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神聖王国ヴァルコローゼ  作者:


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ユーリィ⑥

「……現王がまだ王子だった頃、私はこの城にやってきました。実は私は隣国の王家に連なる者なのですよ、リヒトルディン王子」


「…………え?」


 俺の顔がよっぽど間抜けだったんだろう。ユーリィは「ふふ」と笑うと続けた。


「当時は戦争が終わったばかり。私の国は無条件の降伏によって敗北いたしました。私は贄としてこの国に送り込まれた――そのはずでした。ところが、当時の王は私を受け入れず、侍女として働かせたのです。そのような行いは私にとって屈辱でしたが――いまはわかります。私の血を交ぜるわけにはいかなかったのです」


 ――血。


 俺はごくりと息を呑んだ。


 いまの王族の血――つまり白薔薇(ヴァルコローゼ)と本来の王の血に、ほかの血を交ぜたくない――そう聞こえたからだ。


「私は侍女として王子たちと言葉を交わすうちに、後に王となるアンデュラム王子と心を通わせるようになりました。彼は王の在り方に疑問を持たれておりました」


 王の在り方……それを聞いて、俺はユルクシュトル王が次に王になる者に命を奪われる――その物語を思い出す。


 知らず、指先が冷えていた。


 ユーリィは、なにをどこまで知っているんだろう?


「あまりに遠い存在。城から出ることのない王。それがどうして他国を無条件で降伏させるだけの力を持つのか。アンデュラム王子は不安を抱きました。そして秘密裏に隣国から情報を集め、ある事実を知ります。――戦争終結前、原因不明の病が隣国の王家を襲っていたことです。――体が腐ってゆく恐ろしい病――リヒトルディン王子、お心当たりは?」


 体が腐る――恐ろしい病。俺は無意識に紅色の手袋を握り絞めた。


「呪い――だ」


「――やはり、そこまでご存知ですか。ではわかりますね? 前王は私の国を――家族を呪ったのだと思います。それにより、国は無条件で降伏せざるを得なかった。おそらくはほかの国もそうでしょう。この国の繁栄は絶対的な力の上で成り立っているのですよ」


「じゃあユーリィは、地下に磔にされた女の子がなにを封じていたのか知っているんだな?」


「ええ。あの部屋には穢れと呪いが詰まっていると――現王から聞いています。けれど現王とはアンデュラム王のことではありません。彼は――呪いを司る神世の王なのです」


「神世の王?」


「はい。体だけはアンデュラム王そのままの、まったくの別人です。前王も、その前の王も、すべて同じ神世の王だったのです。……私は神世の王に付き従う代わりに、次代の王が決まったそのとき、アンデュラム王の体をお返しいただく約束をしたのです」


『ずっと同じ神世の王だと? まさか、それは――』


 そのとき。黙っていたリリティアが思わずといった様子で口にする。


 彼女の言いたいことが俺にははっきりとわかった。


 聞くのが恐い。でも、聞かなくてはならない。その思いに突き動かされて、俺は口にする。


「ユーリィ。もしわかれば教えてほしい。『ユルクシュトル王』も……その神世の王だったのか?」


 ユーリィは小さく頷き……言った。


「――神世の王は――よく話をします。白薔薇(ヴァルコローゼ)と呼ばれる乙女に想いを寄せ、葛藤し、穢れてしまった王子の話です。彼は苦しみ、結果として白薔薇(ヴァルコローゼ)に永遠の眠りを与えてしまいました。その穢れがすさまじかったために付け入る隙ができ――神世の王はこの王国に甦ったのだそうです。王子の体を乗っ取るまでの時間、いかに彼が絶望していたかを存分に味わったと話していました。その穢れにより自分は守られていたとも。ですから、歴史に残るユルクシュトル王は偽物……『神世の王』でしょう」


「…………」


 どく、と心臓が鼓動した。その言葉は俺の胸を突き刺して……痛みが奔ったんだ。


 ――想いを寄せていた? ユルクシュトル王子が……リリティアに?


 俺はリリティアを見ることができず、かといってユーリィに先を促すことも忘れて必死で息を吸う。


 苦々しさが体を満たしていく。信頼だけじゃなく……想いを寄せているから苦しい。


 その気持ちが痛いほどわかってしまったんだ。


 ――あぁ……こんな形で自分の気持ちをはっきり認識したくはなかったな――。


 こぼれる自嘲は苦い想いをより苦くする。


 だけど――だからこそ、腹が立った。ユルクシュトル王――いや、ユルクシュトル王子にとって許されなかった想いだとしても、彼が選んだのは最悪の結末だろ。そうだよな?


 だってリリティアは――信頼していたんだ。ユルクシュトル王子――俺はまったく知らない貴方を、心から。


「すまない、リリティア――俺、許せそうにない」


 だから俺は思わず立ち上がって、リリティアに宣言していた。


 俺の愚行に驚いて目を見開いた彼女を真っ直ぐに見詰め、先を紡ぐために息を吸う。


 ユーリィが訝しげな顔をしたけど、関係ない。


 ――胸が苦しくて痛い。わかるさ、すごく。だけど彼は間違っていたんだって伝えたかったから。そして――こんなことは早く終わらせようと思ったから。


「俺はリリティアをこんな目に遭わせたユルクシュトル王子を許せない。君が信頼していた人でも――絶対に。それに神世の王? 誰だか知らないけど、そんな奴の上で神聖王国を名乗るなんて馬鹿げているよ――次の王はアルシュレイだ。乗っ取らせたりするもんか――。だからユーリィ、すべて話してもらう。知っていること、すべてだ」


 言いながら、そっとダガーの柄に手を掛ける。


 少しだけ震えているのが自分でもわかったけど、止まるつもりはない。


 脅してでも吐かせてやる――そう思ったんだ。


こんにちはー!

本日もよろしくお願いします!

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