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PT

  「佐原 珠希(サハラ タマキ)」。クラスにいた小柄で大人しいタイプの子だ。黒髪をショートボブでいかにも真面目そうな感じ…悪く言えばおかっぱ的な感じで整えていたイメージがある。


 目立たない子ではあったけど、特にいじめられていたりしたわけでなく、普通に友人がいて、普通に見えた。


 特にメガネをかけていた記憶はないけど、コンタクトレンズか手術をしていたのだろう。


 クラスでぼっちな感じだった僕は、そりゃ、キツい感じの性格のカースト上位の女子はあまりに別世界の人種で。


 佐原さんみたいな大人しめの子がタイプではあった…。けど、それでもやっぱり女子全般はあまりに遠くって。


 もっぱら僕はクラスの女子で何かを想像して1人でするとか、そういうことはなかった。



 その佐原さんが、今泣きながら僕に抱きついてきている。


 「良かった…、良かった…。ようやく知っている人に会えたよぉ…」


 彼女の背中を手の平でぽんぽんと叩いてあげる。何かかなりの苦労があったのだろう。


 ……事案とかセクハラとか痴漢とか言われないだろうな。



 やっぱり、朝から市場で抱きあっているのは周囲の注目を浴びてしまっているので、僕は彼女が少し落ち着いたのを待って、商品をざっくりまとめるとリュックにぶち込み、彼女の手を引いて市場から出た。


 シブヤの中心部分は人通りが多いので、シブヤを出てダンジョンに戻り、ちょっぴり歩いて人のいない行き止まりを見つけて、濡れていないのを確認してから座り込む。佐原さんもそれに従って座る。


 「……佐原さん…、久しぶり」


 話したことがないのに「久しぶり」という表現が適切か、一瞬悩んでしまったけどね。


 彼女は、かけ慣れていない大きなメガネごしに、少し上目使いに僕をみた。ドキッとする。あれ、こんなメガネフェチだったっけ?


 慌てていたのであまり見ていなかったけど、彼女は白いローブのようなものを来ている。RPGなんかでいう、神官とか、僧侶とか、白魔道士とか、その類の服だ。彼女の真面目そうな


 「うん、……タマキ、でいいよ。この世界だし」

 「わかった。僕のほうもあきら、でいいよ」

 「……うん。いや、ちょっと恥ずかしいかも。私はしばらくは『高城君』でいくね」


 彼女の性格なんだろうか。それとも『あまり近づくな』というメッセージなのだろうか。


 僕は頭の中の記憶や経験から色々探してみたけど、出てくるのは美少女が出てくるラブコメとかの漫画やアニメばかりだった。

 ……全くもって、役に立ちそうもない。


 彼女の方から僕に尋ねてくる。


 「高城君は最近、この世界に来たの?」

 「うん。だいたい、…10日くらい前かな」

 「10日か…。私のほうがずいぶん先にきてたみたい」

 「佐原さんが来てるって、実は昨日知ってたんだ。探す手段がわからなかったんだけど」

 

 「ギルドの名簿を見たの?」

 「うん。名簿で。…タマキは、いつ頃ここに?」


 元の世界だったら、共通の話題がなければ会話に詰まってしまうんだろうな。でも、今回は「この世界」という最大のネタがある。


 「いつ頃」というセリフに彼女が少し、行き止まりから通路の奥の闇のすぼまりに目を這わせた。


「もう、わかんない。数年、経ったんじゃないかな」

「そっか。クラスの他の誰かは見つけた?」

「ん、誰もいない。高城君が最初だよ。……もう、誰も来ないのかと思ってた。苦労したよ」

「うん…、ギルドのマスターとかが、『同じ事故や事件で来た人は、同じタイミングが多い』と聞いたよ。同じタイミングだったら、よかったのにね」


 彼女の反応が少し遅い。そして、目を相変わらず遠くに向けたままで、


「そうだね」


 と一言だけ答えた。

 その顔は凄く寂しそうで。


 僕は、彼女の力になりたい、と思った。



 そこから、僕は僕とタマキの今までについて情報を交換した。

 

 タマキには、先天性の近視が強くあること。学校ではだいたいコンタクトレンズであったこと。この世界に来たとき、メガネもコンタクトもなかったこと。

 そこから、死ぬ思いでシブヤにたどりつき、そこから苦労したこと。


 ただ、事故のときの話になると、タマキは口をつぐむことが多かった。思い出したくないのだろう。


 僕だってぼーっとバスに乗っていたら突然衝撃を受けただけで、事故前の交通状況とか、全然わからない。


 楽しい話でもないし、あまり触れないようにしていこう。


 僕の方も、別に今までそんな奇抜なことはなかったけど、この世界に来てからの顛末を伝えた。


「優秀だね。うまく適応してる」

「運がよかっただけだよ。さっき言った『カリナ』が居なかったら、熊みたいなやつに殺されてたと思うし」

「運も実力のうち、っていうじゃない? 私なんか、今まで全部ダメだった」


 暗くなってしまうので、少し話を変える。


「誰か、一緒に行動していた人はいないの?」

「……いないよ。この目じゃ、足手まといだしね。時間が経つに連れて周囲の人ともレベル差が出てきて。どうしようもなかった」

「……」


 ――話を変えようとしたけど、結局同じ沼にハマってしまった気がする。


「高城君は?」


「…一応、数日間、カリナと一緒に居て色々教えてもらったよ。今は解散したけど」

「カリナさんか…、名前は聞いたことあるよ。1人で街から離れて暮らす一匹狼タイプのシーフだよね。割と皆に信頼されてるみたい。もう、一緒には行動しないの?」


「そうだね、カリナは、何と言うか…、あんまり人にくっついて動くタイプじゃないみたい」

「……強いよね。憧れるよ」


「高城君?」

「……うん」


「よかったら、もしよかったらなんだけど、……これから一緒に行動しない? あの…、元同級生だから、多少は信頼できると思うし…、どうかな?」


 断る理由なんてない。ちょうど1人になったところだし、相手はクラスの同級生。騙されるということもなさそうだし。

 それに…、女子と2人っきりっていうのも…、正直期待がないわけでもない。


「もちろん、いいよ」

「本当!? ありがとう!」


 彼女は本当に満面の笑みを浮かべて「ありがとう」と言った。



 こうして、僕らは固定のパーティを組むことになった。少しは、まともなゲームっぽくなってきたかな。

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