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散策

 その後カリナにシブヤの街を案内してもらった。街の構成はそんなに複雑じゃない。主要な施設はギルドの行政区画、市場、自警団、酒場とか。


 その他は、倉庫代わりの空間や簡易宿舎となっていて、街で寝る人や街に住んでいる人が寝たり過ごす場所となっている。


 プライバシーはない雑魚寝の空間なので、そんなに好きな人はいないみたいだ。


 ほんとはこんな環境だと不潔な感じがするけど、カリナ曰く、ここにはあまり「不衛生」の概念はあまりないようだった。あの熊が食べられるというくらいだからな。


 確かに、食あたりになるゲームなんかはない。もしここがゲームだというなら、「不衛生」による問題がなくても、納得のいくところなのかもしれない。


 宿舎部分には床にたくさんのシーツやら布団が並んでいるのだけれど、特に汚れが目立つものはなく、まぁなんとか我慢して寝れるかな。


「基本的には、ギルドは相互扶助で成り立ってるから。たまに何か現物とか魔石とか収めないとダメ」

「僕は納めないけど、大丈夫?」

「最初だからね。次行ったときにはせびられるから。安心して?」

「はぁ」


 ギルドに関するカリナの説明はこれだけだ。確かに、ギルドだって無報酬では運営できないから、前の世界でいう<税金>が必要となるだろう。


 自警団は、言葉のまんま。この世界には警察や裁判所がないから、団員を募って編成しその役割を兼ねている。そして酒場。未成年が多いのに酒はいいのかよ? とも思ったけど、成人もいるしジュースやコーヒーみたいなソフトドリンクもあるらしい。


「酒とか飲み物とかどこかにあるの?」

「そっちの部屋。それっぽい箱がいっぱい沸く」

「あ、ちなみに、一応ここに来た時点でみんな20歳、ね」


 「オアシス」は、僕が拾った箱が多数産出する部屋らしい。たまたまだろうか。それとも、そのように作成された部屋なのだろうか。この箱はダンジョン内でランダムに出現するけど、シブヤのその部屋では出現頻度が高く、1日に数個とか十数個とかのレベルで産出し、その中身は食料品や飲み物の割合が高いらしい。

 ちなみにこの世界の住人はでは、『箱』のことは『ギフトボックス』とか『ギフト』と呼んでいる。


 次は市場だ。


「市場が生活に一番重要かな。そこに掲示板があるでしょう?」


 見ると、市場の部屋の入り口入った右壁には大きなコルクボードが吊るされていて、たくさんの付箋がピンで止められている。僕は付箋に書かれた内容をざっと眺めてみた。


『次回市場 483 9:00』


『求: ダーティベアの爪 * 3

 出: 魔石の欠片 * 1

 カズユキ』


『求: フェイスタオル

 出: 応相談

 ミサトコバヤシ』


 だいたいこんな感じだけど時折、『自宅周辺のクモの排除』とか『ハコネへの荷物運搬』とか、異世界転移ものっぽい依頼もある。


 これらの付箋には全てどこかの隅に押印がされてあった。付箋によっては取引希望が追記されたり、さらに付箋が重ねて貼られていたり。


「こんな感じ。3日に1回定期市が開かれるから。483ってのが、次回の開催日時。9時開始」


 元の世界じゃ○○月××日とか、月と日で表すのが普通だ。483とはなんだろう。


「ここに書いてる『次回市場 483』って?」

「中心に狼の像があったでしょう? あれの後ろに日付の掲示と時計があるから。見ておくといいよ。1000になると0に戻る。それの繰り返し。時計はどこかのギフトから出たものを使っているみたいね」


 単純と言うか、なんというか。でもそもそも何月なのかもはっきりしないし、そういう日付カウントをしたほうが楽なのだろう。まちまちのきっかけで来ているみたいだし…。


 カリナから聞くことの全ては僕にとっては目新しいことなので、頭に入れておこうと必死だ。


「掲示板を時々見とけば、自分に必要なものが出品されるかどうかわかる。自分が出品しておけば、それを求めてくる人もいるしね」


 なるほど、市場の開催間隔の間に、皆が出せるものを提示しあっておき、市場の時間に交換する段取りとなっているのか。


「ちなみに、付箋に貼っているハンコはなに?」


「あれ? あれはギルドのハンコ。直近でギルドへの納品があったり、掲示時点で何かしらギルドに納品すると、ハンコをギルドから押してもらえる。ハンコのない付箋は引っペがされるから、気をつけてね。あと、ハンコは何種類かあって毎回変わるから、偽造も難しいよ」


 なるほど、いらないアイテムをギルドに納品しつつ、必要なアイテムを交換していけば、生活はグッと楽になる…ような気がする。気のせいかもしれないけど。


「まぁ、みんな割と苦労して、この仕組みを作って維持してるのよ」

「よく破綻しないね?」

「ほんと。よく保ってると思うよ。元の世界ならこんなのすぐ壊れちゃいそうだけど」


 何もないこの世界に転移して、そこからこの社会を作り上げるにはかなりの苦労が要ることだろう。先人たちの苦労が忍ばれた。


「付箋に書かれた依頼の受け方は?」

「普通に交渉。市場の時間に来て人探せば、だいたいその人がいるから」

「そのへんは、わりとアバウトだね」

「詐欺とかはギルドに苦情を出せるよ。繰り返し悪評があるようだと、市場とかギルド機能の利用ができなくなる。けっこう致命的」

「へぇ…」


「次の市場は明日だから、何か出しておくといいよ。これまで手にいれたもの、あるでしょ?」


 僕はリュックと鞄を開いて、中身をカリナに見せてみた。


「この世界で価値があるものって、何かある?」


 カリナは、いろいろ入ったアイテムを1つ1つとっては確認して床に置いていく。どうやら、2つのグループに分けているようだった。

 

「これは?」

「この世界で価値があるもの…、と、無いもの。分けてみた」


 置かれたアイテムは「価値があるもの」エリアのほうが多い。「価値がないもの」扱いされたものはこんな感じ。

 

 ・日焼けどめ

 ・鉛筆削り


「この2つは、全く要らないかな。日焼けする世界じゃないから日焼け止め要らないし。鉛筆削りは…使わなくはないだろうけど、シャーペンやボールペンが沢山安く市場に出るからね。わざわざ鉛筆削り求める人はいないかな。マスクは…あんまり要らない気もするけど、何かに使えなくはないでしょうね」


「了解です」


「といっても、単に捨てるのはもったいないから、ギルドに持ってって?」


「ん?」


「雑貨とかあんまり価値の無いものは、まとめて引き取って交換してくれたりするから」


 このへんはもうカリナに口を出すのも難しい。僕はひたすら彼女の声を頭に焼き付ける作業に没頭していた。

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