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COVID-19の下で

作者: 葦原 伊織

ゆっくりと彼女の耳元に指を這わせ、白いゴム紐を引き伸ばす。

露わになった鼻筋と赤い唇に僕は思わず欲情した。







コロナウィルスによるパンデミックが起きてから今年で15年。

当時まだ幼子だった僕らからすると、3密回避のソーシャルディスタンスももはや日常生活である。

当時の大人たちは制限の多い子どもたちの青春に大いに同情を寄せたと言うが、それが日常になった僕らポストコロナ世代からすると、特に違和感もない。

ただ昔の人は妙に他人との距離が近かったり、密室でも平気そうだなぁと思うだけで。

親世代は「昔は良かった」とか言うけれど、あんなのコロナ以外でも色んな菌に感染しそうで不衛生だ。

今の時代に生まれて良かったと心から思う。


同級生の中には、マスクをしないで、公衆の面前で下半顔を晒す前時代の慣習に興奮して、コロナ前の映像とかを好んで収集する奴がいるのは事実だ。

チラリと鼻先を見せる二次元キャラに萌える奴らも結構いる。


だが、近しい身内でも無いのに一緒に食事をするなんて、健全な男子学生である僕からしたら、恥ずかしすぎる感覚だ。

当時は口元の表情が分からなければ、子どもの発育にも不健全だの言われたらしいが、こっちからすれば、下半顔を晒して感情をあからさまに表現するなんて、怖すぎる。

表情なんて目と眉があれば分かるだろ。


たしかに水分補給時などに、女子がマスクを少しずらして、飲んでいる様子をチラリと盗み見てしまうのは、男の性なのかもしれない。

でも、向こうもちゃんと横を向いて集団から離れて飲んでいるのを、じっと見つめるなんて言うのは、変態扱いされたって仕方ない。

これを上の世代は未だに理解できないと言うが。


とにかく、僕らの世代ではマスクを付けて生活するのは当たり前で、本当に用事のある時だけ、人目を憚ってこっそりと外すものなのである。



つまりだ。

マスクの下の素顔というのは、秘められた場所で、誰でも正面からマジマジと見てはいけないもので。

それを見る権利は、近しい家族やパートナーだけに許されたものなのだ。







初めて付き合うことになった彼女を部屋に上げて隣に座る。

密室に居る事も、接触するほどの距離も、ただの友人には許されない距離感。

彼女からなら感染しても良いという覚悟を持って。

ドキドキしながら、僕は彼女に問う。

「ねぇ、マスク外してもいい?」

顔を真っ赤にした彼女が小さく頷き、僕は彼女の耳元に触れた。


食事のでもないのに外される白い布地に、背徳感すら覚えてしまって。

直接感じる、初めての吐息。

赤い唇にチラリとのぞく白い歯と、その奥にある濡れた舌とに。

秘められた筈の口元から、最強に可愛く口角が上げられて。


彼女の本当の素顔と笑顔を見れたヨロコビで、僕は最高に幸せだった。

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