礼拝日
==第2章==
今日は、月に一度、村の外の「鉱山」へ行って、貴重な鉱石などをみんなで採集する日だ。
一度採取しても、1ヶ月くらい空ければ、また、自然と生えてくる。そんなもの。
目を覚ました私は、ベッドから起き上がり、目をこする。…いつもどおりの、朝だ。
窓の外を眺める。いつもどおりの景色。道を挟んだ向かい側に、お隣さんがあって。右を見ると、中心部には造物主様に祈る教会がある。
窓に差しこむ朝日。恵みに感謝する。世界は闇に満ちているけど、この村の中は別だ。世界に、愛されている。
ベッドの縁に座り、時計を見て3桁の数字を読み取る。7時20分。もう、起きて良い時間だ。
部屋を出てリビングに向かう。リビングではお母さんがテーブルを拭いているところだった。
「おはよう。アリィ。お寝坊ね。お姉ちゃん、もう教会に向かったわよ?」
「え!?」
…あれ? なんかあったっけ?
寝ぼけていた頭がだんだん冴えてくる。あ、今日は10日に1度の礼拝の日か。6時半に起きて、一緒に行くことになってたんだ。
「あー、そっか、今日だったか…」
「相変わらずおっちょこちょいなんだから。お姉ちゃんもね、起こそうとも思ったけど、あんまり気持ち良さそうに寝てるから…、って、先に行くことにしたの」
そういって、少し呆れたようにお母さんが言う。
「さ、朝ごはん食べて、お姉ちゃん追いかけたら?」
そういうと、お母さんはまたキッチンの、カウンターの向こう側に戻る。
私はテーブルにつく。もう朝ご飯は用意されていて、家族みんなはもう食べ終わっていて。私分の一食だけが残っている感じ。
朝ゴハンはいつも大体一緒なんだけど、パンと朝採れたミルク、目玉焼き、そんな感じ。あとサラダもある。家の畑で取れたものだ。
「お父さんは?」
カウンターの向こうのお母さんが返してくれる。
「もう畑で作業してる。そろそろ、収穫の時期だからね」
「そっか」
朝食をお腹にかきこむ。寝起きで乾いた喉にミルクはいつもおいしい。牛の「ハナコ」のおかげだ。
ハナコの子どももだんだん大きくなる。女の子だからお肉にされなくてすむ。嬉しい。一杯お世話するんだ。
「ごちそうさまー!」
手を合わせて食後の挨拶。お皿を重ねてお母さんのところに持っていく。
「急いで教会、向かうね?」
「はいはい。ちゃんと顔洗ってからね」
私は簡単に歯を磨いて顔を洗って服を着替えていつものように髪を頭の後ろでゴムで結わえて、荷物をちょっと準備。家の扉を開けて外に出る。
朝の日差しが眩しい。今日もいい天気みたいだ。
家の脇の畑ではお父さんがもうなにか作業していて、カゴに真っ赤なトマトをいくつも貯めていた。
「お父さん、おはよー」
「おはよう、アリィ」
そう言ってお父さんが額の汗を拭いながら立ち上がって、腰に手をあてて少し背伸びする。
…そういや、お父さん、最近腰痛そうにしてるのよね。
「教会へ行くのかい?」
「うん、お姉ちゃん、もう行ったっていうから」
「りょうかいりょうかい。行ってきな。戻ってきたら、牛の世話もあるからね」
「はいっはいー」
そういって、また駆け出す。早く教会に向かわなきゃ。家の手伝いもあるし、「鉱山」に行く集合時間もある。今日はのんびりしてられないのだ。
家の前を横切っている道を、右に向かって進む。
通り過ぎる村の人には朝の挨拶をする。…しないとお母さんに怒られる。
道すがらには、鎧を着込んで剣を持った人もいる。今日の見張り番かな。
すぐに教会にたどりついて急ブレーキ。この村も狭いからなぁ。
青紫色の石造りの建物。私の家とか、近所の人たちの家はみんな木でできているんだけど、ここは特別。ここの扉の取ってはひんやりとしていて、少し暑いくらいに感じている私が手で掴むと、とっても心地いい。
ささいなことだけど、一瞬幸せな時間だ。
でも、ここからが大変だ。この扉は重いんだ。
両手で掴んで、少し腰を落として引っ張る。
「うぐぐぐ…」
10センチくらい開いたのかな。不意に扉が軽くなって、私は後ろに尻もちをついてしまう。
見上げると、開いた扉の向こう側に、見慣れた顔の男の人が立ってた。教会の神父のお兄さんだ。
「おはようアリューシャ…、って、大丈夫? 悪かったね」
「大丈夫大丈夫…」
私はそういって起き上がりおしりを少しはたいて砂粒を落とす。これくらいへっちゃらだ。
「お姉さん、もう来てたよ」
「はーい」
扉を片手で押さえてくれている腕の下の隙間を縫って、中にはいる。
中にはまっすぐな通路と両脇に礼拝に来た人が座る長い椅子が並んでいる。
まっすぐ行った先には中央に祭壇がある。造物主様のいる場所だ。といっても、造物主様の顔とかお姿はみんな知らないから、鉱山で取れたとかいう一番大きな水晶が飾られている。
座席を見渡す。人ではまばらだ。礼拝は10日に1回といっても、時間帯がみんな一緒なわけじゃない。…簡単に、それくらいの頻度ではみんな教会に行きましょう、って感じ。少し遅れたりすることはあるけど、まぁだいたいみんな守ってる。
見知った後ろの頭を見つける。お姉ちゃんだ。
私はこの広間の左側に回り込んでお姉ちゃんの座席の列の端っこから滑り込み、黙ってお姉ちゃんのとなりに座る。
お姉ちゃんは誰か隣に座ったのはわかったのだろうに、両手を組んでお祈りを続けたままだ。お姉ちゃんは、ケイケンな信徒なのだ。涼し気な顔立ちで、流れるような金髪に澄んだ碧眼。なんか適当な赤毛で癖っ毛の私とは偉い違いで男の人にもモテモテだ。
私も大きくなったらきっとこうなるんだ。もっとも、「異変」のせいで大きくならないんだけどさ。
私もお姉ちゃんの隣で両手を握りあわせてお祈りの姿勢を取る。しばらく目を瞑る。
教会の中はとっても静かで、時には眠くなるけど。
「いこっか? アリィ」
ぼーっとしていたら、お姉ちゃんの方から声をかけられた。
目を開ける。前方の造物主様を示す水晶には、その上の方の青い摺りガラスから差し込んだ日差しが入り込んでいて、とても綺麗に見える。
お姉ちゃんが私を広間の端側に歩くように促す。真ん中の通路は基本入っちゃだめなのだ。
出るところで、入り口のところでさっきあった神父さんにお姉ちゃんが声をかける。
「主からのお告げは、やはりございませんか?」
「えぇ、…やはりずっとございません」
「15年ほど前からの異変…、そして移住者の出現。やはり主は私たちを見放された…といったところなのでしょうか…」
お姉ちゃんは昔に比べて、ずいぶん元気がなくなった。
「いえ…、そうは思いたくありません。我々への祝福はまだ続いております。彼らと違って」
「異変のおかげで皆が年を取らなくなり…、アリィが『お勤め』の背丈に到達しないことだけが、救いです…」
「次の『お勤め』はリリィも含まれていましたか…」
お姉ちゃんは、ちょっと顔をうつむかせて、返事をする。「リリィ」というのは、お姉ちゃんの名前だ。長い名前は「リリーシャ」。
「えぇ」
「そうでしたか…。主の救いが、ありますように…」
そういって、お話は終わりになった。
お姉ちゃんは神父さんにちょっと会釈して、私と共に教会を出る。
難しいこともあるけど、『お勤め』とは移住者のところに働きに出ることだ。
2ヶ月に1度、連中が来て、交代となるんだけど、1回につき男の人5人に女の人5人。
特にお給料とかがあいつらからもらえるわけじゃないから、みんな嫌がってる。
移住者。…造物主様からの愛が届かない、呪われた、可哀想な人たち。




