告白
「あの日はね…、私は休んでて、で、家のTVで事故の報道を見たよ。ほんと、えっ? って感じで…」
話しだしたタマキに、3人が尋ねる。
「それで…?」
「ちょっと経ってから…生存者は病院に搬送されたとか…そういう報道があって…」
「しばらく入院していた人も居たんだけど…」
3人は、タマキの次の言葉を待つ。
タマキはしばらく、次の言葉を紡ぐのを躊躇っているようだった。
…沈黙が流れる。
「あのね、結局…、みんな犠牲者ってことになって…」
「え、え? 犠牲者…って、『みんな死んだ』ってこと!?」
タマキはそれに返事を返さなかったけれど、…その態度は明らかに「肯定」だった。
「…何それ…? え? じゃあ、今の私たちはなんなの!?」
「えっとね…、みんなはね、その時の記憶とかを元に、疑似空間に再生されてるの」
「は…?」
沈黙が場を包む。3人とも、何か次の言葉が見つからないようにうろたえた。
谷口さんがかぶせるように聞く。
「ちょっ…ちょっと、珠希が何言ってるのかわかんないんだけど」
「本気で? 本気で言ってる? 珠希…?」
「え…、じゃあ元の私たちはもう死んでて、お墓の中? もう、戻れることもない? …ずっと、このまま?」
タマキはもう返事をすることもできず、ただ黙りこんでいた。
「珠希は? じゃあ珠希はどうしてここに…?」
「私はね、…その仮想空間に外の世界からログインしてる。事故から、何年も経って…ね」
「いずれね、私は元の世界に、戻る」
「え…? じゃぁ珠希だけは生きてて、様子を見に来た…みたいな感じ…?」
「……うん。みんなに、もう一度、会いたくて…」
「そ…そう…」
珠希と仲のよかった谷口さんは、タマキの意見を聞いて押し黙る。
僕だって、カリナだって、タマキの発言はやっぱり衝撃的で、それはそれ自体でも、心を揺さぶられるのだけれど、僕は、もうそんなことはどうでもよくって、タマキがこの場をうまく切り抜けて、また元気で過ごしてほしいって、それだけ、考えてた。
今まで黙っていた伊藤さんがタマキに向かって問いただす。
「じゃぁ、珠希は自分だけ安全な場所から、私たちを観光に来たって感じ…!?」
「…朱里、そういう言い方ってないでしょう!?」
「でも、そういうことでしょ? ちがう? 珠希?」
タマキは、諦めたように、一言伊藤さんに返事をする。
「そうだね…、そういうことに、なるね…」
伊藤さんは、この発言を聞いて、少し息を飲んで、しゃがみこむように泣き崩れた。
「……こんなのって、ないよ…。何それ…おかしいよ……」
そして、嗚咽を漏らすような声をあげて泣き出す。
その姿を見て、須藤さんが伊藤さんのそばにしゃがみこんで、背中をさする。「悲しいことがあったんだね」っていう、そういう、励まし方。もう、起こってしまったことを、時間の経過とともに、「飲み込むしかないんだ」って、そう言い聞かせるような。
少し時間が経って、谷口さんがタマキに切り出す。
「珠希は嘘つくような子じゃないことは知ってる。言ってることは、全部、本当なんだろうな、って、思う…」
「でもね、たぶん、みんな受け入れるには、時間がかかると思う…」
タマキと3人との距離。また前のように話せる日が、来るのだろうか。
タマキは相変わらず無言のままだ。でも、少しだけ谷口さんのほうに視線を戻した。
「少し落ち着いたら、きっとまた話せるようになる。そしたら、もっと話、聞かせて?」
「うん…」
「ねぇ、珠希はいつ戻るの?」
「ここはね、そう簡単に出たり入ったりできなくって…、長めのお休みを取ってるんだ。当分、いるよ」
「そっか、…じゃぁ、また、会えるね」
――「また会える」。それは、「再会への約束」。そして「合流への拒絶」。
「うん。それじゃあまた、3人と会えて、嬉しかった」
タマキは顔をあげて、少し目を細めて微笑んだ。
そして踵を返すように、宿舎の入り口に向かって歩き出す。
僕は、まだ寄り添っている2人と、立ちつくす谷口さんに向かって軽く会釈して、タマキのあとを追いかけようとする。
「高城くん…、高城くんは、珠希と一緒に行くの?」
「そっか…。高城くんは、強いな。珠希をよろしくね。…あんまり、強い子じゃないから」
「…そんなこと…ないよ」
そういって、3人から離れ、僕とカリナは早足で先を歩くタマキを追いかける。
「こうなるような気は、してたわ…。ほんとあの子は」
タマキを追いかけながら、カリナが呟いた。
洞窟となっている宿舎から外にでると、外の雪は心なしか強くなっていて、ダンジョンの中に傾斜の上からふもとへ向かって空気が流れている。その風に乗るように、「雪」の欠片が舞っていく。
タマキは洞窟を出たあと、ゲレンデを下っていく。
ただでさえ薄暗い中で、タマキの白い服は雪の中に溶けそうで、まるでタマキごと消えてしまうような、そんな気がした。
「タマキのこと、あきらに任せようか?」
カリナなりの気遣いなのだろう。
――でも
「一緒に行こう」と返した。
カリナは少し表情を緩めて、小さくうなずいた。




