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4層



 僕らがシブヤの街を出発してから2か月が過ぎた。


 出発してから…といっても、シブヤに戻ってないわけじゃなくって、物資の調達やギフト、素材の売却など、ちょくちょくシブヤには戻ってきている。


 前にカリナは「深層まで1か月あれば着くのでは?」と言っていたけど、旅立ってみてわかった。全っ然違う。それは、あくまで「実力が十分なPTが寄り道せず進んだ場合」であって、特訓しながら行きつ戻りつ向かうのとは異なる。


 ギリギリの戦いをする層では、眠ることも危険だ。見張り一人で十分な足止めができるくらいでなければ、上層に戻って休むほかない。


 5層まではカリナも地図があるとのこと。5層以降は、以前無くしてしまったらしい。詳細は知らないけど。敗北したときに、捨てたのかもしれない。

 

 深い層では、一層時間がかかるだろう。


 ここが仮想世界であっても、今のところ僕たち移住者(イミグラント)に、死亡時の復活手段は発見されていない。例の「ジント」なら方法を知っているかもしれないが、奴は深い95層だ。会えるのもだいぶ先になるだろう。


 以前、3層にて「ワニ」と呼ばれるモンスターとちょくちょく戦っていたことはある。今、僕らは主戦場を4層、5層に変えて戦っていた。僕とタマキはLv16, カリナはLv29のまま。ちなみに、モンスターテイマーにはほかにスキルは無いのか? ってくらい、何も覚えない。


 3層は池のような水場が多かったけど、4層は今までとは少し趣を変え、すっかり洞窟のような岩肌が周囲を包んでいた。




「あきら、そっち行ったよ!!」


「わかった!」



 対峙しているのは、上位者が「コウモリ」と呼んでいたコウモリ(またまんま)複数体。

 赤コウモリと紫コウモリの2種がいて、赤は火を吹く能力、紫は単純に牙が鋭く噛んでくる。毒付きだ。


魔術師(メイズ)! 氷の矢(フロストアロー)を!」


 僕の後ろのテイミングモンスターであるメイズが詠唱を始める。

 最初は後ろから僕をぶち抜かないか不安だったけど、まぁなんとかうまくやってくれる。


 前衛のカリナの脇を抜けて飛んでくるのは3体。紫2、赤1.


 ――ちっ、火を吹く奴が後ろか!


 剣を下向けに両手で構え、右上方向にタイミングを合わせて斬り上げる。

 紫コウモリA(仮称)の腹部を浅く削る。怯まず僕の左肩に着地した奴の牙が僕の皮膚に届く前に、剣を持っていた右手を放し、翼部分を引っ張って思いっきり床に叩きつける。


 そこにタマキが素早く詰め寄って鉈で一撃を加える。


 紫コウモリBは僕に襲い掛かろうとして、メイズのアローが発動して一瞬その飛跡が狂う。


 

属性防御領域エレメンタル・プロテクションフィールド!」


 僕の体がほんのり緑色の光に包まれる。


 紫コウモリBに向かった僕に、後ろの赤コウモリから火炎放射器のような炎が吹きかけられる。


「あっづぅ!!」


 火炎で視界が悪くなる中、紫コウモリBに剣をふるう。肉を切り裂く音がして、奴が床にフラフラと着地する。


 そこに、もう一匹のテイミングモンスターであるワニが食らいつく。…よし!!


 赤コウモリの片翼をメイズのフロストアローが貫く。


 一瞬鈍くなったところを、僕の剣が胴体を貫いた。


 テイミングの上限値は「3」今は「魔術師(メイズ)」1体とワニ1体だから、空き1だ。


 現状は後衛よりは前衛が欲しいので、紫コウモリのほうにテイミングをかけておく。



「お疲れさま。ケガはない?」



 前方の小さい丘を乗り越えてカリナが戻ってくる。片手に戦利品の牙いくつかとコウモリそのものを2体ほど持って。


「大丈夫。問題なし」


 タマキが少しだけ心配そうに僕に尋ねる。


「高城君、赤い奴の火は? 魔法間に合った?」


「大丈夫、熱かったけど、魔法効果中は発火したりしないみたい」


「よかった」


 カリナが少し雰囲気を穏やかにして、タマキに向かって話しかける。


「タマキ、時間は?」


 タマキは左手首の背を顔の前に持ってきて、腕時計を確認する。


「17時40分。 歩数は…13,000歩…だね」


「ぼちぼちな時間と行動量だね。そろそろ3層もどろっか」


 4層に来て、ギフトから「腕時計」を入手した。ソーラー式デジタル表示で、なんと万歩計付き。

 このダンジョンはちょっと暗いけど、なんとか動作はしているみたい。

 正直、食料以外で役に立つアイテムが出たことあったっけ? …鉈、くらい? モバイルルーター? 取られたよな。


 日の光がないので、街から離れると時間がさっぱりわからない。

 なので、時間と歩数で行動量を制限しようということになった。日付の経過もわかるのはありがたい。


 3層では、比較的安全な場所を見つけていた。袋小路で、池の近くではないのでワニの急襲もないのだ。カリナの気配察知系スキルを這わせていれば、ほぼ安全と言えた。


 僕らは「拠点」といって、ここ1、2か月ほどを過ごしてきた。


 拠点に戻りながら、カリナが話し出す。


「4層も安定してきたね。…そろそろ5層に降りようか」


「カリナさん、4層と5層ってどれくらい危険度違うんでしたっけ?」


「5層もほぼ同じだよ。一番違うのは、『ツヨスケ』が出ることかな」


「…『ツヨスケ』?」


 僕とタマキは2人で声を合わせて言った。なんだその気の抜ける名前は。


「1層で骨の敵いたでしょ? …『スケルトン』だっけ」


 そういえば居た…気がする。ハコネの街に向かう途中で出現したやつだ。そんなに強くはなかった記憶がある。いや、カリナが瞬殺したただけだった気もするけど。



「あいつの強い版。強いスケルトンだから『ツヨスケ』。ホントは『スケルトン・ヴィガー』とかだったかな」


 ……はぁ。


「どれくらい…危険なんです?」


「Lv15くらい」


「となると…」


「4層であれば、平均Lvのシブヤ住人でPTを組めば、まぁ死なないで済む…くらい。これが、5層で『ツヨスケ』が数体一気に出た場合、一気に全滅するかしないかの戦いになる」


 僕とタマキがLv16。だいぶ上がったけど、これでもシブヤ偏差値52くらいだ。


「結構、危険ですね。カリナさん頼りかも」


「まぁ、それはそうなんだけど、4層も効率悪くなってきたし。あきらがテイマーな以上、少しは背伸びして強いモンスター捕えていったほうが、戦力は上がりやすい。一応、2人ともツヨスケのLvは超えたわけだから、1対1でも渡り合える…はず」


「了解です」


「そういえば、5層って『ベースキャンプ』があるところでしたっけ?」


 ベースキャンプ。その名前はどこかで聞いたな。確か、深層を目指す人たちの拠点になっていた街。


「そう。…今、どうなってるかはわからないけど。…明日、向かってみましょう」



 そんなわけで、僕たちの次の目的地が決まった。5層「ベースキャンプ」。過去、深層を目指す人たちがいっぱい居た時代に、拠点となった場所。



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