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神聖王国ヴァルコローゼ  作者:


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22/51

クルーガロンド④

『――リヒトルディン=ヴァルコローゼ! 私の前で負けは許さぬ!』


 その瞬間、リリティアの声がはっきりと耳朶を打つ。


 なんだか胸のなかに熱く燃え滾る炎が灯ったような気がして――俺は爪先で床を蹴って加速しながら思わず応えていた。


白薔薇(ヴァルコローゼ)の願いとあらば!」

「お前が神聖王国の名を口にするな『出来損ない』が――ッ!」


 怒鳴りながら、盾を胸の前に構えたクルーガロンドは体の右側――俺の左側から大きく剣を繰り出す。


 俺はそれを左のダガーで受けた。


 威力が違うのは元よりわかりきっていたことだ。


 剣劇をいなす反動を利用して、右――クルーガロンドの左側に回り込む。


 クルーガロンドは右足を軸にして俺の動きを追い、追撃の突きを繰り出す。


 俺は両手のダガーをぶつけて軌道をずらし、そのまま距離を詰めた。


 革の鞘の難しいところは、刃を滑らせることができない部分にある。


 なめされているとはいえ、受け流す動作は摩擦のせいで上手くいかないと思っていいだろう。


「ぐぅッ!」


 クルーガロンドは瞬時に剣を引き戻したけれど、両腕を盾に突いてガチリと組み合えば、長剣の利点は殆どない。


 俺は至近距離からクルーガロンドの強い眼光を受け止め、笑ってみせた。


「どうする、クルーガロンド」


「この、ちょこまかと――!」


 ここまで来ると次に繰り出されるのは長剣の柄を使った頭への一撃となり――当然、攻撃の瞬間はクルーガロンドの右側面が無防備になる。


 ――すべては、狙い通りだった。


「ふっ――!」


 俺は腹の底に力を入れ、右腕をクルーガロンドの盾に当てたまま膝を曲げて腰を落とし、打ち出された攻撃を躱す。


 同時に左手のなかでくるりとダガーを回し逆手に持ち替えて――。


「――取った」


 とんっ


 そのまま、クルーガロンドの右の脇腹にダガーの刃を触れさせる。


「……な、に?」


 呆気に取られたクルーガロンドから俺はさっと距離を取り、くるりとダガーを回してみせた。


「――来いよ。俺はまだやれるぞ、クルーガロンド」


「――ッ!」


 クルーガロンドが蒼い目を見開き、騎士たちがざわめいて空気が振れる。


『すっ――すごいではないかリヒト! いや、昨日もお前の戦いは見たが――!』


 飛び跳ねながらひとり歓声を上げてくれたリリティアに向けて思わずふふと笑うと――クルーガロンドが盾を投げ捨てた。


 ガァンッ!


 派手な音を立てて床を跳ねたそれを、近くにいた騎士が慌てて回収する。


「この俺を笑ったな、『出来損ない』が――!」


 あー……いや。いまのは違うんだけどなぁ。


 次の瞬間、クルーガロンドはギュッと音を立てて床を蹴り抜いた。


「う、わっ!」


 想定外の速さに、俺はダガーを交差させて振り下ろされる剣を受け止める。


 ぎりぎりと剣が擦れ、両腕に負荷が掛かった。


 さすがに力じゃ敵わない。まずい――。


「得意とするのが剣と盾じゃないのはお前だけだと思っていないか、『出来損ないのリヒト』」


 クルーガロンドは低い声でそう告げると、一気に剣を引いて刃でぐるりと円を描き、下から振り上げてくる。


 ――さっきよりも格段に速い攻撃だった。


「ちょっ、嘘だろ! そんなの聞いてない!」


 左半身を引いて避けた俺は、振り上げられた剣が流れるように弧を描いて横から迫り来るのを左のダガーで弾く。


「おら、おらッ――どうした『出来損ない』!」


 盾なしのほうが強いだなんて完全に想定外だけど、リリティアにああ言った以上、無様な格好は見せられない。


 次から次へと繰り出される剣戟は激しく、なるほど攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ――と冷静に思う一方で、息はどんどん上がっていく。


 それでも俺は攻撃をひたすらダガーで受け止め弾きながら、じっとクルーガロンドを窺った。


 ――そして。


「はァッ!」


 クルーガロンドが右足を踏み込み、体重を載せた突きを繰り出す。


 ――いまだッ!


 その瞬間。身を屈めて踏み込み、俺は下からクルーガロンドの喉元へとダガーを突き出していた。


「――取った、二本目ッ!」


「……ぐ、うッ!」


 クルーガロンドは今度こそ悔しそうな顔をする。


 俺はそれを見上げながら、肩で息をして上半身を起こした。


「はあ、はあ……はー」


 あのまま体力を削ぐ戦い方をされていたら勝てなかったかもしれないな……。


 そう思った瞬間に集中が切れたらしく、周りの喧騒が戻り、俺ははっとしてあたりを見回す。


 騎士たちが先ほどよりも大きくざわついているせいか、なんとなく居心地が悪い。


 けれどその空気を破って、またもリリティアが歓声を上げた。


『やきもきさせおって! しかしよくやった、褒めてやろうリヒトッ! 次も勝ってしまえ!』


 思わず見ると、彼女は頬を紅潮させ紅色のケープを大きく揺らしながら飛び跳ねている。


 はは、そんなに喜ばれるとは思わなかったな。


 弾ける笑顔に俺はちょっと嬉しくなった――んだけど。


 うん……実はもういっぱいいっぱいだった。


「はあ……はー、はぁ……ちょっと、水……」


 ……そんなに体力があるわけじゃないんだよ……俺。


「――待て、『出来損ないのリヒト』」


「うっ……」


 ところが。踵を返そうとした俺の肩を、クルーガロンドがぎゅっと掴む。


「まだだ、休憩には早い」


「はあ、はあ……いや、クルーガロンド……俺、そんなに……」


「いくぞ!」


「ちょっ、うわぁっ!」


 ガツッ!


 思わず受け止めた剣戟に、クルーガロンドはにやりと笑みをこぼした。


「はっ! まだやれるじゃないか!」


「いや、いや待て! ああ、もう! このッ――」



 ……そうして、結局。八戦目に、俺は自ら剣を置き降参した。


昼更新!よろしくお願いしますー!

戦闘回は楽しいです。

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