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ナガノへ

 2日後。


 カリナの書いたノートを見て、タマキは静かに


「カリナさんは、優しいね」


 と呟いた。そして、


「最後の目的地、だね」


 と、一言だけ、話した。



 僕らは、3人のクラスメイトのいる「ナガノ」を目指す。


 最初の街シブヤと、ハコネとナガノは、逆「く」の字を描くような形をしている。

 シブヤから見てハコネもナガノも北の方角だ。もっとも、どっちが北とかわからないんだけど。


 ハコネからは単純に歩いて4時間ほど。


 コクトー&牧野戦が効いたのか、僕らのLvは僕とタマキが11、カリナが29となっていた。


 僕とタマキはまだ一般人レベルなのは気にしちゃいけない。


 道中は静かだった。


 モンスターがそれほど出なかったこともあるけど、3人とも、ナガノへ着いたら何かが変わるような、そういう気がして。

 気軽な言葉を交わすような、そういう空気じゃなかった。


 ハコネ〜ナガノ間は、同じ1層であることもあり、シブヤ〜ハコネ間と比べて難易度が高いわけではない。僕らは、それほど苦もなくナガノへ到着することとなった。


 細い路地の先がT字路となっていて、突き当りには盾のようなレリーフが飾られていた。


 通路の右側は通路が岩肌に様相を変えたあと、左に曲がり続ける上り坂が延々と続いている。一方で左側の通路は下り階段となっていて、漆黒の闇まで階段が続いている。深そうだ。


「ナガノ到着」


 このクソ地味な風景を前に、若干背伸びをしながらカリナが言った。


「ここが?」


「そう。ナガノは斜面にある街だから。ここの右と左の道は大きく回り込むようにして広がりながら合流してる。その広がりにあるのがナガノの街」


「へぇ…」


 そう言って、カリナは右の道を選び、また歩き出す。僕とタマキはそれに黙ってついていく。


 次第に、足元が白く埋め尽くされていることに気づく。


「あれ? これって雪?」


「正確に言うなら、『天井から沸く雪っぽいナニか』でしょうね」


 実際、足元の白いものに触れてみると、別に冷たくなくて、手に乗せても溶ける気配がない。


 これも「雪」ではなく「雪っぽい演出」でしかないわけだ。


「これがナガノの名前の由来かな?」


「それもあるだろうし、ナガノって斜面に街があるんだよ。それが何かスキー場とか連想させたんだろうね」


 タマキが答えてくれた。


 通路は上りながら延々と左に大きなカーブを描き、そして次第に通路幅が大きくなっていく。そして唐突に視界が開け、大きなゲレンデのような地形が姿を表す。最大の広さの場所は、左右の壁が見えないほどだ。


「まるでダンジョンの中?とは思えないなぁ」


「雪はそんなに深くなくって、せいぜい10cm程度。この傾斜地にところどころ小さな洞穴があって、そこがハコネでいう『建物』みたいになってる」


「こういうのって、誰かが作ったわけでなく、もしかして元からそうなの?」


「そう」


 カリナがシンプルに答えた。


 不思議なものだ。例の移住者(イミグラント)が過ごしやすいように、1層にある程度「街」を構成しやすい要素が整っているわけだ。しかも人数にある程度適合した規模で。これが作為なく作られた世界だとは、やっぱり考えにくいよな。


 僕がそんなことを考えていると、タマキが早速言い出した。


「さて、まずはギルド、だね。3人の居場所を聞き出さなきゃ」


 同意した僕らはギルドの場所を求めて傾斜地を下りだした。人の人数はハコネと同程度だろうか。やはりある程度出入りする人間は限られているらしく、外から来た僕らは少しめずらしいようで、何人かの視線を感じた。


「昔であれば、もう少し人がいたからね。その頃であれば人の行き来ももう少し盛んだった。…新たに来る人は減る一方なのに、住人は少しずつ、減っていくからね」


 カリナが嘆くように言った。


 この暖かさで雪があれば、本来は足元は溶けた雪でぐちゃぐちゃになっていたことだろう。ただ、ここの雪は本物じゃない。特に溶けて足元にまとわりつく感じはしない。チラホラと雪が舞っているのに積もり続けないのであれば、また何か都合のよい条件が適用されているのだろう。


 …以前拾ったスノーボード、回収したほうが良かったんじゃないか? いやここでスノボやりたいかと言われると、そうでもないけど。


「最近、登録した3人だね…?」


 斜面にはポッカリとした黒い洞穴が各所に空いている。ギルドはそのうちの一つで、入り口のところに、砂時計のようなマークが施されている。


 迎えてくれたのは、この世界で今まで見た中でも最年長であろう、髭のある片メガネの小柄な人物だ。お爺さんと言ってもいいだろう。…この世界にも割と年いった人いるのね。


 ギルドの番人は、片眼鏡を片手で支えるような仕草をしながら、名簿をめくる。正直、片眼鏡とか元の世界でしている人みたことないんだけどな。


 番人の手は、最新のページのところで止まる。


「あぁ、これだね。『タニグチ』さんと『スドウ』さんと『イトウ』さん…。3人とも生産職だね。この人たちなら、恐らくこの街の宿舎のあたりででも生活してると思うよ。3人で一緒にね。まだ来たばっかりみたいだし」


 今回は、ハコネのあの野郎のような怪しさはなさそうだ。僕は内心安堵した。


 僕たちはギルドの番人さんにお礼を言って「ナガノの宿舎」に向かう。


 ナガノの宿舎はここの斜面のちょうど中心部付近にある。事更に横幅の広い、車も入れそうな穴が空いていて、奥行きもありそうだった。


 入ると粗末なカウンターと受付があり、その奥には床置きの簡単なベッドが並んでいる。特に部屋があるわけなどではなく、ほとんどプライバシーなどはない。もとの世界の災害避難場所のようだ。こういう情景にはもう慣れたけどさ。

 

 10人程度の人が居て、よそ者の僕らに視線をぶつける。その視線はとりあえずいったん無視して、僕らは奥を見渡す。



 …そして、左奥のベッド付近に、見慣れた学校の制服の3人の女子生徒を見つけた。

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