カリナ再び
シブヤのギルドでのやりとりの後、査定されたアイテムを精算した。結果として魔石の欠片は2個となった。
その後、僕はタマキと今後の方針を話しあった。その中で、「やっぱりお金を使うのは厳しい」こと、「1ヶ月は待てない」ことに同意した。
それで結局、ツテを辿って用心棒依頼をかけることになり、僕たち2人の中で唯一依頼ができそうなカリナの元を、来た時作った地図を逆戻りして訪れて、無事再会したわけである。
僕らはカリナの隠れ家に案内された。大きな岩に隠れた見づらい通路から少し行った先。袋小路の隙間から入れる小部屋だ。
カリナはシーフのスキルや魔法を使って、近づく人やモンスターを察知できるようにしているらしい。
独房みたいな部屋の片隅に石や木材を積んで作った粗末なベッドと棚があり、棚にはこの世界産の食べ物に加え、元の世界の食料や日用品のストック、文庫本などが並んでいた。
「狭いけど贅沢は言わないで。私1人が過ごすために用意した部屋だから」
文句など言いようがない。この世界の人の家は見たことはないけど、シブヤの宿舎でさえ雑魚寝空間だ。ここまで部屋を作るのは苦労したに違いない。
「それで? 一緒に居る子が、例の『佐原さん』なの?」
「そう。たまたまさ、市場で出会って。同級生なんだ」
タマキが、少し怯えたように挨拶をはじめる。
「はじめまして、タマキです。」
「はじめまして。見かけたことはあるけど、話すのは初めてかな。カリナです。シーフ。Lv28」
僕らは、経緯を説明し、ハコネの街への同行を願い出た。
「それほど気乗りしない」
結果がこの通りだ。
「お金とかが要る?」
「どうせ暇だし、お金はなければなくていいんだけど。それより安全性。道中だいたい8時間、危険は危険だから。私なら大丈夫だと思うけど、途中で不意に襲いかかられたら安全は保証できない。それに、あきらはそもそもまだ武器も手に入れてないんでしょ? ちょっと焦りすぎ」
「あぁ、そうだ」
急にカリナが思い出したように言った。
「前に市場に出品した私のアイテムの件は、忘れないで。軍手とか」
……忘れてた。
「わかったよカリナ」
しぶしぶ魔石の欠片1個を手渡す。タマキへは理由を後で説明しておこう。
「結局、ご協力いただくことはできない…ということでしょうか?」
タマキが真剣そうな瞳でカリナに聞いた。
「うーん……」
性格がはっきりしたタイプであるカリナには珍しく悩んでるようだ。
少し彼女が左手を丸めておでこのあたりにあてて考えた後、
「できる限り協力する。できる限りってのは、特訓も込みでね?」
カリナの提案に、僕らは異論なかった。
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そんなわけで翌日、僕とタマキはカリナに特訓してもらうことになった。
「で…さ、まずは、あきらは武器を持たないとなんともならないのよ」
「ごもっともです」
「そんなわけで、1層のこの辺のモンスターだと、あの熊『ダーティベア』がトップクラスなので、まずはあいつを狩っていくから」
「ダーティベアって、あのカリナと最初に会ったときの熊?」
「そう」
「危なくない?」
「あいつくらい片付けられないと、なんともならないよ? まずは狩って稼ぎながらLvアップ目指して行く」
「了解」
というわけで、3人で熊狩りに出た。
カリナは気配察知のスキルがあるらしく、周囲のどのあたりにあの熊がいるのか、おおよそ察知ができるらしい。
「そこ、そこのT字路の右側。1体いる」
僕はその言葉を信じて、交差点に躍り出る。
大きな丸い影がいて、それは背中を向いている。不意に、その影の真ん中に木の棒を叩きつける。
――ゴワワワワァアアアン
まるで、お寺の梵鐘を叩いたような、そんな感覚。棒を持っている両手が痺れるように痛んだ。
僕はそのまま2,3歩バックステップし、熊を正面に見据えたまま距離を取る。
「攻撃力増加!」
「防御力増加!」
よく知らないけど、攻撃力と防御力向上のプリーストのスキルらしい。
熊が突っ込んでくるのを見て、奴の左側に回避。90度度向き直って、また棒を強く振りおろす。
――ゴスッ
さっきよりは良い音が僕の脳内に響いた。
熊はそれほど動じる様子もなく、その長く黒い爪が伸びた毛むくじゃらの左腕を斜めに薙ぎ払う。
僕はそれを察して少し後ろに引く。ただ、その爪は想像より長く、僕のお腹に斜めの「三」の字を描くような軌跡を描く。
「ぐうぅ」
奴の爪が僕の腹をこすった。それだけで、血が溢れ出るような傷となる。僕は慌てて左手で腹を抑える。それで血は止まらないと、わかってはいるのだけど。
「ヒール!!」
僕の後ろのプリーストが、僕に回復魔法を飛ばす。僕の流れ出る血が一時止まり、苦痛が和らぐ。
僕はそのタイミングで、武器の棒を奴の体の中心先に向けて思いっきり突き出す。棒の先が固いものに接触するが、僕はそこで更に力を込める。
棒は丁度奴の喉笛あたりにヒットし、そのまま押し出された奴は2メートルほど吹っ飛ばされ、喉のダメージで動きが鈍る。
そこに数歩近づいて間合いを詰め、棒でめった打ちにする。
…次第に熊の気力が衰え…ついには動かなくなる。
「お見事。一撃の威力が低いから手こずったけど、刃物系の武器を持っていたらもう少しすんなりいったと思う」
尊敬するお姉さん的存在のカリナからお褒めの言葉をもらい、少し嬉しくなる。
なんだかんだで、回復、支援の魔法を飛ばしていたタマキの貢献も大きかったはずだ。
「レベルは身体的能力を表すけど、必ずしも技術の高さと同じじゃない。技術は、数字に現れない」
カリナはそう言って僕をまた褒めてくれた。
――「レベルアップです。 高城あきら モンスターテイマー Lv6。『応急処置』のスキルが利用可能となりました」
不意に世界が暗転し、相変わらずの天の声が響く。
「『応急措置』のスキルはどう使うんだ?」
「HPが少しでも減った自身のテイミングモンスターに対して使用可能。瀕死状態から死への状態遷移を発動中防ぎます。また、状態を問わず多少のHP回復を実施します」
また、少し追加で聞いておく。
「『スキル』とはなんだ?」
「通常攻撃以外の、ユニット固有の行動能力です」
「どんなスキルがあるんだ?」
「スキルは、大きく3つに区分されます。スタンダードスキル、職業スキル、固有スキルです」
「それぞれどんなスキルなんだ?」
ここで、一瞬の沈黙が会った後、いつものように一方的に話される。
「時間制限となります。以上でレベルアップの通知を終了します」
暗転が解ける。
「Lvあがったよ。Lv6だってさ」
「あきら、こいつ、テイミングできるならしておいて」
カリナに言われて、慌てて左手をかざしてテイミングを指示する。「ダーティベア」1体がテイミングされた。
テイミングの上限は3体だったけど、先程ネズミが一匹死んだのでその穴を埋めた格好になる。
ゲームとかだと、テイミングモンスターが喋りだしたりして人情が湧いてくるが、この世界だと特にモンスターが懐くということはない。
死んだら交換の道具的な扱いのようだった。
「お疲れさま。高城君。テイマーはいいね。強いモンスターを仲間にすればすぐ戦闘で強くなれるし」
……確かにそうかもしれない。自身のLvは低くとも、この熊3体集めれば相当な戦力となるだろう。一般人相手には無双できそうだ。
「余韻に浸るのもそこまで、その影にギフトあるから、回収して」
さくっとカリナから指示が飛ぶ。その声にタマキが反応し、ギフトボックスの回収に向かう。
ギフトの中身は、メガネ拭き、虫メガネ、30cmの定規、レトルトの白米、レポート用紙。
メガネ拭きだけはタマキの私物とし、それ以外は僕のリュックにしまい込む。




