3層2
「ところでこのダンジョンって、熊とかワニとかクモとか、もっとカッコいい名前はないの?」
「解析魔法を使えば表示されるよ。みんな面倒くさいからワニとか呼んでるだけ」
味気ないけど、確かにMMORPGなんかでも、正式名称よりはそういう通称で呼んだ気もするな。
3層のこの付近は基本的にはこのワニしか出ないらしい。タマキが1回腕をかまれることがあったものの、魔法で元に戻ったし、わりかし安定した訓練ができているような気もする。レベルも上がり、PT構成もこんな感じだ。
『■ステータス
・高城あきら(あきら) モンスターテイマー Lv8 ※Party Leader
・佐原珠希 プリースト Lv8
・橋本桂里奈 シーフ Lv28
■テイミングモンスター
ワニ * 2
熊(タマキ護衛) * 1
■ギフトボックス回収 * 1
・朝食シリアル
・たわし
・ひげ剃り
・ビニールシート * 1
・綿棒』
「さすが、上のところで戦うとLvアップが速いね」
タマキが少し嬉しそうに言った。
正直タマキがこの状況に満足しているかちょっと不安だったので、喜んでくれたのはちょっと嬉しい。
「カリナさん、ハコネに行くまでは私たちどのくらいのLvが必要ですか?」
「……安全を考えるなら12くらい。ただ…、そんなに待ってもいたくないよね。明日もうちょいやって2人がLv9になったら、向かおうか」
「本当ですか!?」
「でも、本当に危ないから。2人は私の後ろでホントに警戒すること。変なのに無理に手を出さないこと」
「もちろんです!」
ハコネに行けそうな状況になったので、タマキは本当に嬉しそうだ。メガネから覗く目が細くなっている。
「割ともう遅い時間だと思うから、今日はこの辺で野宿しましょう」
カリナは池のあるエリアから出て、通路をいくつか進んだあとの袋小路で切り出した。
このダンジョンは本当に暑くも寒くもないから、安全さえ確保できれば防寒の心配は無用だ。そのあたりはこのダンジョンの数少ない長所だろう。
カリナは手持ちの魔石を取り出していくつか探索系の魔法をかけたあと、通路上に設置していた。
僕とタマキは2人で警戒しながら、薪となりそうなアイテムを探して歩いていた。
「カリナさん、いい人だね」
「とっつきづらいところはあるけど、そうかもね」
本当に、ここに来てからの経緯を考えると、僕はカリナに頭が上がらないだろう。実際、いなければ死んでいたわけだし。
幸いにして、壊れたトロッコのような残骸があったため、そこから木片を多く回収して積み上げ、雑なキャンプファイアのような骨組みを作り、タマキが火の魔法で点火する。
「プリーストまで火の魔法を使えんの?」
「そうみたい」
「ほんとここの世界は適当だなぁ」
「…恐らく、この世界を作ったあとで、「火の魔法がいろんな職業に無いと、この世界は成り立たない」ということがわかったのね」
カリナがまた意味深なことを言う。僕らは若干反応に困って、黙り込んだ。
カリナは今日沢山倒したワニの肉を切っていたようで、どこからともなく肉を取り出すと、これまたどこからか取り出した鉄串に指して火の近くで炙りはじめる。
「カリナ、いっつも思うけど、そのアイテムどこに持ってるの?」
「次元収納だけど? あれ、テイマーってこのスキルないんだっけ?」
「次元収納?」
あれだ、ゲームとかによくあるやつ。いわゆる四次元ポケット。
「タマキも使えると思うけど?」
「ほんと? タマキ?」
「え、えぇ…、普通に、最初から使えるけど」
そのあと、2人に使い方を教わったけども、僕には使えないみたいで。僕が念じて押しだしたアイテムは、常に空を切って僕の手元に残り続けた。
その後、焼けたワニ肉を3人で食べて、横になることとした。
前にカリナから「食べ物っぽいものは火を通せば何を食べても平気」と聞いていた。これは本当にありがたい。ワニの肉も確かにろくな味付けは無いけど、普段のキノコやらに比べたらよほど美味しくて、久しぶりに僕も満腹になって床についた。
――夜半すぎ、ふと目が覚めた。
半分弱くなった火の脇で、カリナは座って、武器の手入れをしているのか、柄の部分にギリギリまで目に近づけて、体と反対側に突き出した刃の流れを目で追っていた。
カリナがこちらに目を合わせずに言う。
「目が覚めた?」
「あぁ、うん」
ふと脇を見ると、タマキが横を向いて背中を丸めた格好で寝息を立てている。
「こういうのって、たいてい、眠ってる人が寝たフリしてる感じだよね」
当人が本当に寝たフリをしていたら咳き込んでしまいそうなセリフを吐いて、カリナが静かに笑った。
こういう時って、本当は何か重要な話を聞けるタイミングだと思うけど、焚き火に照らされたカリナの澄んだ顔を見ていると、何か「このダンジョンって?」とか「カリナって昔は?」とか、カリナがここに来たきっかけとか、そういう陳腐な話を切り出せなくって、僕は黙ってカリナの整った横顔をぼんやりと眺めていた。
「あきらは、私が何故この話を受けたかわかる?」
「え?」
唐突にカリナの方から話を切り出してきたので、僕はちょっと驚いた反応をしてしまった。
――そうだ。最初にシブヤに着いたときのことを考えると、カリナには断られてもおかしくなかったのかもしれない。
黙ったままの僕に、カリナがまた話し出す。
「…簡単でしょ。あんたが、心配になったから」
「……心配って?」
「言ったまんまだけど」
「ハコネへの道が、危ないってこと?」
「……違う、…いや、違わないけど、そうじゃなくって」
カリナの応対は、何か僕には腑に落ちない。
「イチから、言わないとダメ?」
「……ごめん」
「……別に、言うよ。タマキに聞かれてもいいし」
僕は返す言葉もなくって、カリナの次の言葉を待った。
「ギルドに言ったとき、聞いたでしょう? タマキが何故、あきらのクラスメイトたちと、この世界に来たタイミングが違うのか」
「うん」
「これ、例外は今まで知らない。ほぼ間違いなく、タマキはあきらと同級生が遭ったっていう事故には遭ってないと思う。でも、そのことをあきらに黙ってる」
「……この世界では、事故や事件にあった時系列は結構メチャクチャになるけど、同じ事件や事故で来た人は、同じタイミングでこの世界に現れる。クラスメイトが一斉にハコネやナガノの名簿に現れたのも、そのせい」
「……そっか」
カリナにはそう言われたけど、何か、そこにタマキの悪意はないような気がして。僕は黙り込んだ。
「もうひとつ」
「うん……」
もう、正直聞きたくなかった。タマキを信じていたかったし。
「タマキ、シブヤでは有名だよ。目が悪くって自分で稼げなくって、援交して暮らしてた」
「エンコウ…?」
「知ってるでしょ?」
この世界にはなんかそぐわない単語で、僕は一瞬わからなかった。
「目が悪くって、仕方なかったのかもしれない。でも、私には他に手のうちようがあった気がする。ギルドに泣きついたら、邪険にはされなかったと思う」
「だからそもそも、自分で生き抜く気力が、そもそもないのかなって。そして、そんな稼業があったら、『吹き溜まり』ともつながりがあるかも、って」
「吹き溜まり」っていうのは、例の2,3層にいるチンピラ連中のことか。
「あきらみたいな鈍いガキを狙った、美人局、みたいなね」
美人局、は知ってる。誘惑してエロいことさせて、後から男が出てきてそれをネタに脅す手口だ。
「あきらは、久しぶりに知り合った人だからね。ここで目を離して死なれたら、夢見が悪いでしょ」
「そっか」
そっけない一言に、僕はカリナの優しさを感じていた。カリナは僕を心配して、メリットもない特訓とハコネ行きに同意してくれたのだ。
――でも、僕は、タマキを信じてもいいって、そう思うんだ。
「…カリナ、でも今日見ていてどうだった? タマキは、怪しいと思う?」
少し、間をおいて、カリナが言った。
「……あきらは、頭はともかくいい奴だよ。私にはわかる。なるべく、全力を尽くす。…他にすることなんて、無いしさ」
カリナは僕の質問には答えを返さなかった。でも、その態度で、彼女の気持ちが少し、わかった気がしたんだ。
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