クラスメイト
シブヤに戻り、ギルドに納品。リカさんには、タマキと合流できたことを伝えた。
リカさんはちょっと驚いたような顔をしたけど、いつもどおりに査定に応じてくれた。
「はいはい、若いお2人さん、査定が終わったよー」
査定待ちの間、僕らは2人でマスターに頼んで、他の街の名簿を見せてもらっていた。
タマキは、僕と会ったことで少し自信をつけたらしく、僕以外の同級生も探したいと言い出したのだ。
そもそも、僕に会う前にもちょくちょくここで名簿を見て、同級生が来ていないか確認していたらしい。
「1層には街が3つ。シブヤ、ハコネ、ナガノ。これらの街は1ヶ月に1回くらいの頻度で、使者を送り合っているんだ。街同士は競い合っているわけじゃなくてね。たまたま3つに別れて集まっただけさ」
教えてくれたのはマスターだ。
「目的は大きく3つか4つくらいかな。まずは『名簿の交換』。それぞれの街に新たに加入した人や、いなくなった人の情報を交換する。元の世界の知り合いを探している人もいるからね。次に『不足している物資・技術の融通』。ギフトの中身には偏りがあるから、どこかの街で不足が出たりするんだ。そういう時はたいてい、他の街に余ってたりするから、それを共有しあっているんだよ。最後は『情報交換』。ダンジョンやモンスター、街の中の出来事なんかを報告する。割と最後のは、犯罪関連のこともあるからネタには事欠かない」
僕はタマキと、それを話半分に聞きながら隣の2つの街、ハコネとナガノの名簿をめくっていた。名簿は昨日シブヤに届いた最新版だ。
斜め後ろからその様子を覗いていたリカさんが口を出す。
「こんなに新たに人が来るのは久しぶりだよー。数年前まではもっともっと多かったんだけどねー、最近はぽつぽつ。異世界も少子高齢化だよ。まったく寂しいねー」
「……高城君、これ、これ!!」
タマキが指したのはハコネの名簿だ。末尾に「*」マークが着いた人物が一人居る。
「牧野 学」だ。
「備考欄」には学校名とクラスまで記載されてある。僕らのクラスだ。
「間違いない。牧野君だ」
『牧野 学』。長身で短髪。細身ではあるけど筋肉質なタイプ。バスケ部に所属していてエース格。いかにも爽やかな笑顔を浮かべる浅黒のナイスガイだ。女子にも人気がある。……相変わらず、僕はカーストが違いすぎて会話したことも数えるほどだ。
「牧野って…、タマキは親しいんだっけ?」
「……私も、そこまでは…。でも、別に必要があれば話してたし、少なくとも知り合いではあるよ。ちょっと、ナガノの名簿も見てみよう?」
ナガノの名簿の方には3人もの同級生が居そうだ。3人とも女子である。
『須藤 恵梨香』
『谷口 杏菜』
『伊藤 朱里』
この3人だ。特に谷口さんは割とタマキと一緒に居る姿を学校で見たような気がする。
「谷口さんって、タマキと仲良くなかったっけ?」
「…う、うん、そうだった。アンナもここに来たんだ」
「こうなるとむしろ、他のクラスの皆も来ているのか気になるな」
リカさんに聞いてみることにする。
「リカさん、街はこれで全部なんでしたっけ? ここと、ハコネとナガノ」
リカさんがちょっと手のひらを頬にあてて答える。
「…明らかにあるのは、1層のその3つと、2層か3層にある『吹き溜まり』、5層の『ベースキャンプ』ね。それ以降の深層にもあるかもねー。でも、基本1層の他の2つ以外とは交流はないよ。2,3層はちょっとガラ悪いし、5層は行くのも危険だしー」
「あれ、最後の2つ、初耳かも。タマキは知ってた?」
「一応、聞いたことはあるよ。行ったことはない。ハコネとナガノは、ずっと前には行ったことあると思う。道とか、あんまり覚えてないけど…」
「じゃあ、次の行動の目的はハコネかナガノだね」
「うん。確か、ハコネのほうが近いかな。牧野君がいる方」
「じゃぁハコネだ」
この世界に来てから、特に目的なく過ごしてきたので、こうやって話し合って目的を決められる状況は素直に嬉しい。
正直、牧野に会いたいかと言われると、そんなでも無いんだけど…。今2人きりだしな…。
「ハコネまでの道はどうすればいいのかな?」
「…うん、案内人を雇うか、ギルドの使者にくっついていくかだよ。どっちも少しは対価が居ると思うけど。あとはここで売ってる地図を買って2人で頑張るか」
「なるほど」
めんどくさいから「お金」って言っちゃうけど、僕らにはお金がほとんどない。お金をかける方法は選びづらいな。
「お金があんまりないから、となると地図だけ手にいれて2人で頑張る感じかなぁ? Lv上げにもなるし」
「……そうだね。それができるならそれがいいと思う」
タマキとは合意したけど、そこにリカさんが口を挟む。
「ちょっと待ってー、『後は若いお2人でごゆっくり〜』ってわけには行かないよー?」
2人で揃ってリカさんの方に向き直る。
「ハコネまでの道はギルドとして推奨Lvは『16』。覚えといてねー」
「お2人さん、解析魔法ったけど、Lv5と6。とてもじゃないけど笑顔で特攻隊を見送る精神はないわー」
「あ…、そういうものですか」
「そういうもの。もちろん、強制力が無いから『どうしても』とは言えないけどね。死にたくなかったら、人の意見は聞くべきだねー」
チート級の強さのくせに能天気な女性キャラが雑魚を脅すときに使うセリフだ。それ。
ハコネまで1度行ったことのあるらしいタマキが聞いた。
「……16というのは、1人で行く場合のものですか?」
「ん。そう。1人で8、9割大丈夫、って感じ。2人ならLv12*2人くらいが目安かな。まぁもっとも、じゃぁLv6*5人ならいいのかというと、着く頃に1人2人は棺桶の中だと思うけどー」
「タマキが、前に行ったときは何人だったの?
「……数人かな。向こうの用事に着いていっただけだから。特に私は戦ったりしてないし」
「結構辛いからこそ、定期的に自警団メインで使者を組んで行ってる。付いていけば、低レベルの人でも安心だからねー」
昨日名簿が届けられたわけだから、次回の公式な往来は1ヶ月後となる。1ヶ月間周囲で特訓を積んでおいて、使者に同行するというのは堅実な選択だけど…。
「タマキはどうしたい?」
「1ヶ月は待ちたくない。別の方法を考えようよ」
「そうだね」
というわけで、僕らは別の方法を探すことになった。




