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修行

 カリナはLv28というだけあって、やっぱり群を抜いている。僕らの戦いでは、後方の位置に徹していて普段全く手を出さない。


 そのくせ、本当にまずい状態になると即座に踏み出し、相手を一瞬で短刀で刺殺する。敵と交戦にならないのだ。カリナが動いた瞬間に戦闘が終了してしまう。


 それは、敵の攻撃範囲をカリナのそれが上回る、わずかな領域を常に識別した位置取りを行う、カリナの戦闘能力のおかげと思われた。


 この段になって、僕とタマキは、僕らの、とびっきり優秀な「先生」の能力に一定の畏敬の願いを抱いていた。


「そろそろ熊も大丈夫そうね。ドロップも溜まったし、一度シブヤで精算しましょう」

「了解です」


 ドロップというのはモンスターが落とす素材系のアイテムのことだ。


 今まではあまりなかったけど、多数モンスターを倒していると、時折倒した際にアイテムが産出することがあった。


 ダーティベアであれば、『ダーティベアの爪』であるけど、僕らは別に1枚1枚爪を剥がしているわけじゃない。それは、あくまでそうなるのが世界の当然であるかのように、倒したときに、特定の確率で、モンスターの死体のすぐ脇に現れるのだ。


 僕のモンスターは熊が3体となっていた。別に心を通わせた感じはしないので、こいつらが一斉に反旗を翻したら僕は一瞬で下剋上されてしまう気がする。



 シブヤのギルドに戻り、アイテムを精算する。素材も合わせて魔石1.2個となった。


 調達として最優先なのは僕の武器らしい。まぁ、今までその辺で拾った木の棒で戦ってきたのだから、当然か。


 シブヤの市場には、定例市の開催中以外でも、アイテムを少しでも高く捌きたい人、掘り出し物を求める人で賑わっている。


 ショートソードは生産系職の基本的な作成対象であるらしく、在庫には事欠かない。


 僕は魔石1.1個でショートソードと交換する。いよいよ、この木の棒ともお別れだ。


 僕はあえて、今まで世話になった木の棒を、シブヤの街の片隅に投げ捨てた。もう、今までの僕とは違うのだ。



 市場を出た僕を2人の仲間が迎える。


「お疲れ様。首尾良く手に入れられた?」


 僕は、購入したショートソードを鞘から抜き、カリナの前でかざす。


 カリナは黙って僕から剣を奪い取り、時に柄を逆手に持ちながら、柄と刃の接合点や刃こぼれをチェックする。流石だわ。


「まぁまぁ合格点ね。変なの買ってきたらキレて追い返すとこ」

「カリナは厳しいなぁ」

「生産職が作った同じ剣でも、質に違いがあるの?」


 僕は生産職について詳しくないので、カリナに聞いてみた。


「材料をケチらずに、通常の生産職が作れば、全く一緒のものができる。でも中古品売ってる場合もあるしね」


 カリナのチェック済みの剣をタマキが受け取って、それを片手に持ってひらひらと振っている。


 まるで子供がおもちゃの剣を持ったような動きだ。


「そんなに重くないね。いいじゃない。高城君。強くなったね」

「あ、ありがと…」


 僕はタマキのまっすぐな反応を見て少し恥ずかしくなった。もう、もう、この優しさをカリナにも持ってほしい。


「じゃぁ、あきらの武器も手に入ったことだし、少し場所を変えて特訓しようか」


 カリナの不穏な発言にタマキが反応する。


「場所を変えるって、どこに行くんですか?」

「3層くらいでどうかな」

「3層!!?」


 僕はせいぜい1層でもう少し強いモンスターが出る場所にでも案内される気がしていたので、「3層」という言葉にびっくりした。


「別に驚くところ? ギルドは深層への出入りを禁止してないし、3層程度なら別に私でも十分に対応できるし」

「タマキは、1層以外行ったことあるの?」

「ない…と思うよ」

「3層に行ったほうが、強いモンスターが居るから、成長も早くなる。ハコネに早く行きたいなら、熊狩ってるよりよっぽどいい」

「それはそう…かも」

「はい、3層に決定。これから案内するから」



 僕とタマキはカリナに連れられて1層を歩く。もうここは僕の地図にもない場所だ。

 時折速く歩くカリナを呼び止めて、地図に追記する時間をもらっている。


「1層には私の知っている限り2箇所、恐らく全部で数箇所、下の階層に降りる階段がある。今から案内するのは一番安全な場所だから、覚えておいて」

「他のは危険なんですか?」


 タマキが聞く。僕も気になるところだ。


「もう1つの私の知ってる階段は『吹き溜まり』に近い。止めたほうがいい。今から行く階段からでも、より深層に向かえるし」


「2層、3層の『吹き溜まり』って、ギルドでも聞いたけど何のこと?」

「うーん…、どういえばいいかな。シブヤもハコネもナガノも、街のルールに基づいて運用されてるんだけど」

「はい」

「『吹き溜まり』は、それに馴染めない人が住む場所」

「となると」

「早い話が、チンピラとか、ギャングとか、ヤクザとか、それ系」

「あー、そういうことですか」


「タマキ…さんは、『吹き溜まり』については知ってる?」

「いえ、名前くらい…ですね」


 カリナが久しぶりにタマキに声をかけ、タマキがそれに回答した。



 僕ら2人は、カリナの言うがまま、3層ヘ向かった。

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