海へ③
「大丈夫か?」
陸に上がった後、リリアムを浜辺に座らせ様子を窺う。
口元を押さえ、顔面蒼白しながらガタガタ震えている。
彼女は依頼に同行したり、案を出したりはするが、実際に何者かが絶命するところは初めて見たのであった。
大抵は無闇な殺生はさけ、代替案を出し依頼人に納得させている。
特に人間相手ではその方が信頼され易く、魔王になったとしても敵と見做されにくくなるからだ。
だが、殺し等をせざるを得ない時は彼女のみ古城に帰したり、何処かで待機させていた。
だからこそ、今回の現場を目の当たりにし、衝撃を受け、動けなくなったのだった。
カシムは水を取り出し、少女に勧める。
それを手に取り飲もうとするが、咳き込み吐き出してしまった。
「今日はもう休め。明日は私のみで行こう」
そう言うと、カシムは野営の準備を始めた。
彼のテキパキと動いている姿をリリアムはぼんやり眺めていると、唐突に先程の光景が脳裏に甦る。
人魚が残酷に食べられる瞬間。
胃から内容物が迫り上がってくるのを感じる。
この世は弱肉強食だ。
自分だって動物の肉を食べたりし、日々を生きている。
あの魔物も生き残る為に人魚を食している。
わかってはいるが、どうしても受け付けない。
なさけない………なさけない………!
自分の不甲斐なさに涙が込み上げてくる。
しかし、これからはもっと凄惨な光景を見る事もあるだろう。
その時、今回と同じ様になってしまったらカシムの足手纏いになり、危険が生じるかもしれない。
それだけは避けたい。
自分を鼓舞し、依然として蒼白な顔をしているが、目だけ力が戻る。
震える手足に力を入れ、立ち上がった。
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野営二日目の朝を迎えた。
カシムは少女にここで待っている様伝える。
昨日の様子を見て、それが最善だと思ったからだ。
しかし少女は首を振り、一緒に行くと言って聞かない。
仕方がないので、動けなくなる前に離脱する事を条件に海に行くことを許可した。
海の中はしんと静まり返っている。
生き物達はまだ眠っているのか、はたまた魔物が恐くて息を潜めているのか。
カシムは巨大な魔物を探す。
一度その気配を感じたので、近くにいれば察知する事が出来る。
注意深く神経を研ぎ澄ませる。
こちらが先に見つかる事が出来れば、それだけ有利な条件で戦える。
やがて…………。
巨大な魔物が悠然と泳いでいるところを二人は目視した。




