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第2旅団 vs 探索者

橋本 桂里奈(ハシモト カリナ)



==


 コクトーの力は知っている。いや、知っているというのは正確じゃない。「普通じゃない」ということだけ知っているだけだ。


 攻撃スタイルは大剣をそれに見合わない速さで繰り出す連撃。当時は、コクトー以外、人間同士で戦うことはほとんどなかったから、見た目でしか判断できないけど。

 

 私はあきらとタマキから距離を取る意図もあり、広間前の通路に撤退し、そこでコクトーを待つ。通常、武器のリーチが長くなればなるほど、狭い場所では扱いづらくなるはずだ。そういう意味では、短剣主体の構成は私に有利と踏んだ。


 コクトーは特に通路で戦うことにも警戒せず、通路側まで入ってくる。十分な奥まで撤退し、コクトーに向き直った私に言う。

 

「ダンジョンの通路か。そうだな。大剣には不利かもしれんな」


 そんなことを言いながら、普通に狭い路地まで私を追ってくる。そこには、コクトーの絶対の自信が感じられた。


 いや、そもそも奴は、自分の勝敗など微塵も考えていない。ただ、与えられた環境で、いかに工夫し充実した戦いを実現するかを、自分に課しているだけだ。


「『第2旅団』は…、あんたを除いて全滅したんだっけ?」


 「第2旅団」討伐隊を構成した当時、この世界でも異質な扱いをされていたPTだ。リーダーのコクトーは、その姿と、それに全く見合わない口調も相まって、ある種腫れ物のような、そんな扱いをされていた。


「そうだな。オレしか残っていないよ」


 当然のことのように、コクトーが言う。こいつにとっては、昔の仲間も、どうでもいい存在だったのだろうか。


「『探索者(エクスプローラー)』も同じだろ。リーダー以下ほぼ全滅。生き残ったのはお前だけ」


 私は、コクトーの挑発のように聞こえる、単純な問いに答えた。


「そうね」


「…まったく、懐かしいな。上位陣はあらかた総崩れ、以降は衰退の一途だ。遊び相手も、減ったよ」


「仕方ないんじゃない?…、あの生き残りでは、40は超えられない」


「…そうだな」

 

 コクトーは、心ここにあらずといった返事を呟いた。そして、私に向かっていう。


「さて、昔話は終わりにしようぜ。大事なのは、今と、これから。お前がもう、未来を見れない老害でしかないのなら、ここで引導を渡してもいい」


「そう。…でも、今は死にたくないんだ。もう少しだけ」


 停滞していた私に、何かが動き出している。そんな気がする。ルーターのpop、そして連中がそれを知っていた理由。何かを隠しているタマキ。小さな、小さな違和感。その波紋の行く末を、見届けたい。


 コクトーは、その長剣を私に向けるように突きつけ、


「始めようぜ」


 と一言言った。



 私は1本だけ剣を抜く。脇差くらいの長さの刀っぽい剣。もう一本は果物ナイフくらいの長さの短剣があるけど、両手剣の攻撃を受け止めるのは片手持ちでは厳しい。


 この剣は、当時の鍛冶師にたのんで、「(つば)」の部分を追加している、長年愛用の剣だ。ひとまず、順手で構える。



 瞬間、場を殺気が支配する。私に緊張が走ると同時に、2mくらい先に陣取ったコクトーが踏み込む。


 そして、一瞬躍動したとほぼ同時に、額に薄い痛みが走り、音のない空気が私の上半身を駆け抜ける。顔の左側15cmほどの所に剣先が静止し、奴の服が動きの後を追うようになびいた。


「当たったか…、『当たらない』つもりだったんだがな…」


 奴は「当てない」ではなく、「当たらない」といった。私が何か反応できて、少しでも回避の動きをとれば当たらなかったギリギリの軌道。こいつはそれを、この速度で、狙ってやっているのだ。


「がっかり、させるなよ…?」


 ――「気配察知」起動。「蜘蛛の網(スパイダーズネット)」展開。


 気配察知は、普段はモンスターの察知に使っているけど、そもそもは五感を鋭敏にする能力だ。少しはマシだろう。持てるスキルを、発動させた。


 お友だちが遊びの誘いに乗ってくれたような、そんな無邪気な笑顔が、コクトーに浮かんだ。



 コクトーが一本踏み出し、大剣を上段から振り下ろす。向こうのリーチには入っているが、ギリギリ対応可能な範囲だ。バックステップで避ける。


 コクトーは態勢を崩すことなく、私の足元から左肩に抜けるように刃を導く。そして一歩踏み出して上段から。大剣がぶち当たった床からガキッと鈍い音がする。それなのに奴は特にディレイなく、再び両手を左腰のあたりまで引き戻し、体勢を前傾にして突っ込んできて強力な突きを繰り出す。


 左肩を後ろに反らせてそれを何とか回避する。奴はまた着地するやいなや左回転で水平に剣を超速で振り払う。


 私はそれを剣でなんとか1度受け止め軌道を逸らす。


 奴がそこでようやく一息ついた。


 「やるじゃないか。昔の感覚、戻ってくるだろ?」

 「……おかげさまでね」


 ギリギリ回避できているのは、さっき発動した2つのスキルのおかげだ。気配察知により、普段より一瞬早く攻撃の兆候を察知できる。


 そして蜘蛛の網(スパイダーズネット)は私の周囲に常に3メートル程度、敵の目には見えない蜘蛛の巣が床に這われていて、そこにふれた敵の俊敏さを少し落とす。


 もちろん、このスキルの利用はバレているだろうけど、やつは、それを知っているだろうに、全く意識せず、向かってくるのだ。


 そもそも、武器にこれだけリーチの差があるのだ。奴は距離を取って戦ったほうが有利なはず。



 私は次元収納からいくつもの魔石を取り出す。万一のために、小規模な爆発系の魔法を込めて貯めてきたものだ。少し後退しながら、いくつかばら撒く。地雷的な効果になるはずだ。


 コクトーが今度は突きの体勢をして突っ込んでくる。横に体を撚る。なぎ払い。振り下ろし。繰り返される斬撃がコクトーを中心に扇形を描くように現れては消えていく。抑えては居るが、向こうの大剣の長さだ。受けきれなかった部分、避けがたりなかった部分が赤く筋を引き、血が流れ出していく。すんでのところで持ちこたえてはいるが、防戦一方だ。まるで隙がない。こちらの攻撃を挟みこめない。


 まるで長年住んだ自分の部屋にいるかのように、あいつは微かに脇肘の角度を変え、上体を傾斜させ、切っ先がギリギリ壁を擦らないようにこの速度で振り回しているのだ。…もう気が遠くなる。


 ――こいつは私を即座に殺せるのに、遊んでいるだけなんじゃないか。そんな気さえしてくる。


 もう何度目かの振り下ろしの際、思い切って向こうの剣を受け流しつつ片手に持ち替え。短剣にて奴の胸部に突き出す。


 コクトーは体を反らせて後ろに跳ぶ。


 着地して即体勢をかがめ、刺突の姿勢で突っ込んでくる。こいつの動きには相変わらず「遊び」がない。私は片手のまま取り出して置いた魔石を握りしめる。自爆戦法だ。このままでジリ貧だ。転機が、必要だ。


 奴の刺突をさっきのように剣で流し、奴の体が私の体の脇にならび、止まった瞬間、魔石に込められた小規模の爆発系魔法を発動させる。不意をつく。威力は弱いが、目くらまし程度の効果があるはずだ。発動がわかっている私は、精神的に優位にたてるはず。


 爆風の中、奴の顔が見える。真っ直ぐな、鋭い眼光。まるで「怯んだ」様子がない。それを見た瞬間私の体が一瞬だけ、金縛りにあったように強張る。そこから私は、慌てて剣を向けようとし…


 奴が両手で剣を戻し、私の右の顔側面を柄で一撃する。頭全体に響く、重い衝撃。


 よろけた私の体を、奴の剣が思いきり撫でる。脇腹から左脇の下辺りに抜ける。



「ぐえっっ……」


 たまらず座り込む。もう、頭も傷もよくわからない。深い。とにかく、今死ぬんだって、わかる。


 赤い視野の上端に、ブレたあいつの足元がぼんやりと浮かぶ。


 あいつは私に近づく。



「やりすぎたな」


 そういって、私を抱えるように抱いて、口に瓶から何か飲ませる。


「回復薬だ。大丈夫。体の部位の欠落はないし、死なない」


 私は、何か言おうとして、でも、もう喉に何かが詰まっていて、咳き込むことしかできない。


「何も話すな。今仲間のメガネのところに、連れてってやる」


 そう言って、私を抱き上げた。たぶん「お姫様だっこ」というやつだ。


 それどころじゃないのに、なにか恥ずかしさがこみ上げてしまう。


 私を抱きかかえたコクトーは少しずつ歩き出す。


「なんなの…? あんたは…?」


 震える声で、濁った声で、疑問を口にする。


「別に…? 今日は、相手してもらえて楽しかった。ありがとな」

「それだけ…?」

「それ以上の、何かあるか?」


 相変わらず、こいつの神経は理解不能だ。

 かぶせるように、こいつは言うんだ。


「ここに来ている女どもの中でも、おまえは別格だよ。誰より孤高で、そして誰より勇敢で、強靭だ」

「…は?」

「惚れるよ。大事に思ってる」

「あ?」


 もう、よくわからん。


「何言ってるんだお前…?」

「別に、思ったままさ。……お前割と重いんだな…」

「うるせぇわ…」


 意識を揺るがすような傷の痛み中で、私はなぜか、これ以上ない安心感に包まれていた。

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