何でも屋⑤
「もー、急にいなくなったらびっくりするでしょ!」
少女がプリプリ怒りながら、男の手を引いて歩く。
男の方はと言うと、口元を押さえながらげんなりとした顔をしている。
突然いなくなったカシムをリリアムは魔力探知で探し出し、元の場所へ連れ戻したのであった。
「ほら、お城についたよ」
白を基調とし、全体的に三角に見える。
カシムの古城と比べると当たり前だがとても綺麗で美しい。
大きな門の前には門番が毅然として立っている。
「国王に会いたい。通してもらえるか?」
と、門番に手紙を見せる。
すると素早い動作で敬礼をし、こちらへどうぞと案内された。
その途中で近衛兵らしき男と案内役が代わる。
先程の門番と比べると鎧がかなり厳つい。
やがて、1つの巨大な扉の前に着いた。
扉には金の装飾が施され、点々と宝石もあしらわれている。
近衛兵らしき男がその扉を開け、中へ入る様促す。
真っ直ぐ伸びた赤い絨毯の先に今回の依頼者が優雅に座っていた。
カシム達は依頼者の元まで進み、途中で側近に阻まれ足を止める。
「よく来てくださった、カシム殿」
しんと静まり返っていた大広間に優しい声が響き渡る。
この国の王、ベンザリンである。
齢70を超えているが現役で執務にあたっている。
少し膨よかな、可愛いおじいちゃんと言った感じの見た目であった。
周りの兵達の目にも信頼の眼差しが感じらる。
だからこそ、手紙のギャップに少し面を食らう。
リリアムも違和感を感じたのか、カシムの服の裾を引っ張り、彼の顔を見つめる。
果たして、この王が他国を滅ぼすなんて事を言うのだろうか。
「それで、どう言った経緯であの手紙を送ってきたのだ?」
何でも屋と言えど、破壊や殺しをメインでやっているのだ。
事の詳細を聞かなければ善悪の区別がつかない。
魔王になる条件としてカリスマ性というのがある為、種族関係無くなるべく信用を得る努力はしている。
もし、自分の理念にそわない依頼であったならば、依頼者同意があれば破棄や変更する事も可能なのだ。
そういう意味でなら格好が悪くないと思ってる。
といっても、その詳細を理解出来ればの話なので、リリアムがいない頃は大体そのまま遂行していた。
そういうところからも残虐性の噂が絶えなかったが、現在は話のわかる魔族として名を馳せている。
実は……と歯切れ悪く口を開く。
件の帝国とは元々同盟を組んでいたが、一方的に破棄され、尚且つお前の国を滅ぼしてやると言われたのであった。
理由を聞こうと手紙を送ったり、使者を派遣したりしたが全て無駄に終わった。
使者は亡き者にされ、手紙と共に首だけ送り返されたのだった。
流石の王も苦渋の決断をせざるを得ず、あの様な手紙を送ったとの事であった。
「滅ぼして欲しいと書いたのは、もしあの帝国がこの国のみならず他国にも被害を拡大させる様な事があってはならぬと思い、そう書いたのです。勿論、罪の無い帝国民はこの国で手厚く迎えるつもりです」
カシムは成る程と言い、チラリと少女に目を向ける。
少女は軽く首を振る。
「では依頼達成する前に少し調査をする。その結果次第で達成の有無を決めてもらっても良いか?」
「それは勿論です。よろしくお願いします」