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出会い③

「どうしたものか……」

 眉間にしわを寄せてしばらく考える。

 赤ん坊は依然として泣き続けている。


 ふと昔経験した記憶が蘇り、それを試してみることにした。

 掌から水を球にして作り、それを赤ん坊の方へと移動させる。


 何百年か前に自分に絡んできた輩を水の球に入れたら静かになった。

 この赤ん坊も水の球に入れたら静かになり、魔力の放出をやめるのではないかと考えたのであった。


 じわじわと水の球が赤ん坊を包んでいく。


 やがてすっぽりと赤ん坊を飲み込むと苦しそうにもがいているのが見えた。

 カシムはそれを何の感情も無しに見つめている。


 それから幾ばくもないうちに、突然水の球は勢い良く弾け飛んだ。

 赤ん坊が自分の魔力と水の球を相殺させたのだ。


 再び、赤ん坊の泣き声が響き渡る。

 しかも先程までとは違い、叫ぶ様な泣き方をしていた。


 赤ん坊の放つ色濃い強大な魔力の波動にカシムは一瞬身震いをする。

 赤ん坊でこれだけの力があるのだ。

 大人になったらどれ程まで膨れ上がるのだろう。

 口の端を吊り上げニヤリと笑う。


 とはいえ、今はこの赤ん坊をなんとかするのが先決だ。

 次にカシムは別のやり方で静かにさせようと考えた。


 カシムは誰しもがウットリしてしまう程、踊りが得意であった。

 彼が踊ると皆あまりの美しさに言葉を失ってしまう。

 まるで蝶が舞う様に、泉の水が揺蕩う様にそれはそれは優雅に踊るのだ。

 正にそれを利用しようと思った。


 パチンと指を鳴らすと今まで着ていた薄汚れたローブから、艶のある黒のタキシードへと衣服が変わる。


 人差し指を上に向けて立てると舞踏会で聴く様なワルツが流れ始めた。


 そして更に指を下に向けると土が盛り上がり女性の姿をかたどった。


 カシムは女性の姿の土塊の手を取り踊り始める。

 右へ左へ揺れ、ステップを踏み、ターンをする。

 観客は赤ん坊の一人きり。

 その一人の為に全力で踊る。

 踊りに関しては一切の手抜きはしない男である。


 赤ん坊が作り出した何も無い土地は、さながらダンスホールだ。

 どんよりとしている雲間から光がさし、天然のスポットライトがカシムを照らしている。



 思いが通じたのか、はたまたワルツのリズムが気に入ったのか赤ん坊は徐々に泣き止んで行く。


 あと一息だ、と彼はフィナーレへと進めていく。

 より激しく、より優雅に。


 そして………赤ん坊は完全に泣き止んだ。

 魔力の波動も止まり、キャッキャと笑みを浮かべている。


「よし!」


 泣き止んだのを確認したカシムは踊りのフィナーレを迎え、赤ん坊の元へと行く。

 すると、赤ん坊はご機嫌だったのが嘘の様に再び泣き始めた。


 カシムがガックリと項垂れたのは言うまでもない。




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