バトルロワイヤル
カリナはコクトーとの戦闘開始直後、ダンジョンの通路側に少しずつ下がり、コクトーに追跡をさせる形でこの部屋から退避した。
狭い通路のほうが、大剣を使うコクトーに比べ短剣を使うシーフは対応しやすいという判断だろう。部屋には僕とタマキ、そして牧野が残される。
カリナのことは心配だが、コクトーのことを知っていて、「殺されることはない」と言っていたカリナを信じるしかない。僕らはこの場で、こいつを沈めることだけ、沈めることだけ考えるんだ。
「牧野君、どうして、あんな人の言うこと聞いてるの? もうやめよう? 私たちが戦う理由なんて、ないでしょう?」
タマキが、握った手を胸のあたりに当てながら、そんなことを言った。
僕は、あの少女「コクトー」が言った通りに、少し引いて部屋の隅にルーターを置いて前線に復帰した。
あいつの思い通りに動くのは悔しいけど、自分が勝ち目が薄い相手と、やむを得ず対峙しているカリナのことを思うと、気持ちを汲んであげようと思ったんだ。
「佐原、高城、悪いな。そうも言ってられないんだよ。俺も生きていかなきゃいけないしな」
「…なにか、脅されてるの?」
「そういうわけじゃない。ただ、3層であのコクトーさんの仲間に助けられたから生き延びられた。あそこにいれば俺にもメリットがある。ここでコクトーさんに逆らうわけにも、いかないんだよ」
「だからって、同級生同士で戦わなくても…」
牧野は、少し下を向いて沈黙した後、こう語った。
「お前らも知ってるだろ? もう、元の世界じゃないんだよ。戻る方法もわからない。クラスメイトとか…もう…関係ないだろ?」
――牧野は、もう危険だ。
「タマキ、下がって! 戦闘態勢!」
タマキが僕の言葉にハッとしたように、僕を見つめた。迷いのない目。牧野に背を向け、全力でこちらに走る。僕の後ろに陣取り、次元収納から勢いよく鉈を抜く。
「タマキ、解析魔法たのむ」
「了解」
「マキノ マナブ Lv7 モンスターテイマー!」
「同職か」
僕は「モンスター収納」を解除し、割と長く同行しているワニ2匹を前衛に、熊1匹をタマキ護衛に配置。僕とタマキはLv9と10。正面からぶつかれば勝機は大きいはずだ。
「高城もモンスターテイマーか…。元の世界で喧嘩したら、お前とか相手にもならなかっただろうにな」
「…うるさいな」
僕ももう、この世界のことはある程度わかってる。元の世界で体格負けしていたとしても、この世界では別だ。タマキを守るためにも、ここは、必ず、勝利する。
奴も「モンスター収納」を解除したのか、場に3匹のモンスターが現れる。2体の全長2mはありそうなムカデと、黒いローブを羽織り、ローブのフードを深くかぶった顔を黒い闇がつつむ、魔術師タイプのモンスター。両方とも初見だ。
「…高城知っているか? モンスターテイマーのテイミング対象は、Lvには依存しない」
「え?」
「条件さえ満たせば、高レベルモンスターを使役できるんだ。簡単な話だろ」
「高城君! 気をつけて、そいつらLv12が3体!!」
一気に形勢が反転だ。
「行け、その2人を戦闘不能状態としろ! モンスターは殺せ! 魔術師は俺周囲から魔法で攻撃」
牧野の命令に合わせ、2体のムカデが突っ込んでくる。魔術師は詠唱状態に入る。
僕とワニの体が青と朱の光に包まれる。タマキの支援魔法だ。僕はワニ2匹を前面に出し中衛に控える。
1匹めのムカデが1体のワニと接敵。ムカデの大顎の一撃をワニが躱し、ムカデの尾の付け根あたりに歯を立てるが、ムカデは長い体をそのまま回すようにして大顎を繰り返しワニに突きつける。
2体目は1体目を乗り越えるような動きで前衛のワニとムカデを乗り越えこちらに迫ってくる。
「やっば!」
2体目は僕に近づくと一瞬胴体を収縮させて尺取り虫のようなポーズを取り、そこから顎を突っ込ませてくる。
少ししゃがみこみ剣を斜めに突き立てて、クワガタのような両顎の間、本体に刃をあてて押し止める。ちなみに大顎は僕の頭の上20〜30cmというところだ。
顎の内側は鋭利な刃物のように尖っており、とても普通の生物とは思えない造形だ。ムカデの本体も堅く、僕の剣で傷ついているような様子もない。
「ぐぐ…ぅ」
力比べだ。押え込んでいる間に、前衛のワニ一匹が向き直ってこちらに向かってきて、尾に噛み付く。一瞬ひるんだムカデの顔? が天井を向いた隙に僕は剣を外し、ショートソードを下から突き刺す。
その時、一瞬前方から白い光が放たれる。何本かの白い太い矢が幾筋も床にぶち当たって破片を散らせる。
「高城君っ!!」
後ろから襟口を突然引っ張られ、僕は背後にバランスを崩す。氷の刃がムカデを貫き、僕の顔があった場所に軌跡を描いて後方に吹っ飛んでいった。仲間を貫通することを認識した上で、死角から放った、ということか。
「属性防御領域!!」
「熊ちゃん、護衛解除! ワニの支援に向かって!」
熊が解き放たれたように、絡み合う前衛のワニとムカデに向かう。
なんだかよくわからないけど、タマキ絶好調だ。僕のテイミングモンスターの熊がタマキの指示を聞くのは謎だけど、PTメンバーはある程度指示を出せるのか。
「タマキ、ありがと!」
僕は向き直ると、傷ついて暴れるムカデの口から一刺しして息の根を止める。ムカデの背中側では、向こうの魔術師の氷の矢により、ムカデに噛み付いたワニが動かなくなっていた。
メイズはさらに光る球形の魔法陣をその持つ粗末な杖の先端に宿らせている。次の魔法か。
「氷魔法の防御はかけたから! 分担! 私が魔術師の方を抑えるから!」
「タマキ!? 大丈夫!?」
「大丈夫! …もう、戦えるから!」
彼女が鉈を両手でしっかり握って駆け出す。
「高城君は、牧野君を!!」
僕も走りだす。左手でムカデに苦戦するワニと熊は可哀想だが放置だ。頑張ってくれ!
この戦いで牧野はまだ動いていない。僕らとLv差がある分、直接戦闘を避けていたのだろう。
突っ込んだ僕らは、あえて隣接していた牧野とメイズの距離を離すように間に突進し、僕は左側の牧野に右側から左に振り抜くように剣を振るう。
牧野も僕と同型のショートソードを腰を引くように斜めに構え、僕の斬撃は受け止められる。僕は刃を滑らせたあと剣を少し持ち替えてそのまま奴の右半身に突き出す。刺突が奴の右脇腹を浅く削る。
「ぐっ……」
呻いた牧野の長身からの振り下ろしを左に躱す。大振りで前傾となり一瞬体が固まった時に、僕は右上に剣を薙ぎ払う。肉を切る嫌な感触が握った手から腕、そして体に伝わった。
――牧野が胸を抑えて座り込む。
僕は慌ててタマキを見る。タマキは丁度横になった魔術師を鉈でめった打ちにしていた。タマキは息を切らし、服はところどころ破れ、傷口からは赤いものが見えていた。そして、メイズは動かなくなる。タマキの普段の様子との違いに、僕は少し恐怖を覚えた。
左後方のムカデも体のあちこちから青い体液を流して力尽きていた。熊も死亡。ワニ一匹はギリギリ生きているようだ。
「タマキ、大丈夫?」
「……大丈夫。…問題ないと思う」
「わかった。後方に下がって。タマキ自身とワニにヒールを」
「了解」
タマキが体を抑えながら僕の後方に周り、ワニを保護するように少し僕と距離をおく。
僕は牧野に向き直った。
「僕らの…、勝利だ」
「……そうだな」
中腰になった牧野の胸を押さえた手の隙間から血がにじんでいる。早く処置しないと危ないだろう。
「皮肉なもんだな。高城と佐原とか…、余裕で勝てるもんだと思ってた」
「…ここは前の世界と違う、そういうことだよ」
牧野の口調は静かだ。僕は言葉を続ける。
「コクトーとかいう人も、別に殺し合いを求めてたわけじゃない。タマキの回復魔法を受けてくれ、もう危ないだろ?」
「……そうだな」
牧野は、諦めたような表情で、同じ言葉を繰り返した。




