ユーリィ①
******
翌日。朝に、ラントヴィーの宣言通り服と菓子が届けられた。
届けてくれたのは侍女だったけど――うわあ、すごくなにか聞きたいって顔をしている。
そりゃあラントヴィーの指示で女性の服と菓子を俺に届けるなんて、詮索したいに決まっているよな。
しかもすごい量の菓子はすべて綺麗な包み紙で華やかに包装され、白い薔薇が添えてある。
ラントヴィーって……もしかして面倒臭い奴なのかなぁ。
ちなみにいつの間にかガムルトが戻ってきていて「自分も気になりますリヒトルディン王子」とか言ってきたので兜をゴツンとやってやった。
結局、いろいろ考えた俺は愛想笑いで済ませて部屋に飛び込み、笑い転げているリリティアに服を渡す。
「もう。なんだよこれ……。リリティア、風呂入って着替えたら? ――あー、俺が先だっけ」
毎日これだったらどうしようかなぁ――。
******
地下はやはりどこか埃臭くひんやりした空気でいっぱいだった。
ガムルトには誰ひとり部屋に入れるなと指示を出してきたけど……なんだか嫌な噂が立ちそうで心配だ。
当のリリティアは動きにくいからという理由で、結局質素な膝下丈のドレスを選んでいた。
桜色のふんわりしたもので、紅色のケープはそのまま羽織っている。
――王女たちが着るような華やかなドレスもきっと似合うのに……って、いやいや。動きにくいんじゃ困るよな、これから地下探索なんだから。
「――リヒト、さっきからどうした」
「えっ? どうしたって?」
「顔を顰めてみたり微笑んでみたり慌ててみたり……と忙しそうだったからな」
「そんな顔していたかな、俺……」
頬を引っ張ると、リリティアはくすくすと笑う。
昨日の昼過ぎから、なんだかそわそわすることが増えたな……と自分でも思うんだけど、本当になんだろう。俺は深呼吸をして気持ちを切り替えた。
「とりあえず今日はどこに行くんだ?」
聞くと、リリティアは「ふむ」と唸って逡巡する。
「――中央片の下、礼拝堂を調べようと思う」
「礼拝堂? リリティアがいたところか?」
「いや。あれは私を贄にしたあとに誰かが礼拝堂にしたのだ。本来は穢れを封じる部屋があるだけの場所だった。勿論繋がっているが、私の知る礼拝堂はそこより少し上層でな。王族が己に穢れが生まれないよう祈る場所なんだ」
なるほど、穢れを集約させる部屋の真上だったら、万が一のときも効率がよかったりするのかもしれない。
俺は頷きながら地図を頭に叩き込んでおこうと決める。
斥候術でも、地形の把握は重要だしな。ここのどこかに俺も知らない王族たちが隔離されているとしたら、王が往き来している可能性も高い。なにかあったときのために、地図を覚えていたほうがいいはずだ。
そうして、どれくらい歩いたか――到着したその礼拝堂は『明るかった』。
孤を描いた天井に窓はなく、壁際の燭台に立てられた数本の蝋燭が灯されているだけ。
それなのに、部屋全体に淡い翠色の光が満ちている。昼間の町中にも劣らない明るさだろう。
中央の通路を挟み左右に三脚ずつ並んでいる長椅子は手垢で艶めいていて、過去に多くの人が利用したことを物語っている。
礼拝堂の正面と思われる場所には、俺の胸ほどまでの玉座のようなものがあった。
王たちはあれに座って祈りを捧げたのかもしれないな。
「リリティア。これって誰かが術を使っているのか……?」
聞くと、リリティアは首を振った。
「――いや、これは光り苔だ。……ふむ、足下にはないか……となると、やはりここは誰かが利用していることに――む、丁度いいリヒト。『私の知らない扉』があるぞ」
「え、扉?」
俺たちがやってきた方向からは対角――リリティアが指し示す方向には――確かに扉がある。
彼女は迷いなくすたすたと礼拝堂を横切り、堂々と扉を開けた。
「ちょ、おい、リリティア! 危ないよ、罠とかあるかもしれないし……!」
慌てて駆け寄ると、彼女は肩を竦めてみせる。
「……礼拝堂を利用する者かはわからぬが、誰かが頻繁にこの扉を通っているはずだ。普段使う扉に罠を設置しては邪魔であろう? そもそもここは鍵がなければ入れない場所でもあるしな。……リヒト、光り苔は成長が早い。すぐ増えるために人通りの有無を判断できる。斥候術にも役に立つから覚えておくといい」
「……あ、ああ……」
思わず頷いたけど、彼女は振り返らずに扉の中……細い通路を進み出す。
――なんだか俺、格好悪いな。
けれどいまはリリティアが頼りだ。
アルシュレイを早く起こすためにも、王族の墓地を見つけるのは最優先である。
俺はひとりで頷いて、前を行くリリティアから離れないよう付いていくことにした。
リリティアには術があるけど、戦えるわけじゃないから――なにかあれば俺が守らないと。
本日夜投稿!
よろしくお願いしますー!




