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鉱山への道

 5人で村の入り口までたどりついた。


 村の入り口のあたりは防壁になっている。侵入者を許さないための木で作られたものだ。モンスターがここまで入ってくることはないから、ほぼ移住者(イミグラント)対策。


 そこにはいつも当番の人が詰めていて、交代で見張りをやっている。

 ヴィトも一応見張り番の順番に入ってる。


 私たちは今の当番の人にあいさつ。


 5人のメンバーはこんな感じだ。

 

 ベテランの男の兵士さん2人。「イシュタナ」さんと「ゴレゴリ」さん。イシュタナさんが細身で、ゴレゴリさんはふくよか…というかデブ。気がいい人だからみんな好きなんだけどね。

 あとは、セニアさんと、ヴィトと私。この5人。


 「鉱山」といっても、ガリガリ岩肌を削るわけじゃない。そのあたりとか浅いとこにアイテムがアイテムが産出するから、それを回収しにいくのだ。造物主様のお恵み、ってやつ。


 私たちは気を引き締めて村の門をあとにする。ここからは村に差し込む光が届かない領域だ。



「アリィ、武器持ってきてるんだっけ?」


「うん。ナイフだけど」


「使えるように、出しておいて。鞘はそのままつけといて」


 ヴィトにそういわれて、私はリュックからお母さんのナイフを取り出す。

 ちょっとだけ鞘から抜いてみる。白く輝く刃。すごくカッコいい。


「お、それ『アーティファクト』のナイフかい?」


 イシュタナさんが私に問いかける。あげないぞ。おうちの宝だからな。

 私はナイフを鞘に戻し、少し隠すように背中の後ろに回した。


「そうだよ」


 「アーティファクト」。それらは村の外にぽつぽつ産出している。その中で、特に私たちが全く作れなくって、かつ有用なもの、得体のしれないものを「アーティファクト」と呼んでる。


 このナイフもアーティファクトだ。こんな白い薄い刃は、頼んだって村の鍛冶屋さんだって作れないだろう。そもそも、何でできているかもよくわからないのだ。


「アリィの宝物、だよね?」


「うん! 『私の』じゃなくて、『うちの』だよ」


「…そうね」


 セニアさんがとっても笑顔になった。安心する。


「俺もアーティファクトな武器とかいいもんほしいなぁ…」


 ヴィトが、自分の粗末な剣の刀身を目の前に近づけて言う。その刃はところどころ刃こぼれを起こしていて、柄の部分との接合箇所も、幾たびか補修が繰り返されている。


「ヴィトの剣はお下がりだからなぁ」


「お下がりはいいけど、寿命っすよこれ…」


「村に古来から伝わる剣だ。伝説の剣だなw」


「ものはいいよう、って、こういうとき言うんスよ」


 そういうと、ヴィトはポカリとゴレゴリさんにげんこつを叩き込まれる。

 

「自分の剣に不満ばかり言っていてどうする。戦うときには、最高の剣を持っていると思うもんだ」


「あーい」


 適当だなこいつ。でも、不満ばかり言っててもしょうがないよね。



「さて、ここからは気を引き締めていくぞ」


 イシュタナさんが緊張感のある声で私たちに言った。



 村の門をでてから少しいくと、村の出口にたどり着く。


 村は、草原とか森の中とかにあるわけじゃなくって、この村の外は、暗い通路が延々と続いている。できることならあまり行きたくない感じだ。


 セニアさんが村長の家で受け取った地図を広げる。慣れた人は地図を見なくてもなんとか行けるらしいけど、ちゃんと確認しながら行くように、って、強く言われている。


 村の外は迷路のようになっている。ところどころ先が暗がりになっている階段があるんだけど、そこの上下に行くことは村の中では禁止されてる。単純に、行く必要もないからだ。



 通路に入ると、隊形が変わる。


 前衛としてイシュタナさんとゴレゴリさん。中衛に私とヴィト、後衛にセニアさん。

 中衛というのは名ばかりで、ほかの3人で私とヴィトを守ってる配置というのも、まぁ正しい。



 普段、村の外に出る機会は私には本当に少ない。

 当番の人は、ちょくちょく「ギフト」を拾うために巡回しているようだけど。


 

 鉱山への道は3時間くらい。層の移動はない。採取時間を見ても、1日で帰ってこれる。




 歩き出して1時間くらい経っただろうか。ここまででもたくさんの分岐があって、地図がなければ全く戻れないだろう。このあたりは岩肌じゃなくって、人が作ったような壁とか道が続いてる。


 前衛の2人がいきなり足を止めた。


「皆、静かに」


 通路は円筒形の広間との境界に差し掛かっていて、境界付近に踊り場があり、階段が右下へ・・・円筒形の底に壁にそって続いている。


「ゼリーマン、だな。2体」


「ゼリーマン」というのは、少しだけ村で聞いたことあるかも。


 私は、かがんだ前衛の2人の後ろから、背伸びして…も見えないから足の間に入るように前方…、前方の下部をのぞき込む。


 ピンク色の大きな肉の塊。ブヨブヨしている。それなのに2本脚歩行。背丈は2~3メートルくらいはあるだろう。気持ち悪いぞ。


 前衛の2人が方針を検討する。


「どうする?」


「この位置取りでは、発見されずに通過は難しい。…いなくなるのを待つのも望み薄だな」


 聞いたことがある。「ゼリーマン」は、頭が悪いのかないのか、彷徨うような歩き方をする、と。つまり、フラフラしている酔っ払いみたいなものだ。


「ヴィト、殺るぞ」


「…待ってました!」


 ヴィトが超嬉しそうに剣を握りしめる。眼がキラキラしてる。…ほんと、何が楽しいんだか。


 作戦は簡単。前衛2人+ヴィトで突っ込む。セニアさんは後からついていく。

 私? 私はあとから戦況をみながらゆっくり気を付けてついていくという大役だ。


 セニアさんも杖を構える。この隊はじめての本格戦闘だ。


 イシュタナさんがカウントダウンを始める。


「3…2…1… 0. 行くぞ!」


 ゼリーマンのLvは14程度だ。割とある力と、体には少し毒っ気があるみたい。触らないほうがいい。


 3人が一斉に広間に出て、階段を駆け下りていく。セニアさんもそれに続く。


 もう少し、うまい方法ないのかなぁ。上からチクチク弓で撃つとか…。


 私も、「ゆっくりついてこい」と言われたものの、置いていかれるのも嫌なので、とりあえず走り出す。



 広間の地面にたどりつく。敵はまだ特段の動きを見せていない。鈍いのだ。

 バラバラと1Fについた3人はそれぞれ剣を構え、ひとまず至近の1体に向きなおる。


 イシュタナさんが駆け出し、大振りに剣を上段右から振り下ろす。先手必勝だ。


 ピンクの巨体の肩口に剣が割込み、お腹のあたりまで食い込む。

 ただ、奴は特に痛がる様子もなく、ただ、怒りをこみ上げたように、右手のようなものを振り上げ、振り下ろそうとする。

 そこに、ゴレゴリさんが奴の右側半身から、体ごと剣を刺し貫く。

 奴の体は一瞬傾斜したものの、その勢いから反動をつけるようにそのまま右腕を振り下ろす。


 腕はイシュタナさんの左肩あたりにヒットし、その勢いで回転するように2メートルほど吹っ飛ばされる。


 空いた隙間にヴィトが突っ込み、頭部っぽい部分(ちょっと膨らんでるだけだからよくわからない)に突き刺す。剣は深々とあいつの頭部に突き刺さり、ヴィトが抜くと同時に奴の体が倒れた。


「安心するな! もう一体くるぞ!」


 ゴレゴリさんとヴィトがもう一体に向けて駆け出す。

 セニアさんは一撃食らったイシュタナさんにかけより、脇にしゃがみこむ。


 肩部分の防具をずらし、首元の様子を確認する。何か紫色の染みのようなものができている。

 傷口は見えない。打撲かなにかだろうか。


浄化魔法ピュアリフィケーション!」


「アリィ、傷薬! 早く!!」


 セニアさんに促されて私も背中のリュックを下ろして中をかき回す。 

 お母さんに持たされた瓶入りの傷薬だ。


 つかんでセニアさんに渡そうとする。


「早く。飲ませてあげて!」


 慌てて瓶の栓を抜く。ちょっとこぼれた;;


 それをイシュタナさんののどに流し込む。


「まずい?」


「大丈夫、ちょっと休めば…問題ないんじゃないかな」


「あとは私に。アリィは2人を見に行って! 無理はしないで」


 そういうとセニアさんは2つ目の魔法を発動させる


治療魔法(リペアメント)!」


 白い光がセニアさんが触れた部分で輝く。これだ。この2つの魔法の連続発動。カッコいい。


 私はナイフを握ると立ち上がってヴィトの駆け出した方向に向き直る。


 2人は、「ゼリーマンに一撃で致命傷を与えられない」と悟ったのか、奴と距離を少し保ちながら、奴の腕部分に攻撃を集中しているようだった。いいぞ、ヴィトやるじゃん。


 ゴレゴリさんが奴の右の二の腕あたりに攻撃をヒットさせる。深手だ。奴の手は皮…があるのかどうかは知らないけど、薄い組織で繋がり力なく垂れ下がった。ヴィトは左半身からの攻撃をけん制し、奴の間合いに入ったゴレゴリさんへの攻撃を防ぐ。


 ゴレゴリさんが体勢を立て直し、奴の脇腹から深々と剣を突き刺す。よろけた奴に、ヴィトが思いっきり剣を振り下ろす。


 …勝負あった。


 ヴィトがちょっと親指を突き立てて「やったぜ」ポーズをとって私を見る。私も手を振ってこたえた。




 ゴレゴリさんはイシュタナさんを心配して尋ねる。


「…イシュタナは、大丈夫か」


「問題は、…ないかと。全快するまでもうちょっとここで休みましょう」


「ちっ…、ヴィトなんかに後れを取るとは…俺もヤキが回ったな」


「何言ってんだ。数年来、年取ってねぇだろ。もともと弱いんだよ」


「うるせえなw」


 2人は割と見張りなんかを一緒にやっていて、仲良しなのだ。


 イシュタナさんの怪我がそれほどではなかったので、私たちは少し車座になって休憩することにした。

 水筒に入れてきた水がおいしい。


 イシュタナさんの怪我もそれほどではなかったし、ヴィトの剣術についても2人は随分ほめてるみたい。

 私たちは、ひと時の休息を楽しんでいた。




 …その声が広間に響くまでは。




「よぉ、楽しそうにやってんじゃないか。…俺たちも混ぜちゃくれないか…?」



 見上げると、私たちの入ってきた踊り場部分に、私たちが、恐れていた人影が3つ現れていた。


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