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シブヤ市場

 要らないものはわかったけど、何を手放して、何を得ればいいんだろう。


「何か優先して手に入れたほうがよいものある?」


「…武器と薬でしょうね。食べ物も市場で色々手に入るけど、味を気にしないならキノコとか取ってれば飢えはしないだろうし。採取も、場合によっては命がけだからね。武器はあったほうがいい。薬は怪我したときに役に立つ」

「なるほど」


 なるほど武器か。市場は開催時間でなくとも普通に地べたにシートを引いてアイテムを並べている人がいる。そこには、剣だの弓だの瓶に入ったアイテムが色々並んでいる。


「いらっしゃい。新顔かい? 見たこと無いねェ」


 短い茶髪の男があぐらをかいて座りながら、顔を上げてこちらを見て言った。


「こんにちは。ここは初めて来ました。『高城あきら』といいます。」


 とりあえず丁寧に挨拶しておいた。間違いないだろう。


「そっかい。まぁわかんないうちはゆっくり見るんだねェ。だんだんわかってくるだろうし」


 荒っぽそうだが、面倒見のよさそうな人だ。兄貴分的な感じかな。売り物のシートの左端には、細身の剣が置いてある。


「これ、持ってみて大丈夫ですか?」

「もちろんよ」


 僕は剣を持って中空にかざしてみる。何度か軽く振ってみる。あまり重くない。今までの棒に比べたらよっぽどいいだろう。


「お目が高いねェ…、っていいたいところだけど、普通のショートソードだな。最近ドロップから手に入れたもんさね」

「ドロップって?」

「ん? あぁ、モンスターをやっつけたときにたまーに出てくるアイテムさ。魔石とか素材のこともあるし、こういう武器の場合もあるな」


 少し後ろで見ていたカリナが会話に入ってくる。


「こんにちは。ケンジ」

「おぉ、カリナちゃんじゃねェか。この子のお守りかい?」

「結果的には、ね。元気そうじゃない」

「おかげ様で。最近は割とギフトの運もいいし」

「それはよかった」


 カリナは剣を見ながら気のない返事をして、僕の方をみてまた話し出す。


「モンスターテイマーも、別に武器の種類の制限がないから。代わりに、武器特有のスキルとかもほとんどない。その剣は、最初の武器にはいいかもね。扱いやすいだろうし、価格も安いはず」

「いくら?」


 カリナがケンジと呼ばれた店主の前にしゃがみこんで問いかける。


「魔石2個…ってとこだねェ。魔石の持ち合わせがなければ、他のアイテムと交換でもいい。選ばせてもらうけど」

「2個か…。ちょっと高くない? 1.1くらいが相場でしょう」

「……しょーがねェな。カリナちゃんに免じて、1.2でも勘弁してやるよ」


 魔石とか、1.1とか1.2とか、よくわからん。雰囲気を察したのか、カリナが助け船をくれる。


「魔石ってのは、お金代わりに使われるドロップアイテム。1個まるごとの場合があれば、1/3の破片ででることもある。魔石の破片3個が魔石1個と同じ価値ね。」


 たしかに、日本のお金でここで何か買えそうな気はしないな。


「魔石って持ってましたっけ?」

「……私はいくつかあるけど。あきらには無い」

「……値切っても、そもそも買えないじゃないですか……」


 やりとりを聞いていたのか、店主が口を開く。


「なんだ、まだ魔石なかったのかよ。まぁしょうがないな。他、なんかほしいもんあるかい? といっても、魔石なしだときっついかもな」


 店の品揃えを一通り見てみた。剣のほかは、瓶に入った薬とかあとは日用雑貨の類。タオルとか、ほうきとか。


「あきら、そろそろ行こう。買うなら要らないもの整理してからのほうがいいし」

「もういっちゃうのか? カリナちゃん。まぁ、また来てくれよ。しばらくやってるから」


 今の手持ちのアイテムで交渉していくのも難しそうな気がするし、ここはおさらばすることにする。


「ありがとうございます」


 その後は市場の部屋を出て、像の横を通り過ぎて2人でギルド本拠地に戻る。

 受付嬢のリカさんがテンション高く迎えてくれる。奥には難しい目をして本を読んでいるマスター。


「いらっしゃいませ! ここは冒険者が出会いと別れを求めて集まる酒場よー?」

「なにいってんの? リカ」

「……あーあ。カリナにはこのネタが通じないのか…。若くても国民の常識だと思ってたよー。まぁ、それは冗談として、何か用があって戻ってきたの?」


「あきらのアイテムの査定をお願いしたくて。頼める?」

「おっけー」

「じゃぁあきらくん、ここに一式出してもらおうかなー。恥ずかしいこと無いよー」


 リカさんは受付のカウンターから離れて、奥まったテーブルに僕らを案内する。僕はテーブルの上に2つのバッグから細々とアイテムを取り出す。


「んでー? 査定対象はどれかなー? ぜんぶ?」


 僕はどこまで査定すべきかよくわからなかったので、とりあえず「どうすればいい?」の視線をカリナに送った。


「別に、好きにすればいいんじゃない? まぁ、でも生活に必要そうな水筒とペットボトル、刃物としてハサミ、あとは最低限の筆記用具とノートくらいはあったほうがいいんじゃない? あとはゴミ袋…。その他はお好み次第ね」

「リカ、ちなみにメガネは査定どれくらいになる?」


 リカさんは後ろの本棚から分厚い冊子を持ってきて左腕の内側に載せて、右手でペラペラとめくり始めた。


「老眼鏡? 近視? 伊達メガネー?」

「えっと…、近視用だと思います」


 一度メガネは覗いてみていたので、僕が答える。


「そっか。…老眼鏡だとほぼ価値ゼロ。お年寄りがほぼいないからね。度なしはファッションアイテムだから適当。近眼…が一番難しいのよねー」

「何が難しいんですか?」

「あぁ、うん。需要が少ないのよ。いや、そりゃ老眼鏡に比べればあるんだけどねー。子どもの頃は目が良かったけどだんだん近視になってー…っていう人は、たいていここ来たとき治ってるからー」


 カリナが興味深そうに尋ねる。


「需要が少ないってことは…、ゴミってこと?」

「それがそうでもないのよ。産出量も少ないしー、産出されてもね、必要な人と度数が合ってない、って悲劇が起こるのよー」

「……あぁ、そういう感じね」


 カリナが横の僕を見て少し小さい声で語りかける。


「あきらは、この世界で、この状況でどういうことが起こるか、わかる?」

「えっと…、売れ残って安値になって、でもいつか売れる…、みたいな?」

「ぜんっぜん違う。極度の近視の人はメガネとかコンタクトがないと生活できない。一方で、市場を見てもたいてい自分に合うメガネは見つからない。…つまり、需要のある人は少ないけど、需要を感じる人にとっては全く他で調達できないアイテムになる。一方で、売り主は別にメガネが必須じゃない」

「つまり?」

「吹っかけられるのよ。言い値で買わされることになったり、その他、非常識な条件付きでね」


 やりとりを見ていたリカさんが嬉しそうに言う。


「さっすがカリナ。やっぱそのへんの人とは違うねー☆」

「茶化さないで」

「はーい」


「んで、どうするあきらくん。ギルドで買い取ってもいいけど、その場合は安く買い取って、必要な人に適切な対価で提供するよー。ギルドはお金のために! みんなはギルドのために!」


 ……なんか、最期の言葉は違う気もするけど。


「で、どうするのあきら?」


 「メガネ」をここで売るか・売らないか。つまらないことなんだけど、少し、カリナが真面目な目をしていた。何か、僕の中身を推し量ろうとするような、そんな目だった。


「やめときます。少し様子見ます」

「了解了解。あきらくん。ギルドとしては残念だけどー、この世界にはしたたかさも必要ねー。じゃぁ、それ以外のもの、査定するね」


 僕は、それ以外にもいくつか残すものを見繕ってリカさんに渡した。


 ギルドの査定としては、魔石の欠片1.5個。0.5個分は税収としてギルドに納める。これで何度か市場への出品などができるそうだ。


 結構失った割には「魔石の欠片1個」というのは寂しい気がする。小さいころ、10円玉とか100円玉とかいっぱいあったのに両替して1000円札になったら落ち込んだような、そんな気分。


 僕とカリナは、リカさんにお礼を言って、ギルドを出た。

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