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白色のオブジェクト

 少し歩くと、住居や施設代わりに使われている洞窟はほぼなくなり、ところどころ黒い岩肌が見えるものの、辺りは一面の「雪」に包まれる。このあたりでも左右の幅は広くて、まるで左右の壁は見えず、遠望は闇に包まれていた。


 タマキがそこで立ち止まり、こちらに体の向きをかえ、腕を後ろ手に組んで話し出す。


 「びっくりした? 何か疑われているだろうな、っては思っていたけど。私が噂の旅行者(トラベラー)だよ」


 明るい口調だ。そして、今までにないような笑顔。


「2人とも馬鹿だね。…だって、私、『みんな死んでる。だから絶対に絶対に元の世界には戻れない。私は別だけど』って言ったんだよ? 死んでるのはカリナさんも同じ。そっちのきっかけは、知らないけど」


「私を追いかけてる場合じゃないでしょ? 早くしないと全部終了で初期化だよ? 2人とも」


 彼女の発言には棘が散りばめられていて、チクチクと僕を刺す。


 まるで袋小路に追い詰められたハリネズミが、自身の毛を逆立てているようだ。

 でも、その針はきっと、より深く、彼女の内側にも突き刺さっている。


 ――何をどう言えば、いいんだろう。何が正解なんだろう。


 隣のカリナに少し目線を向けた。カリナは静かに彼女の方を見ていた。


 その姿は、とても、何か語りかける言葉を探しているようには、見えなかった。


 …全ては僕次第だ、ってことなんだね。


「高城君も、深層への挑戦、頑張ってね。きっといい結果が出るよ。応援してるから」




 僕は



「…タマキ、一緒に来てほしい。最後まで、一緒に、挑戦しよう」


 一言だけ、そういった。彼女の発言なんて全部無視した、僕の素直な気持ちだ。


 こんな発言ができた自分にびっくりする。…結構、勝手なんだな僕は。


 そして、この発言は、挑戦することへの決意の表明でもある。


 少しだけ、沈黙が流れる。

 


 小さな声で、彼女が話し出す。


「……なんで、私が一緒に行くの?」



「…仲間、だから」


「仲間…かな? 私は死んだら単にログアウトだよ。高城君が必死で戦ってても、私には関係ない。仲間って言えるのかな? そんなの」



「言えるよ」


「なんで?」



「…僕が、そう思うから」


 静かになった周囲を、白い小さな舞台演出だけが、いくつもいくつも空気の動きに沿って音もなく流れていく。


 これがプログラムだとしたら、どんなにかこの動きだけで苦労することだろう。


「強引だなぁ。高城君の、キャラじゃないよ」


 そう言って、彼女が少し笑った。


「…本当に、高城君は他人のことばっかり。自分の置かれた境遇も、ちょっとは考えたらいいのに。…昔は、私もこうだったのかな。」


 そう言って、一言「ありがとう」と言った。

 

「…2人とも座って? 話は長くなるよ。全部、話すから」


 そういって、彼女は近くの横長な平べったい岩が斜面から突き出した箇所へ、僕らを案内する。


 彼女はそこに腰をかける。僕とカリナは、タマキを挟むように3人並んで、座った。



 彼女は、手元の雪を手で少しすくって、サラサラと、砂のように地面に流した。


「まずは、このシステム『模倣された世界シミュレーテッド・ソサエティ』のことから、だね」  

 

 彼女が、この世界のこと、そしてここに来るまでの話を、ゆっくりと話しだした。

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