後夜祭 ※カリナのノートつき
翌日。
カリナはほぼ回復し、タマキは逆に夜通しカリナを介抱した結果、宿でゆっくり休むことになった。
そして、僕とカリナは、「反省会」という目的の打ち合わせをハコネの酒場で開催しているわけである。
カリナの方は珍しく早めからお酒を飲み始めて、少し顔が紅潮していた。
席は前回と同じく右奥。時間帯が早いのでまだ他のお客さんはおらず、昨日と同じくちょびヒゲのマスターがカウンターに立っていた。僕らのテーブルにはグラス2つとおつまみ代わりの皿に載ったポテチである。
「情報量が多すぎて…、ほんとに何が何やら、ね。あそこまで色々衝撃的なことを大量に聞くのは初めてだわ」
この世界「歴」が長いカリナにとっても、ジントの話していた内容は驚愕だったらしく、カリナはやれやれ、といった調子で手首を曲げてつまむようにチップスを挟み、口元へ運んだ。
いつも少し張り詰めた感のあるカリナにしては、ずいぶんと気だるげな態度。
「少し情報を整理したいんだけど…、まずはあきら、前提」
「ん?」
「まずは、全てはあのジントが頭おかしいとか、妄想とか、嘘言ってるとか、そういう可能性。どう思う?」
そもそも論か。まずはその辺りの前提は同意しないと、これからの話にならないよね。
「ない…と思う」
「理由は?」
「…1人の人が妄想してるのはありえるかもしれないけど、『ジント』って奴、仲間もいたし。妄想に周囲が協調してくれるって、なかなか難しいんじゃないかな。……それに、あの『コクトー』とかいう剣の子? とは知り合いみたいだったよね。そういう奴を相手にしている態度じゃなかったと思う」
カリナがポテチを1枚咥えながら、少し上目遣いに僕を見た。
「そうね。そこは私も同意。じゃぁそこは疑わない方針で」
カリナは咥えながら僕のノートをペラペラとめくり、そこに無言でボールペンを走らせはじめる。
■ジント一味
ジント Lv95 召喚師
イガラシ Lv92 暗黒騎士
リノ Lv91 賢者
カリナがさくっと一味のLvと職を書き出す。
「悪いけど、2人のフルネームは忘れた。ジントの名字は『トダ』って言ってたかな…。あきら、おぼえてる?」
「覚えてない」
そもそも僕は解析魔法の結果を見たわけじゃないのだ。これだけカリナが覚えているのがありがたい。
カリナは少し頷いて「トダ」と小さく書き足す。
「このLv帯と職業は、カリナはどう思う?」
「……まずは職業。3つとも聞いたことない。そしてLvもちょっと信じられないな。ちょくちょく出てきた40層の討伐隊のときも、最高LvのメンバーでもLv40以下。そこから特訓をしてたって、40ちょいくらいまでしかいけないんじゃないかな…? 30以上はLvが凄く上がりづらい、って聞くし」
カリナがグラスを1度傾けて飲んだあと、また話しだした。
「あいつは『世界が終わって、初期化してまた始まる』と言ってた。それが真実で、それをあいつが知っている、というなら、あいつらだけは、何かの方法で『初期化されてない』ことになるのよね。」
そうだ。「初期化」されているなら、「初期化された記憶」すら残っていることはおかしいはずだ。
「あるいは、『ステータスを偽造して見せる魔法』とかだけど、そんな存在知らないし、そこまで向こうがする意味もない」
「……そうだね」
「『シブヤの時計が7000』を指した時、だっけ? 確か前にシブヤでみたときが5480…「5−480」か。残り1520。365で割ると4.164…」
いつの間にか、カリナがマスターから電卓を借用していた。この世界ほんとになんでもありだわ。
「あいつは3年と言ってたけど、大体4年だね」
「4年って、だいぶ時間がある気がするけど、なんであいつはあんなに『時間がない』と言ってたのかな」
「さぁ…? 40層までは普通に進んでもせいぜい数日で着く。同じペースだとすれば、深層までも1ヶ月はかからない。もちろん、深い層は迷宮の度合いがマシマシとか、そういう可能性は否定できないけど」
「となると、Lv上げの時間…とか?」
「かもね、でも、元の世界で余命4年と言われたら、『短い』って思わない?」
「それはそうかも」
「そういうことかも…ね」
いつの間にかカリナはグラスを開けていて、両手を頭の後ろに組んで椅子の背もたれに沿うように背中を少し反らせた。
「…にしても、死亡宣告されても、実感わかないね。それに、奴の話が本当なら、もう私たちは何度も何度もこんなことやってるんだよね。そして、それを忘れて、次の世界でも同じことを繰り返す」
「…そうだね…」
「あきらはまだいいよ。前の世界でも度々活躍してるんでしょ? あいつの話聞く限り、私完全にモブキャラ。それも悲しいわ」
カリナは追加注文したお酒のグラスをあおる。
――それって重要か!? 誰も記憶ないのに。
そして、次の話をカリナが切り出す。
「あいつがいってた旅行者、私の中ではタマキがそうなのはほぼ確定。『イレギュラー』ってことは、過去の世界であいつが把握していない存在、ってことだから。その話と、例の、世界に出現した時間の差異の話を組み合わせると、旅行者なら、説明がつく」
そうだ。僕も、そんな気はする…。
「そうだね…」
「そろそろ、タマキに直接聞いてみてもいいと、思うんだけど?」
「でもさ、あいつは旅行者を、ヤバい奴ら、みたいに言ってたよね。タマキがそうであったと知っていて、ああいう態度を取るかな?」
「タマキがヤバい人じゃなさそうなのは見た目からも自明でしょ。あいつの言葉を借りれば、タマキがそうでも、『見聞を自分で広めてほしい』から、明言しなかっただけでしょ」
「そんなもん?」
「そんなもん。そういう感じでしょ。あいつたぶん」
そう言われて、僕は沈黙した。でも
「カリナ、このことは、やっぱり、タマキ自身が言い出すまで、黙っておけないかな?」
「……そういうと、思ってたよ。お人好しだからね。あきらは」
「ごめん。でも、タマキ、ナガノに行きたいって言ってた。少なくとも、それまでは」
カリナは、酒場の天井を少し見つめて、少し静かに逡巡して、言った。
「わかってるよ。少なくとも、それまでは待つ。もう、乗りかかった船。落ち着くまでは着いていく」
「…『外からログインする奴がいる』なら、『外の世界が存在する』 ってこと。タマキが話してくれれば、色々わかるはず」
そういえば、もう1つ気になったことがある。
「あいつ、『イミグラント』って言ってたよね? どういう意味?」
「イミグラント…っていうのは、英語で『移民』とか『移住者』みたいな意味ね。恐らく1層に住んでる人とか全員をさすんでしょうけど。元の世界から『移住した」ということで」
移民…か。旅行者に対して移住者。旅行者は、旅行が終わったら、自分の国や街、住み慣れた世界に帰る。
でも、移民は違う。生活基盤がもうこちらに移ってしまっている。簡単には戻れないし、『難民』などなら、そもそも戻りたくても戻れない場合も多いだろう。
僕が考えているのをカリナが察したのか、言葉を続けた。
「あいつはあれだけのことをしているのに、元の世界には戻れていない。そして私たちは移住者。やっぱり、戻るのは難しい…ということなんでしょうね」
そう言って、カリナはノートをパタンと畳んだ。
カリナのノートには、タマキに関する会話内容はわざと書かないようにしているように見えた。
あとで、情報は共有しておくことにしよう。
以下には、新規の情報はありません。
カリナのノート
■ジント一味
ジント Lv95 召喚師 ←トダ。ワールド・システム・コールとかいう魔法を使う
イガラシ Lv92 暗黒騎士
リノ Lv91 賢者
■世界について
シブヤの時計が7000で世界終了。あと4年くらい。全てリセットされ新しい世界が始まる。すでに何度も起こっている
「移住者」:私たち
「旅行者」:外からログインする人。過去出現したことがある。強力・危険。戦うな
■ジントとあきら
過去の世界でたびたび会って競ったり戦ったり?
■ダンジョンについて
40層 : 頭を使え。過去あきらはクリアしている
41層 : ユリカ?なる人物。協力してくれるらしい
72〜76層 : 歪み? がある。触ると危険
95層 : ジントが居る場所
99層 : 挑戦する対象




