中より遙かに上位であった。


 実家で誕生会が終わった後、田中江美は、金田誠二に、


「明日、私のマンションで、私から誠二さんへ16歳になったばかりの「最高のプレゼント」をするから、是非、夕方の5時に訪ねてきて下さい」とラインをした。



 即、金田から「了解」の返事が来た。



 田中江美の言う「最高のプレゼント」とは、賢い方ならピンときたでろうが、自分の一番大切なものを金田にプレゼントするつもりだったのだ……。



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