鉱山隊
教会の中はなにか特別な仕組みがあるわけじゃないのに、石造りで中はひんやりだ。
教会を出ると一気に暖かく…むしろ暑くなる。日焼けしちゃいそうだ。
私は少し小走りでお姉ちゃんより先に進み出す。1回家に戻らないと。
「そっか、次回の『お勤め』はお姉ちゃんも行くのかぁ…。また寂しくなるなぁ」
お姉ちゃんは、ちょっと静かな声で言った。
「そうね、でも、またすぐ戻ってくるから。…いい子にしてなさいね」
「私も大きくなって、お手伝いができたらいいのに」
少し振り返ってお姉ちゃんを見る。暖かな日差しのなかで、まるでお話に出てくる「海」に沈んでいるかのように、静かで、そしてなにかすべてを諦めたような、そんな顔。
「…そうね。でも、ゆっくりでいいのよ? 本当に、大きくなってからで、いいの」
「ふーん…」
よくわからない。難しいことは、よくわからない。
道すがら、3人くらいの今日の小柄な身に慣れない剣と鎧を身につけた男の子と、大人の兵士2人。
ヴィトだ。赤いツンツンした癖毛で小柄なくせに生意気。年はあっちがちょっと上だけど。
「ヴィトー!!」
私は手を振って大声で挨拶する。「ヴィト」。愛称だ。ホントの名前は「ヴァイタリー」。
村の中には割と大人が多いんだけど、そのうちでも私と一番年が近い。ちょっと私より上だけど。
ヴィトは先輩の兵士さんに少し気まずそうに顔を赤くして何か焦って話したあと、私に駆け寄ってくる。
「アリィ、恥ずかしいだろあんな…」
「いいじゃない? 別に気にするところかな」
「気にするんだよ… わかれよ…]
ちらっと見た感じ、先輩兵士さんも笑ってるし、問題ないと思うんだけどな。
ヴィトがため息をつきながら私に言う。ヴィトは私にとっても年が近くお友達だ。
最近は、「村を守りたい」とか言って、兵士見習いみたいになってる。
活発な男の子だ。仲はいいかも。
「どこか行くとこ? 私たちは教会から戻るとこなんだけど」」
「お前も今回の鉱山行きのメンバーだろ…? のんびりしすぎじゃないか? もうあんまり時間ないぞ? 俺も先輩2人もメンバーだから、もう村長のとこ行くとこなんだけど…」
「うぇ?」
もうそんな時間か…。
「あー、うん、がんばる…。ヴィト、また、後でね」
そう言って、とりあえず家に急いで戻ることにする。牛の世話まであるのだ。やばい。
「お姉ちゃん、先帰ってるーー!!」
私は、少し離れたところまで走ってから、お姉ちゃんに挨拶して家へと急いだ。
帰り着いてからは息着く間もなく家の裏の牛舎へ。
干し草を2頭にあげて、牛舎を簡単に掃除。水の入れ替え。乳搾りとお散歩はお母さんにまかせていいや。「ハナコ」の仔牛を少しナデナデ。かわいい。名前も、考えてあげたいな。
家に顔を出すと、お母さんが鞄に荷物を用意してくれていた。
透明なボトルに入った水。自家製のサンドイッチ。そして、家にある真っ白な光る刃を持つナイフ。金属ではない知らないもので作られた、薄刃なのに丈夫で切れ味が落ちないすごいやつだ。家ではお母さんの取っておきの一丁なんだけど、私に持たせてくれた。そしてちょっとした傷薬とか。
なんだか冒険気分が盛り上がって、ちょっと嬉しくなる。実際は初めてじゃなくって、今回で3回目くらい。普段は村の外には出るなと言われているから、こうやって村の外に出るチャンスがあるのはやっぱりうれしい。
「ちゃんと皆さんの言うこと聞くのよ? ほんとにあんたはいっつも勝手なことばっかり…」
「わかってるって!」
お母さんは心配性すぎるのだ。前の時もなんともなかったし。準備も万端だ。
「はい、じゃあ村長さんのところに行きなさい。集合時間もうすぐでしょ? 牛の世話は? 終わったの?」
「終わったよー」
そう言って、私はまた駆け出す。さっさと行かないと。時間が過ぎるとあの髪の薄い村長にガミガミ怒られる。
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「こほん」
村長さんが、わざとらしい咳払いをした。
ここは村長さんの家。村の中からは、教会のさらに奥にある家だ。ちなみにその奥にはあんまり大きくないけど森が広がっていて、ちょっとした動物も住んでる。
私たち「隊」の面々は、そこのリビングにあたる部屋で少し腰を落として、みんなで村長さんの話を聞いてる。面々は、さっきヴィトといた2人の男の人、ヴィト、そして私。あと、回復術士として「セニア」さん。この5人。
顔なじみだ。セニアさんは普段は村の道具屋さんで働いてる。元気で誰にでも優しい。ちょっととぼけたところもあるけど、みんなから好かれている。お姉ちゃんよりちょっと年下。お姉ちゃんはやっぱり大人な感じがするけど、セニアさんはちょっと友だちっぽい気がする。
村長さんはホントに小柄で私よりちょっと大きいぐらい。可哀そうに髪がほとんどなくてつるっぱげだ。若いころはあったのかもしれないけど。いや、若いころなんて知らないんだけどね。
「毎度のことになるが、この鉱山隊は村にとっても重要な役割となり…、うむうむ」
毎度のこと過ぎて、面倒くさくなったんだな。わかるよ。
「…というわけで、最近は移住者の出現も減ってきたとはいえ、十分に注意を払うように。接触した場合には、なんとかして戦わないように離脱すること。怨恨を残すのが一番よくない。ヴィト!! わかるな!?」
「…は、はい!」
ヴィト、絶対聞いてなかったなこいつ。
「収集物は鉄鉱石他のいつものものが目的だ。採集用のツルハシなんかも忘れるなよ。特にヴィトはどうせ剣しか持ってないだろう?」
斜め前の小さい背中が一瞬ビクッとなる。小心者だなぁ。
「あと、アリィ!」
おっと、私だ。
「お前はあくまでお荷物、なのだから、出しゃばったことをしないように。みんなの動きを見て、学ぶようにな。わかったか?」
「はい」
もちろんさ。もう3回目なんだ。「ベテラン」だぜ。
いつも通りの村長さんの挨拶を終えて、結団式は終了となった。ほとんど、「しきたり」になってる。
私たち5人は頭を下げた後、村長さんの家を後にした。
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人の少なくなった村長宅にて。
妻が、村長に話しかける。
「アリィも、まったく大きくなりませんねぇ」
「そうだなぁ…。本当だったら、そろそろ逆に子供たちを引っ張る年齢のはずだが」
「大きくならず、新たな命は生まれず…。このままでは、破綻しかないように思います。老いないことは、うれしいですけどね」
「主のお導きだ。…我々は、これ以上はどうしようもないだろうな…」
「イミグラントの出現数の減少も気になります。良いことですが…、黙って喜んでいいものかどうか」
「そうだな…」
2人は、5人が出て行った扉に目を向けた。




