出会い④
それから様々な方法で泣きやませようと試みるが、一向に上手くいかない。
耳を劈く悲鳴の様な声が次第に疎ましくなってきた。
もう殺してしまおうか。
このレベルの人間なんぞすぐ現れるに決まっている。
そう思い、掌に魔力を溜める。
生半可なものでは相殺されてしまうので、赤ん坊の上をいく魔力を。
カシムと赤ん坊の周りを禍々しい力が蔓延る。
どす黒く鈍い光を放つ魔力の塊が出来始めていた。
普通の魔物であればその力に当てられ失神してしまう程の威圧感を放っている。
あと少し、あと少しと調整をしていると、
突然念話がカシムの頭の中に響き渡る。
念話とは、この魔法が使えるもの同士であればいつでもどこでも会話が出来る非常に便利なものである。
しかも低燃費な為、意思ある魔族や魔物達には日常的に使われている。
「やあ、カシム。元気にしてるかい?」
喉を潰した様な低く唸る声が聞こえる。
昔馴染みのドラコのものだとすぐにわかる。
こちらは今取り込み中だと答えようとしたが、
…そういえばドラコは私の知らない事をよく知っていたな。
赤ん坊の事も何かわかるかもしれないと思考する。
「ああ、元気だ。今からそっちへ行く」
と答えると相手の返事も聞かずに念話を終わらせた。
そして泣き叫ぶ赤ん坊をカゴごと抱えるとドラコの元へ瞬時に転移する。
目的地に到着すると目の前には体長30メートルはあろう巨体が見下ろしていた。
皮膚は赤黒く、血液が乾いた様な色の鱗が鈍い輝きを放つ。
赤い眼光は鋭く、鋭利な牙や爪なども少し触れただけでも切れてしまいそうだ。
巨大な翼は飛翔する際にその体躯を持ち上げるに足る大きさを持っている。
カシムの言っていたドラコとは、数千年の年月を生きたドラゴンの事であった。