神人2
本部分にて語られる内容は、以降の回で簡単な振り返りが入ります。
気軽にお読み頂ければ。
僕は、反応に迷って、何も返事ができない。
「取りあえず、自己紹介しておこう。私は『戸田 神人』という。『ジント』と呼び捨てでいい」
「95層にて、我々哀れな『移住者』の救済のため研究をしている。脇にいるのは私の仲間2人だ」
その声に、「ジント」の仲間の2人が話し出す。
「『五十嵐 徹也』だ」
「『高橋 莉乃』。今回は、またあの気持ちいい夜を、過ごせるかしら?」
「…高城君? ほ、ほんとに?」
タマキが怪訝そうに僕に聞く。いや、知らないから! 知らないって!!
僕らのやりとりを見ていた神人が、少し楽しそうに言う。
「この2人は私の仲間だ。もう1人、41層に『ユリカ』という仲間がいるがな」
…「41」という言葉に、カリナが反応する。
「41層? …41層だって?」
「いかにも、41だ。今の君らの限界は40…だったかな?」
ジントが、こともなさげに、言う。
「高城」
僕は、名前を呼ばれて、不意に返事をする
「なんだ…?」
「高城、率直に言う。深層へ向かえ。あと3年ほど、シブヤの時計が『7000』に達する日に、この世界は終わる。そして、お前たちの記憶も世界もすべて、初期化され、無作為に再配置され、また、同様な世界が始まる。時間がない」
「世界が終わる…!? …95層…だって…?」
カリナが、驚愕したように言う。そして解析魔法を使う。
「解析魔法か…、構わんよ。自由にやってくれ」
「え? …え…? Lv95? 92? 91? 嘘… こんなの… だって、うちの前のリーダーだって35とか…」
「職業が召喚師、暗黒騎士、賢者…?」
タマキがその職種に反応する。
「なんですかそれ… 聞いたことが…?」
「わかってもらえたかな?」
本当に、軽くジントが答えた。そして、僕に向かってまた話し出す。
「高城、私たちとお前は、過去の世界で何度も何度も会っている。時には協力し、時には戦った。常に、おまえは私にとって有益な情報や経験をくれた」
「この輪廻では、おまえにはもう会えないと思っていたよ。…こんな終盤に、しかもこんなイレギュラーと共に現れるとはな」
「世界を変えるブレイクスルーとは、こういうときに生まれるのかもしれんな」
「ジントのおまえへの思いはもう『恋』ってやつだな!!」
そういって「イガラシ」が笑う。ニヤっと「ジント」も笑う。いや、そこは否定しておくとこだろ。
「不思議なものだよ。ステータスに何か優れた点があるわけではないのに、何度世界を繰り返しても、傑出してくるのはだいたい同じ顔ぶれだ。…これが、数値化できない『人間の強さ』なのかもしれんな」
カリナが、小さな声で、ジントに尋ねる。
「……教えて? この世界は、なんなの?」
「…『システム』に組み込まれた世界だよ。細かいことは、君らの周辺にもう答えがあると思うがね」
そういって、ジントはカリナとタマキの方を見やる。
「さて、高城。本来はお前に独自に見聞を広げてもらいたいところだが、今回は時間がなさすぎる。少しばかりショートカットとして情報を教えておこう」
「?」
「まずは40層。今回の世界で『討伐隊』がほぼ全滅した場所だ。ここは、頭を使え。過去のお前は、複数の方法でここを突破している。今回も可能なはずだ」
ジントは、言葉を続ける。
「41層。ここには我々の仲間『ユリカ』の拠点がある。伝えておくから必要なことは協力を得るといい」
「そして72〜76層。ここは広域に渡って世界に歪みが生じている。まぁ、私の実験によるものだがね。…触れると全てが『破壊不能』属性に変更される。結果的に生物は全てその生を奪われる。気をつけろ」
「最後、95層では、我々が多数の策を持ってこの層への到達者を監視している。これを回避して99層には挑戦できない」
聞いたこともない世界の話を矢継ぎ早に話されて、僕も言葉を失った。
「そして最後に。『旅行者』。見かけても、奴らとは戦うな」
「旅行者…?」
「我々『移住者』と違って、外の世界からログインしてくる連中だよ。過去の世界で何件か事例がある。こいつらは、異常な初期ステータスや特殊な固有スキルを持つ。チート的な能力で異世界で無双して、気に入らない奴に復讐して、ハーレムでも作りたいのだろうな。本当に、気に入らない連中だよ。正面切って戦ったら、私以外では太刀打ちできないだろう。…もちろん、私なら負けないがね」
そう言うと、ジントは手元のルーターに目を戻す。
「リノ、このルーターをユリカに。解析を急がせろ」
そういって、ジントが「リノ』と呼ばれた黒いチャイナドレスの女にルーターを渡す。
「了解☆。じゃあね、あきらくん、今度またゆっくり愛し合いましょうね♪」
そういって、リノと呼ばれた女は姿を消す。
心なしか、背後から冷たい空気を感じる気がする。
「さて、今日のところはこの辺にしておこうか。高城。いつかどこかの世界で、酒でも飲みながら語り合いたいものだな」
本当に、本当にわからない。
「お前は、本当に、何を言っているんだ…?」
「高城、『深層』を目指せ。全てはその中でわかる」
そう言って、ジントは、タマキとカリナのそばまで歩く。
「……!!」
タマキが、ビクッと肩をすくめて警戒の度を深める。
「そう怖がるな。……お前、『高城』を頼んだぞ。お前の力は、きっと役に立つ」
「え…あ…、はい…?」
タマキが、明らかに動揺した返事をする。
「ひとつだけ、贈り物をしよう。深層を目指す君たちへの、餞だ」
そういうと、ジントは右手の人差し指と中指を揃えて、タマキの額のあたりに向ける。
世界に静寂が訪れる。…そして、「ジント」が魔法を唱える。静かな口調で。
「世界干渉魔法 … changeAttribute … 『破壊不能』!!!」
ジントの指先に黒い、稲妻を纏うような球形が現れる。そしてそれは、急激に拡大して世界を包み、そして急激にタマキの額のあたりに収斂していく。
そして世界がまた、青い静寂に包まれる。
「彼女のメガネの属性を変更した。これでそのメガネは、『決して壊れえない』存在となった」
タマキが戸惑うように言う。
「え…え?」
「冒険の途中でメガネが損傷しては旅に支障がでよう。君と『高城』との、大事な思い出の品でもあるだろうしな」
そういって、ジントが静かに微笑んだ。
「大丈夫なんですかい? 世界干渉魔法なんてこんなことで使っちゃって」
聞いたのは「イガラシ」だ。
「構わんさ。私にとっては、これ以上に使うべきシーンはない」
「相変わらずロマンチストなことで」
イガラシの発言にジントは何も反応しない。
「ゲート オープン」
ジントが一言唱えると、ジントの前に揺らぐ楕円の黒い形が現れる。
「済まなかったな。イガラシ。それほど出番がなくて」
「構いやしませんよ。どうせ暇なことっすしね」
そういうと、ジントはこちらを振り返り話し出す。
「それではな。『高城』。近いうちにまた会おう」
そして最後に。
「…そうそう、今回のお前は『モンスターテイマー』か。……本当に、本当にお前には、よく似合う」
そんな言葉を残し、2人はゆっくりとゲートに向かった。
奴らはゲートに足を踏み込み、
そして吸い込まれるように、姿を消していった。




