出会い②
カシムは悩んでいた。
当初の予定ではこの赤ん坊を自分の古城へ連れ帰るつもりであった。
だが、一度泣き出すと周りのものを全て消してしまう程の魔力を持っているため、古城に着く頃にはご丁寧に此処が魔族の住処ですと教えるような状態になりかねない。
その為、カシムは赤ん坊を拾ったところから動けずにいた。
いっそのこと利用するのはやめてしまおうかとも考えたが、
自分の野望を果たすためにはこの赤ん坊がどうしても必要であった。
カシムの野望。
それは、現在不在となっている魔王になる事。
この世界の魔王とは、全ての生きとし生けるものが絶対服従するものであった。
だが数千年前、前魔王が異世界からやってきた勇者によって討伐されて以来、新たな魔王は存在しない。
その後釜を狙う魔族も多いが、魔王の儀式をする為の力が足りず展開前に消滅してしまうのだった。
魔王になる必要事項。
魔力、力、知識、仲間、カリスマ性。
それら全てが試されるのだ。
失敗すれば例外なく自分の存在が消滅してしてしまう。
だからこそ、魔族は皆慎重になった。
結果、魔王が生まれずにいた。
カシムはそれなりに強力な魔族で、魔王候補とまで言われている。
だが、圧倒的に足りない物がある。
そう………知識だ。
様々な問題を全て力任せに解決していく。
争いが起これば全てを焼き払い、相談を受ければ原因を抹殺しにいく。
こういったことが多々ある為カシムの残虐性の話が上がるが、実際の所はよくわからないからとりあえず消してしまえ程度でしかない。
戦略など皆無だ。
魔法は知識が必要だと思われがちだが、カシムは感覚で魔法を使っている。
文献を読み、新しい物を覚えようと思っても川の水のように流れ去っていく。
更には沢山の魔族や魔物がカシムに従っているが、それはカシムの純粋な強さに惹かれているだけであって、本質は理解されていない。
その為、知識が無いことを悟られない様に古城にはたった一人で住んでいた。
自分の知識の無さは自覚している。
そして人間は自分に比べると遥かに知識を得やすい生き物だと思っていた。
物心つく前から教育していけば何の疑問もなく付き従ってくるであろう。
ゆくゆくはこの赤ん坊に自分の頭脳になってもらおうと考えているのだ。