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夜の街

 僕とカリナはギルドを出たあと、荷物を見繕って市場に出すアイテムを選別。ノートの1ページを4等分にする。出品物はこんな感じ。


 ・眼鏡(眼鏡ケース付き)

 ・軍手

 ・スコップ

 ・文庫本2冊

 ・鉄の斧


 言うまでもなく、眼鏡以外の3点はカリナのアイテムだ。


「出品練習だと思って行ってきて。あ、あと、私の要らないアイテムもついでによろしく」


 断る余地もない。というわけで付箋は以下の感じになった。


『求: モンスターテイマー向け武器(剣など)

 出:  ・眼鏡(眼鏡ケース付き)

     ・軍手

     ・スコップ

     ・文庫本2冊(文学作品)

     ・鉄の斧

     <応相談>

 アキラタカシロ(新人)』


 ギルドに戻り、リカさんにギルドの押印をしてもらい、市場の掲示板にピン留めする。つまらないことだけど、なんか満足感あるな。住人になれた気がする。


 ここまで付き合ってくれたカリナが言う。


「一旦一段落かな。定期の市場の開催は明日の朝。市場の中は交渉が全てだからね。うまくやって」

「……カリナは? 一緒に居てくれないの?」

「私は、自分の住処に戻ろうかと思って」


 僕はカリナがあっさりお別れしようとするのを見て、少し悲しくなった。


「せめて明日の市場まで、一緒しない?」

「……なにか都合があるわけじゃないけどね。そろそろギフトも狩りたいし…。この世界って、基本自己責任だから。あきらも、自分で生きる道を探さないと。たまたま会った人と流れで一緒に居るんじゃなくってね」

「そんなもん…なの?」

「さぁ、私は、そう思う。でも、心配はしないでね。会ったあたりには大体いるし、ちょくちょくシブヤにも顔を出す。この街せいぜい数十人くらいしかいないから、顔を合わすこともあると思う。その時は市場で私のアイテムの儲けを何かで払ってもらうよ」


 僕はしぶしぶうなずいた。心細いけど、確かにそうなのかもしれない。

 僕にとってカリナはこの世界で親しくなった唯一の人だけど、カリナはもう街の人の多くと面識がある。僕とだけ行動をともにする理由もないのだろう。


「わかったよ。カリナ。頑張ってみる」

「そうそう。その意気。応援はしてるからさ。困ったことがあれば、尋ねてもらってもいいし」


 そう言って彼女は少し頬を緩めてこちらに手を振る仕草をした。その様子が、いつものクールなカリナからは少しイメージが違くって。僕は少し恥ずかしくなった。


「それじゃぁ、またね」


 彼女はそう言って背を向けて足取りも軽く歩いていった。

 

 ――そういえば、鞄も持ってないけど、あの人斧とかどこに持ってたんだろう…?


 謎だ。僕はいつも重い荷物持ってヒィヒィ言ってるんだけど。今度会ったら、聞いてみることにしよう。


 このダンジョン内には日の光が入らない。もっとも、ダンジョン外が確認されてすらいないのだから、「日」というものがあるかどうかもわからないんだけど。

 なので、何時だろうが明るさは変わらない。明るくはないが、暗くはない…くらいの光量がいつも保たれている。明るい理由はわからないけど、もう理由を求めても意味ないな。


 そもそも、ゲームの中でも、誰も普段出入りしないようなダンジョンの壁に火の付いたランタンが灯っていたりする。よく考えると、誰があれに油を定期的に追加して、たまに掃除したりしているというんだ。モンスターがこまめに手入れを? 普段出入りしないなら油を始終使う分だけ無駄ばかりだ。魔王軍のコスト感覚を疑うよ。


 シブヤの中央部の狼の後ろには時計が置いてある。「5−482 18:19」とデジタル時計が示している。正直、デジタル時計なのも意味不明だ。

 「5−482」の「5」はなんだろう。1000になると1周する、とカリナは言っていた。となると、結局「千の位」ということだろうか。

 そう考えると「1000*5+482」の日数が、時計開始から建ったことになる。1000を大体3年とすると15年。日付と合わせて16年くらい経っていることになる。


 ――この世界で16年か。


 ここに来てせいぜい10日程度だ。16年という長さにはゲンナリする。こんなTVもスマホも無い世界で、16年もまともに精神を保って生きていけるものだろうか。


 考え始めると止まらないことばかりで、僕はシブヤの時計の前で立ちすくんでいた。


「少年少年! カリナちゃんにはフラれちゃったかなー?」


 ふいに、後ろから能天気な声で話しかけられる。振り向くと、ギルドで受付嬢やっていたリカさんが立っていた。


「あれ、リカさんお仕事は終わりなんですか?」

「そうそうー。ギルドの仕事は18時までだからねー。くったびれたよ。久しぶりの新人さんは来るしねー」


 そういって、リカさんが少し前かがみになって僕を指差すような仕草をしながらいたずらっぽく笑う。

 リカさんはよくあるRPGの村娘のような服装だ。地味な服なのに、というか地味な服のせいか、胸の膨らみが大きくって、僕は少し目をそらしてしまう。


「うんうん、健康的な男子だねー。これから、酒場行くけど、一緒に来る? この街のことわかるし」


 せっかくだからついていったほうがよさそうな気がする。特に予定もないし。


「あ、良ければぜひ」

「カリナは?」

「カリナは、一応一段落着いたからって…、自分の家? に帰っちゃいました」

「相変わらずクールキャラぶってるんだからなー、カリナちゃんは」


「ぶってる?」

「あれで結構感情的で感傷的なタイプだからねー。優しくしてあげたら目があるかもしれないよ? 目が離せない弟、みたいな」


 遠回しに馬鹿にされている気もしないでもないけど。リカさんは明るく話してくれるので、僕も少し和む。カリナといると…、いつも緊張感があるから…。



 ……2時間後



「だいたいさー、シケてんのよー。何分度器って。ここで何に使うのよ。ゴミよゴミ!」

「そうは言ってもねェ、ギフトも余計な物ばっかだからさ、しょうがないんじゃねェすか……」

「いーや隠してる。どこかに秘密の倉庫とかあんでしょー? あばいちゃるぞー」


 そういってリカさんは隣のケンジさんの頭を鷲掴みにしてグリグリしはじめる。他の人も酔っ払ってて、それに爆笑しながら突っ込む。


「リカさんやっべーっすやっべーっす。目が座ってる座ってる!」


 自称20歳以上の皆様は酔っ払ってしまっている。いや、なんかこの街だとみんな20歳らしいけど。

 テーブルに居るのは4人で、リカさん、市場にいて剣とか売ってたケンジさん、あとなんかコーイチさんとかいう知らない人、そして僕。

 最初はリカさんと2人で酒場のカウンターに居てしんみり2人ソフトドリンク飲んでた気が…するんだけど…。


 一応、お酒は飲んでいないはずだけど、僕まで毒気にあてられて酔っ払ってしまっているような気がする。

 

「よし、じゃぁ新人さんのためのチュートリアルターイム!!」

「ひゅーひゅー」

「ようやくですか!? もう何度も色々聞いてるのにすぐ話が脱線してばっかり!」

「なーにーぼうやー? 不満でもあるのー?」


 リカさんがやたら顔を近づけて言ってくる。


「そうだよねー。カリナちゃんにフラれちゃったもんねー、そりゃそうだよ。硝子の少年の心は繊細だよねー しょうーねんーじだーいーそれーはーわりーとー♪」

「フラれただと!? てめぇ!」

「あー、歌詞の著作権とか、だいじょぶ?」

「だいじょーぶだいじょーぶ。オリジナルだからー☆」

「あーもうめんどくさいなぁ!」


 ……チュートリアルタイムはこのあとも多数の脱線をしながらも一応進み…


 「というわけで、街は1層に3つ。このシブヤと、ハコネと、ナガノ。由来は、行ってみりゃわかるよ」


 説明してくれてるのは少し酔いが覚めたのだろうコーイチさんだ。スキンヘッドの大柄な戦士っぽい人だが、「鍛冶師」とかいう職業らしい。

 リカさんはテーブルに突っ伏してしばらく前から動かなくなっていて、ケンジさんは「金が付きた」と突然一言言い残してさきほど去っていった。

 ちなみに、僕のお金は多少リカさんがすでに出していて、あとは僕の税収分から補填するとか。よくわからないけど、まぁなんとかなってるみたい。


「『鍛冶師』ってのはどういう職業なんです?」

「ん、いろんなアイテムとか、モンスターの素材とか魔石とから、色々アイテムを作り出す職業だよ。ものによっては、魔法力でゼロからも作れるけど」

「剣とかも?」

「もちろん。必要な素材と報酬があればね。ただ、基本は自分のためのアイテムを作り出していることが多いかな」

「自分のため?」

「そう」

「どういう意味です?」

「武器とか防具とか、この世界じゃなかなか壊れないから、そんなに需要がないんだよ。そうすると売るのも手間がかかる。人もそんなにいるわけじゃないしね。でも、日用品作ったり、作ってから分解すると収入が得られるから、暮らしていくのには便利だね」


 皮肉な話だ。確かに武器がポキポキ折れたり、新たな人がどんどん流れてくる世界や、交易がある世界なら需要も増えるだろう。ただこの淀みのような世界だと、需要も限られている。必要な人に行き渡れば、あとはほとんど需要は無くなってしまう。


「なるほど…」

「しかも、生産職は多いしね。大体、鍛冶師その他の生産職で6割、シーフが2割、戦士系や魔法使い系とかその他全部で残り2割。それくらいの配分だよ」

「え!? どうしてそんな割合で?」

「わからん。君は、ここに来るとき、職業を選んだかい?」


 思い返してみるけど、来てレベルアップしたときに、初めてモンスターテイマーという職業であることを知った。その前で、特に職業を選んだ記憶はない。


「選んでないですね」

「そうだろう? みんな、来たときに職業は決まってるからね。どうしてこういう配分なのか、わからん」

 

 そのあとしばしお話を続けた後、解散となった。リカさんを2人で抱えて、となりの宿舎に入って適当に横になる。

 

 ――こんな生活、昔だったら考えられないな。


 こうして、晩が過ぎていった。





第9話となりますありがとうございます。

お気に召しましたら、ブクマとか評価とかご支援を頂けたら励みになります! よろしくです。

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