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本性

「やばいな…。間違いなく移住者(イミグラント)どもだ」


「どうします? 村長は『戦うな』と。逃げますか?」


 ヴィトが明らかに焦った声で聴く。


「アリィを連れて逃げ切るのも…、難しい…」



「セニア、俺のことは放っておけ。出来るベストを、尽くしてくれ。大丈夫、一人で歩ける」


肩を貸そうとしたセニアさんの手を、優しく押しのけるようにイシュタナさんが言った。


「おいおい、何言ってんだ? まったくお前らの声は、いつも耳障りなんだよ」


 踊り場に現れた男たちのうち、最も大柄な男が答える。小柄な斧の柄の部分を軽々と、片手の手のひらでポンポンさせるような、そんな仕草を…しながら。


「カイト! 下の出口を塞いどけ。殺るぞ」


 男の声に、後ろにいた一人の細身の男が階段から飛び降りて身軽に着地し、私たちを回りこむように先方の広場の出口を塞ぐ。速い。村一番の俊足より、遥かに速い。


 ここに来て、私は、事の大変さがわかってきた。…まずい。まずい。まずい。



 ヴィトも焦った顔で先輩2人に聞く。


「なんとか話し合いでなんとかなりませんか?」


「お前も、聞いたことあるだろ? 移住者(イミグラント)には、こちらの話は通じないんだ」


 ヴィトが、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「…」


「こちらの話したことは、なぜか、全く伝わらない。…聞く気が、無いだけかもしれんが」



 階段を降り切った人数は2人。


 大柄な斧を持った戦士。村人の服装とは違う。異国の服だ。それに何か防具のようなものを肩に取り付けている。もう1人はそれよりは小柄でやせ型な男。底意地の悪そうな顔をしている。


 ゴレゴリさんが、「通じない」と知っているのに、男たちに話しかける。


「狙いはなんだ。私たちは、戦う気はない。剣を、捨ててもいい」


 途端、奴らの顔が「不快」を露わにする。


「ほんと、聞いてらんねぇよ」


 

 大柄の男の目線が、私たちを恥から順番に舐める。

 …そして、セニアさんと、私で目を止める。


 小柄なほうの男がいう


「ヒロト、狙いは2人でいいスか?」

「大きいほうは、いつもの面々だろ。居なくなっても姉御にバレる。小さいほうだけでいい」


「大丈夫スかね? バレたら処刑もんかもしれんスよ」


「あいつらの言ってることはわかんねぇし、俺たちの街から離れたどっかに繋いで飼っておけば問題ないだろ。ほかのやつらもまた沸くしな。カズヤも、たまには違うのを楽しみたいだろ? 当分、楽しめるしな」


「そっスね」


 奴らの言っていることは、私たちには聞こえている。

 意味は、私にはわかんないところもあるけど、…なにか、怖いことをいっていることが、わかる。

 そしてあいつらの狙いが、何か私であることも。


 ふと隣をみるとセニアさんが、震えていて、それを無理やり押し殺すように叫んだ。


「アリィ、後ろに下がりなさい。急いで!」


 私はナイフを握りしめてすぐにみんなの後ろに回る。



「さて、こいつらは壊し放題な人形なわけだし、少し楽しませてもらおうぜ」


 うしろの「カズヤ」と呼ばれた人も剣を抜く。突き刺すことに長けたような形の、細身の。


 

 ゴレゴリさんとヴィトが前面に立つ。


 無事で切り抜けるなら、もう1個の出口に走ったほうがチャンスがあるはずだ。


 …それが選べないのは、私のせい。


「くっそ、戦うしかないのか!!」


 わからない。なんで戦わなきゃいけないんだ。


 ゴレゴリさんに大男のほうが突進して、少し小さなサイズの斧を軽々振りかぶり、それを力のまま振り下ろす。


 慌てたように軌道に入り込んだ剣により抑えられた斧は、その剣を一瞬、捻じ曲げたように見えた。

 そして、剣先だけがブーメランのように回りながら吹っ飛んでいく。


「な…!!」


「そんな剣、じゃな」


 そして大男はそのまま、無造作に斧を槍のように突き出し、ゴレゴリさんのお腹のあたりに押し当てたように見えた。


「ぐ…ぅうううう…」

 

 聞くに堪えない声が響いた。


 大男が、軽々と斧を引き戻す。その斧の先端から生えた、赤く染まった刃がその血の隙間から鈍く光を反射していた。


 ゴレゴリさんが、震えながらお腹を押さえて崩れおち、そこから横に倒れた

 ゴレゴリさんに駆け寄ろうとするヴィトをセニアさんが引き留めてそして何か言ってる

 ヴィトが、肩をすくませた後、私のほうに向かってくる

 その後ろで、イシュタナさんが、小さいほうの男に肩のあたりを突き刺されたのが見えた

 剣を落として、あおむけに倒れこんだところにあの男が


「…アリィ、アリィ!! ぼーっとしないで!! 一緒に来るんだ!! 急いで!!!」


 いきなり手を引っ張られて、私はふっと気持ちを取り戻す。


「ヴィト…?」


「こっちだ! 急いで」


 私は左手をヴィトに引っ張られて走り出す。もう1個の出口のほう。あいつらのもう1人が、逃げないように見張ってる場所だ。

 

 涙が出てくる。行ったって、どうしようもない…。みんな。


 ヴィトが、走りながら、慣れない左手に持った剣を握りなおす。


 前を走るヴィトの背中のブレた瞬間、待ち伏せる男がこちらに弓を向けているのが見えた。

 

 …ヴィトも、それを気づいているのがわかっているのに、足を緩めない。

 

 相手まで数十メートルくらいまで近づいたところで、「ブツッ」という気持ち悪い音がしてヴィトが前方に転がった。手を引っ張られた私もバランスを崩して床を這う。


 顔面を打つ。口に、砂と血の味が滲んだ。


「ヴィト! ヴィトしっかり!!」


「あ…ぐ…ぐぅ…」


 ヴィトの太ももを、一本の矢が貫いていた。


 それでも、無事なほうの足を軸に、立ち上がろうとする。


 立ち上がったヴィトの前に、男が1人、細身の剣を持って立っていた。


 そして、無言で、正面からヴィトの左肩に振り下ろす。


 ヴィトが、私のほうを少し振り返って涙をためた目で見つめながら、うつぶせになって、動かなくなった。


 私は、持っていたナイフを、両手で強く握って、あいつに向かう。


 …刺す。ここであいつを刺せないなら、全てが無駄になってしまう。


 突き出したナイフをつかむ私の右手首を、あいつがこともなげに左手で掴む。


 …そして、捻り上げるように吊り上げられる。


 ナイフが私の手からこぼれて、床で硬質な音を立てた。


 右の手首が痛すぎて、もう、よくわからない。左手を添えて、やつの腕をかきむしる。


「行儀が、悪いな…」


 ここで、初めて、あいつが口を開いた。


 そして、右手に持った剣を逆手でもって、私のほうに向ける。

 右の二の腕のあたりを貫通して、腕から赤いものが勢いよく流れ出る


「ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーあああああぁああ」



 もう、何言ってるかよくわからない…。あいつが掴んだ手を放して、私は床にべしゃっと叩きつけられる。


 目から涙じゃないものまで出てきている気がする。にじむ。

 右腕を抑えた左手の両側から血が止まらない。体中が痛みと悔しさで滲むなかで、私の視界にあの大男が見えた。


「…カイト、全く乱暴だなぁお前も。別にそこまでしなくてもいいのに。…無表情でやってるのは、俺も怖くなるわ」


「別に、腕なら連れていくにも支障ないでしょう。足だと連れて歩くも一苦労、ですしね」


「ま、そうだな…」


 あいつは右手に何か掴んで引きずっていて。

 それが、死んだセニアさんの髪をつかんで引きずっているんだ…って、わかったんだ。




 村の人たちみんなは、造物主様の「祝福」で、死んでも、生き返る。…そう、聞いてきた。


 ……違う。これは、そんなものじゃない。これは「呪い」だ。私たちが、人ではなく、人形でいるための。


 ……生き返るから、こんな、おもちゃ以下に、殺されて、弄ばれるのだ。

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